放課後タイムカプセル

Scene 1:タイムカプセル埋設の日
 8月5日・土曜日。
 朝九時。私は小学校の校門の前に立っていた。
 校門には、大きな横断幕が掲げられている。赤と白の横断幕。風に揺れている。
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【放課後タイムカプセル 埋設式】
2025年8月5日
未来のあなたへ
今のあなたから
結果じゃなく、行動を約束しよう
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 小学校の校庭は、既にたくさんの人で賑わっていた。
 十年前のクラスメイト二十七人全員。
 そして——「放課後タイムカプセル」プロジェクトに参加した、全国の高校生たちが約百五十人。
 SNSで繋がり、この日のために全国から集まってくれた。北は北海道から、南は沖縄まで。初めて会う人たちだけど、みんな同じ「約束」を持っている。
 受付テーブルには、白鳥さんと宮本先生が立っている。参加者一人一人に、記念のカードを配っている。笑顔で、一人一人に声をかけながら。
 私は受付に向かった。既に何人か並んでいる。
「おはようございます」
「おはよう、陽向ちゃん。早いね」
 白鳥さんが、カードを手渡してくれた。
「はい、これ。記念のカードだよ」
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【カード表面】
放課後タイムカプセル
埋設記念カード
2025.8.5
あなたは約束しました。
未来のあなたへ。
「結果」ではなく「行動」を。
この日を忘れないで。
【カード裏面】
(二次元コード)
█████████ ███ █████████
██ ██ █ █ ██ ██
██ ███ ██ ███ ██ ███ ██
██ ███ ██ █ █ ██ ███ ██
██ ██ ███ ██ ██
█████████ █ █ █████████
このコードを読み取ると、
あなたの約束が確認できます。
また、今日の様子を
写真や動画で見ることができます。
https://houkago-timecapsule.jp
#放課後タイムカプセル
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 私は、カードの二次元コードをスマホで読み取った。カメラを向けて、ピッと音が鳴る。
 画面に表示される:
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【あなたの約束】
登録者名:橘陽向
登録日:2025年6月1日
送信予定日:2035年8月5日
【約束の要約】
十年間で十冊、絵本を完成させること。
毎年一冊ずつ、物語も絵も、全て自分で作り上げること。
出版されなくても、認められなくても、
絵を描くことを諦めないこと。
[全文を読む]
[約束を編集する]
[今日の記録を見る]
[メッセージを追加する]
[活動記録を見る]
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 すごい……ちゃんと保存されてる。十年後、本当にこのメールが届くんだ。2035年8月5日。私は二十七歳。どんな人生を送ってるんだろう。十冊の絵本、全部完成させてるかな。
 楓が隣に来た。
「橘さん、私のもちゃんとある! 見て見て!」
 楓もスマホを見せてくれた。楓の約束が、画面に表示されている。ピアノを弾き続けること。自分のために弾くこと。
「すごいね。十年後、ちゃんと届くんだね」
「うん! 楽しみだね」
 蒼と隼人も合流した。
「お前ら、ちゃんと登録されてるか?」
「うん!」
「俺のもある。十年後、本当にこの約束が届くんだな」
「楽しみだな。その時、どうなってるか」
 校庭には、大きなテントが張られている。白いテント、三つ。中には、展示スペース。参加者たちの「約束」が掲示されている。
 私たちは、展示を見て回った。一つ一つ、丁寧に読んでいく。
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【展示パネル】
北海道・17歳・男子
「十年後、『料理人になる』は約束しない。
でも『千品のレシピを作る』は約束する」
大阪・16歳・女子
「五年後、『本を出版する』は約束しない。
でも『毎日書き続ける』は約束する」
福岡・18歳・男子
「十年後、『世界一周している』は約束しない。
でも『貯金を続ける』『語学の勉強を続ける』は約束する」
東京・17歳・女子
「一年後、『自分を好きになっている』は約束しない。
でも『毎日鏡の前で笑顔を作る』は約束する」
名古屋・17歳・女子
「十年後、『親孝行できている』は約束しない。
でも『月に一度は実家に電話する』は約束する」
仙台・18歳・男子
「五年後、『結婚している』は約束しない。
でも『人を大切にする』は約束する」
沖縄・16歳・女子
「十年後、『夢を叶えている』は約束しない。
でも『夢に向かって努力し続ける』は約束する」
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 私は展示を見ながら、涙が溢れた。止まらない。
 みんな、それぞれの約束を持ってるんだ。そして、みんな「結果」じゃなく「行動」を約束してる。「〇〇になる」じゃなくて、「〇〇を続ける」。
 蒼が隣に来た。
「泣いてるのか?」
「うん……だって、みんな、すごい」
「ああ。俺たちだけじゃない。みんな、同じように悩んで、同じように約束してる」
 校庭の一角には、テレビ局のクルーもいる。全国ネットの情報番組が、取材に来ている。カメラマン、レポーター、ディレクター。大きなカメラが五台。前回の地元局の取材が話題になって、今度は全国放送での特集が決まった。
 レポーターが私たちに近づいてきた。三十代くらいの女性。
「あの、橘さんですよね? このプロジェクトを始めた四人の中の一人の」
「はい」
「少し、インタビューさせていただけますか? 全国放送の情報番組で特集を組む予定なんです」
「はい、大丈夫です」
 カメラが回る。赤いランプが点灯する。レポーターがマイクを向ける。
「このプロジェクトを始めたきっかけは?」
 私は深呼吸した。カメラの向こうに、たくさんの人がいる。
「十年前のタイムカプセルを開けて、自分が夢を諦めていたことに気づいたんです。七歳の私は『絵本作家になりたい』って書いてた。でも、十七歳の私は、その夢を諦めかけていました。『無理だ』って」
「それで?」
「でも、夢を諦めても、未来は諦めたくなかった。だから、十年後の自分と約束することにしました。ただし、『結果』じゃなく『行動』を約束する。それがこのプロジェクトです」
「『結果』じゃなく『行動』……具体的には?」
「『絵本作家になる』は約束できません。なれるかどうか、わからないから。でも『十年間で十冊、絵本を完成させる』は約束できます。『毎年一冊ずつ描き続ける』は約束できます。自分でコントロールできることだけを、約束するんです」
「素敵ですね。十年後、約束は守れると思いますか?」
 私は微笑んだ。
「わかりません。でも、頑張ります。大事なのは、『結果』が叶うかどうかじゃなくて、『行動』を守り続けることだと思うんです。そして、一人じゃないから。千五百人以上の人が、同じように約束してる。だから、守れると信じてます」
「ありがとうございました」
 カメラが止まる。赤いランプが消える。
Scene 2:それぞれの約束
 午前十時。埋設式が始まった。
 校庭の中央に、簡易ステージが設置されている。木製の、しっかりとしたステージ。マイクが用意されている。
 参加者たちは、ステージの前に集まった。百五十人以上。みんな、真剣な顔。
 宮本先生が、開会の挨拶をした。
「皆さん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます。遠くは北海道、沖縄から来てくれた人もいます。本当に、ありがとう」
 拍手が響く。
「十年前、この小学校でタイムカプセルを埋めた子供たちは、今、十七歳になりました。そして今日、新しいタイムカプセルを埋めます。ただし、今回は違います。『結果』ではなく『行動』を約束します」
 宮本先生は続けた。
「それでは、何人かの方に、自分の約束を読み上げていただきます。まず、このプロジェクトを始めた四人から」
 最初に、私。
 私は緊張しながら、ステージに上がった。階段を上る。足が震えている。百五十人以上の視線が、私に向けられている。
 私はマイクを握った。冷たい。手が震えている。
「私は、橘陽向です。十年後の私へ」
 深呼吸。みんなが、静かに聞いている。
「私が約束するのは『絵本作家になる』ことではありません。『十年間で十冊、絵本を完成させる』ことです。毎年一冊ずつ、物語も絵も、全て自分で作ります。プロになれるかどうかは、わかりません。出版されるかどうかも、わかりません。認められるかどうかも、わかりません。でも、描き続けることは、できます。完成させることは、できます。それが、七歳の私と十七歳の私の約束です」
 大きな拍手が響いた。温かい拍手。長い拍手。
 私は、ステージを降りた。楓が笑顔で迎えてくれた。
「橘さん、すごくよかったよ」
「ありがとう」
 次に、楓。
 楓はステージに上がって、マイクの前に立った。背筋を伸ばして、まっすぐ前を見つめる。
「私は、水瀬楓です。十年後の私へ」
 楓の声は、透き通っている。
「私が約束するのは『ピアニストになる』ことではありません。『ピアノを弾き続ける』ことです。誰かのためじゃなく、自分のために。親の期待のためじゃなく、自分の楽しみのために。コンクールで入賞できるかどうかは、わかりません。評価されるかどうかも、わかりません。でも、弾き続けることは、できます。音楽を愛し続けることは、できます。それが、私の約束です」
 拍手。
 次に、蒼。
 蒼はステージに上がって、少し恥ずかしそうに言った。
「神崎蒼です。十年後の俺へ」
 蒼は、空を見上げた。青い空。
「俺が約束するのは『プロの画家になる』ことじゃない。『絵を描き続ける』ことだ。美大に合格できるかどうかは、わからない。コンクールで入賞できるかどうかも、わからない。親に認めてもらえるかどうかも、わからない。でも、描き続けることは、できる。挑戦し続けることは、できる。それが、俺の約束だ」
 拍手。
 最後に、隼人。
 隼人はステージに上がって、拳を突き上げた。
「早川隼人です! 十年後の俺へ!」
 隼人の声は、力強い。グラウンドに響く。
「俺が約束するのは『プロサッカー選手になる』ことじゃない。『サッカーに関わり続ける』ことだ。選手としてじゃなく、ライターとして。あるいは別の形でも。形は変わっても、サッカーを愛し続ける。サッカーを人生から切り離さない。それが、俺の約束だ!」
 大きな拍手。
 次に、全国から来た高校生たちも、次々と約束を読み上げた。
 北海道から来た男子高校生。背が高くて、眼鏡をかけている。
「北海道から来ました。佐藤といいます。十年後、『教師になる』は約束しません。教員採用試験に合格できるかどうか、わからないから。でも『毎週、子供に教える活動をする』は約束します。ボランティアでも、塾の講師でも、形は問いません。教えることを、続けます」
 拍手。
 大阪から来た女子高校生。明るい笑顔。
「大阪から来ました。田中です! 十年後、『親孝行できている』は約束しません。何が親孝行かも、わからないから。でも『月に一度は実家に帰る』は約束します。『両親と話す時間を作る』は約束します。それが、私にできることです」
 拍手。
 福岡から来た高校生。落ち着いた雰囲気。
「福岡の山田です。十年後、『自分を好きになっている』は約束しません。自己肯定感って、簡単に上がらないから。でも『自分を否定する言葉を言わない』は約束します。『毎日、自分の良いところを一つ見つける』は約束します」
 拍手。
 東京から来た高校生。真面目そうな顔。
「東京の鈴木です。十年後、『誰かを支えられる人間になっている』は約束しません。それができてるかどうか、わからないから。でも『困っている人がいたら声をかける』は約束します。『人に優しくする』は約束します」
 拍手。
 名古屋から来た高校生。料理が好きそうな雰囲気。
「名古屋から来ました。五年後、『自分の店を持っている』は約束しません。資金もないし、経営のノウハウもないから。でも『毎日料理の練習をする』は約束します。『年間三百品のレシピを作る』は約束します」
 拍手。
 仙台から来た高校生。英語が好きそうな感じ。
「仙台から来ました。十年後、『世界で活躍している』は約束しません。そんな保証、どこにもないから。でも『毎日英語の勉強をする』は約束します。『年に一度は海外に行く』は約束します」
 拍手。
 沖縄から来た高校生。明るい笑顔。
「沖縄から来ました! 一年後、『笑っている』は約束しません。人生、辛いこともあるから。でも『辛くても前を向く』は約束します。『諦めない』は約束します」
 拍手。
 一人一人の約束が、青空に響く。そして——全員が「結果」ではなく「行動」を約束している。
 私は客席で聞きながら、涙が止まらなかった。
 みんな、それぞれの未来を信じてる。「結果」じゃなく、「行動」を。プロになれるかどうかじゃなく、続けられるかどうか。成功するかどうかじゃなく、努力し続けられるかどうか。
 楓が私の手を握った。
「橘さん……」
「楓ちゃん……」
「私たちも、信じよう。十年後の自分を」
 蒼と隼人も頷いた。
「ああ」
「約束、守るぞ」
 最後に、宮本先生がステージに上がった。
「みんな、よく来てくれた。そして、よく約束を立ててくれた」
 宮本先生は、参加者全員を見渡した。一人一人の顔を見るように。
「十年後、約束を守れる人もいれば、守れない人もいるだろう。人生は、予想通りにはいかない。挫折もある。失敗もある。諦めたくなる時もある。病気になるかもしれない。事故に遭うかもしれない。予想もしなかった出来事が起こるかもしれない」
 みんなが、真剣に聞いている。
「でも、それでいい。大事なのは、約束を立てたこと。未来を信じたこと。そして、今日、ここに集まったこと」
 みんなが頷いている。
「十年後、また会おう。その時、お互いの顔を見て、『あの時、行動を約束して良かったな』って笑い合おう。『結果』がどうなってるかは、わからない。でも『行動』を守り続けた自分を、誇りに思えるはずだ」
 大きな拍手が響いた。長い、長い拍手。
Scene 3:埋設
 午前十一時。
 全ての約束が読み上げられた。
 白鳥さんが、二つの大きな箱を持ってきた。金属製の、頑丈な箱。ステンレス製で、錆びない。
「一つ目は、紙の手紙を入れる箱。二つ目は、デジタルデータを保存したハードディスクを入れる箱です」
 参加者たちが、それぞれ書いた手紙を箱に入れていく。一人ずつ、順番に。
 私も、自分の手紙を入れた。白い封筒。十年後の自分への手紙。丁寧に折りたたんで、封をした手紙。
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十年後の私へ
 今、私は十七歳です。高校二年生。進路に悩んでいます。
 十年前、七歳の私は「絵本作家になりたい」って書きました。でも、今の私は、その夢を諦めています。才能もないし、お金もないし、現実を見なきゃいけないから。
 でも、完全に諦めたわけじゃありません。だから、約束します。
 私は、これから十年間、毎年一冊、絵本を完成させます。
 出版されなくてもいい。誰に認められなくてもいい。自分で描いて、自分で完成させる。それが、私の約束です。
 十年後、あなたは十冊の絵本を描いているはずです。その中に、傑作が一冊でもあれば、それでいい。一冊もなくても、それでもいい。大事なのは、描き続けたってこと。
 絵本作家にはなれなかったかもしれない。でも、絵本を描く人ではいられた。それが、私の答えです。
 十年後の私へ。約束、守れましたか?
——橘陽向(17歳)
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 手紙を箱に入れると、不思議な感覚がした。十年後の自分に、確かにメッセージを送った感じ。時間を超えて、未来の自分と繋がった感じ。
 この手紙は、十年間、ここで眠る。そして2035年8月5日に、開封される。その時、私はどんな人生を送ってるんだろう。十冊、全部完成させてるかな。
 全員の手紙が収められた。百五十人以上の手紙。それぞれの約束。それぞれの未来への希望。
 宮本先生が蓋を閉める。重い蓋。金属の音が響く。
「この箱は、十年後に開けられる。2035年8月5日だ」
 私たち四人が一緒に、箱を校庭の穴に運んだ。深さ二メートルの穴。既に掘られている。地面に、大きな穴。
 箱を、ゆっくりと地面に降ろす。四人で、慎重に。重い。でも、大切な重み。千五百人以上の約束が、この箱に詰まっている。
 次に、二つ目の箱——デジタルデータの箱も入れる。ハードディスクが入った箱。全ての約束が、デジタルでも保存されている。
 そして——
 参加者全員で、土をかける。
 一握り、また一握り。少しずつ、箱が土に覆われていく。
 私は土をかけながら、心の中で祈った。
 十年後の私、約束覚えててね。「絵本作家になる」は約束してない。でも「十年間で十冊、絵本を完成させる」は約束した。必ず、守ってね。辛いことがあっても、諦めないでね。
 楓も、土をかけながら祈っている。蒼も、隼人も。みんな、それぞれの祈りを込めて。
 全ての土がかけられた。箱が、完全に地面の下に埋まった。
 最後に、小さな標識を立てる。金属製の、しっかりとした標識。地面に深く刺す。
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【放課後タイムカプセル】
2025年8月5日 埋設
2035年8月5日 開封予定
27歳の君へ
17歳の君より
結果じゃなく、行動を約束した。
参加者:1,527名
この下に、1,527人の約束が眠っています。
十年後、また会いましょう。
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 埋設が完了した。
 みんなで、拍手。長い、長い拍手。何人かは、泣いている。
 私も涙を拭った。
 十年後……どうなってるかな。十冊、全部完成させてるかな。
 蒼が答えた。
「わからない。でも、楽しみだ。『結果』がどうなるかはわからない。でも『行動』は守り続ける」
 楓が言った。
「絶対、また会おうね。十年後、ここで」
 隼人が拳を突き上げた。
「約束だ!」
Scene 4:記念撮影とプロジェクトの未来
 埋設後、参加者全員で記念撮影をした。
 百五十人以上が、校庭に集まる。タイムカプセルが埋められた場所の前で。標識の前で。
 カメラマンが叫んだ。プロのカメラマン。大きなカメラを構えている。
「はい、じゃあみんな笑って! 『十年後』って言ってください!」
「十年後!」
 シャッターが切られた。カシャッ、カシャッ、カシャッ。何枚も。
 その瞬間、私は思った。
 この中の誰かと、十年後また会えるかな。その時、「結果」がどうなってるかはわからない。絵本作家になれてるか、わからない。でも、「行動」を守り続けた自分でいたい。みんなと、また笑い合いたい。
 撮影が終わって、白鳥さんが最後の発表をした。ステージの上で、マイクを持って。
「今日の写真や動画は、全て特設サイトにアップします。二次元コードから見られるので、チェックしてくださいね」
 白鳥さんは、プロジェクターのスクリーンを指した。大きなスクリーン。そこには、サイトの新しい機能が表示されている。
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【放課後タイムカプセル】
新機能追加!
タイムライン機能
→あなたの約束への道のりを記録
→日々の活動を可視化
→グラフで進捗を確認
仲間を見つける機能
→同じ約束を持つ人と繋がれる
→励まし合える
→情報交換できる
応援機能
→他の人の約束を応援できる
→「いいね」やコメント
→みんなで支え合える
一年後メッセージ機能
→一年ごとに自分へメッセージを送れる
→進捗を確認できる
→軌道修正できる
重要:全て「行動」の記録です。
「結果」ではありません。
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「これから、このプロジェクトは続いていきます。来年も、再来年も。毎年、誰かが新しい約束を立てて、未来の自分に送る。そして、みんなが『結果』じゃなく『行動』を約束する」
 宮本先生が続けた。
「そして、十年後、二十年後——それぞれの約束が届く。その時、『結果』がどうなってるかはわからない。でも、『行動』を守り続けたかどうかは、わかる。それが、このプロジェクトの本当の意味です」
 私が手を挙げた。
「あの、質問いいですか?」
「どうぞ」
「もし、約束を守れなかったら? 『行動』を続けられなかったら?」
 会場が、静かになった。みんなが、同じことを考えている。
 宮本先生は微笑んだ。
「それでもいい。大切なのは、約束を立てたこと。未来を信じたこと。そして、たとえ途中で止まっても、また始めればいい」
 みんなが、真剣に聞いている。
「『行動の約束』の良いところは、いつでも再開できることだ。『結果の約束』は、叶わなかったら終わり。『医者になる』って約束して、医学部に落ちたら、もう叶わない。でも『行動の約束』は、明日からまた始められる。一日休んでも、一週間休んでも、一年休んでも、また始められる」
 白鳥さんが続けた。
「それに、完全に守れなくても、『約束に向かって頑張った十年間』は残る。それは、誰にも奪えない宝物だよ。たとえ二年に一冊しか描けなくても、十年間で五冊は描ける。それって、すごいことだよね」
 私は頷いた。
「そうですね」
 イベントが終わって、参加者たちは各地へ帰っていく。
 北海道の人は、飛行機で。沖縄の人も、飛行機で。みんな、それぞれの場所へ。でも、みんな同じ「約束」を持って。
 私たち四人は、最後まで残った。片付けを手伝って、全部終わるまで。
 夕方。校庭には、もう誰もいない。片付けも終わった。テントも撤去された。
 タイムカプセルが埋められた場所に、四人で立った。標識だけが、静かに立っている。
 私が言った。
「今日、すごい日だったね」
 楓が頷いた。
「うん。一生忘れない」
 蒼が空を見上げた。夕焼け空。オレンジ色。
「十年後、またここに来ような。2035年8月5日」
 隼人が拳を突き出した。
「約束だ。『結果』がどうなってるかはわからない。でも『行動』は守り続けよう」
 四人は拳を合わせた。
「約束!」
Scene 5:それぞれの未来へ
 翌日。日曜日。
 日常が戻ってきた。でも、何かが変わった。心の中に、小さな灯火がともっている。
陽向
 私は、絵本の制作を続けている。
 毎日、少しずつ。放課後、一時間だけ。でも、確実にページが増えていく。
 うさぎのミミの物語。既に物語はほぼ完成している。今は、絵を描いている。一ページ、また一ページ。色を塗って、細部を描き込んで。
 今日は、ミミが森の外に出る場面を描いている。大きな太陽、広い草原、遠くの山々。ミミの不安そうな表情。でも、同時に、ワクワクしている表情。
 一冊目、完成させる。「絵本作家になる」は約束してない。でも「十年間で十冊完成させる」は約束した。
 私は、窓の外を見た。夕日が沈みかけている。綺麗な夕焼け。

 楓は、毎日音楽室でピアノを弾いている。
 勉強の合間、三十分だけ。親との約束を守りながら、自分の約束も守る。でも、その三十分が、楓の心を支えている。
 今日は、自分で作った曲を弾いている。即興で。誰も知らない曲。楓だけの曲。優しいメロディ。
 音楽があれば、頑張れる。「ピアニストになる」は約束してない。でも「弾き続ける」は約束した。

 蒼は、新しい絵を描いている。
 コンクールに落ちても、描き続ける。今度のテーマは「希望」。明るい色を使って、前を向く人々を描いている。走り出す人々。朝日に向かって。
 いつか、認められる日が来るかもしれない。でも「認められる」は約束してない。「描き続ける」は約束した。来年も、再来年も、コンクールに応募し続ける。
隼人
 隼人は、サッカーライターとしての道を歩み始めている。
 ブログで試合分析を書き、SNSで発信している。まだ読者は少ない。でも、確実に増えている。
 選手じゃなくても、サッカーに関われる。言葉で、サッカーを伝えられる。
 これが、俺の新しい道。「プロ選手になる」は約束してない。でも「関わり続ける」は約束した。

 一週間後。
 私は「放課後タイムカプセル」のサイトを開いた。部屋で、一人で。
 参加者数が表示されている。
 現在の参加者:2,341名
 二千人を超えている。埋設式から一週間で、また八百人以上増えた。そして、毎日、新しい約束が投稿されている。全て「行動」の約束。
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【最新の約束】
「十年後、『幸せになっている』は約束しない。
でも『毎日感謝の言葉を言う』は約束する」
「五年後、『海外で働いている』は約束しない。
でも『毎日英語を勉強する』は約束する」
「十年後、『家族を持っている』は約束しない。
でも『人を大切にする』は約束する」
「一年後、『自信を持っている』は約束しない。
でも『小さな成功を記録する』は約束する」
「十年後、『夢を叶えている』は約束しない。
でも『夢に向かって努力し続ける』は約束する」
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 私は、他の人の約束を読みながら思った。
 みんな、それぞれの未来を描いてる。「結果」じゃなく「行動」で。
 スマホが鳴った。蒼からLINE。
「見た? 二千人超えてる」
 二千人……!
 私は思わず画面を二度見した。埋設式から一週間で、こんなに増えたんだ。
「すごいよね」
 蒼から、すぐに返信。
「お前が始めたことだ」
 私は少し照れくさくなって、返信する。
「私たち、だよ」
「まあな。十年後が楽しみだ」
「うん。『結果』がどうなってるかはわからないけど」
「でも『行動』を守り続けてる自分でいたい」
「そうだね」
 楓からもメッセージが届いた。
「橘さん、今度の休み、一緒にピアノ聴きに行かない?」
 私の心が弾んだ。楓、また前を向いてる。
「いいね! 行く行く!」
「じゃあ、決まり。十年後も、こうして一緒にいられるといいね」
「きっと、いられるよ」
 そして隼人からも。
「お前ら、今度サッカー観戦来いよ」
「いいよ!」
 隼人の次のメッセージには、いつもの力強さがあった。
「十年後、俺がライターとして取材してる試合も見に来てくれよな」
「約束! 『ライターになる』は約束してないけど、『関わり続ける』は約束したもんね」
「その通り!」
 私は微笑んだ。
 十年後も、きっとみんなと一緒。
 窓の外を見る。夕日が、街を照らしている。オレンジ色の空。雲が、ゆっくりと流れている。
 私はノートを開いて、絵本の続きを描く。今日は、最終章。
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【うさぎのミミと、忘れられた森】
最終章:ミミの帰還
ミミは、長い旅から帰ってきました。
森の外の世界は、美しかった。
怖いこともあったけど、素晴らしいことの方が多かった。
そして、ミミは気づきました。
「森も、素晴らしい場所だった」
旅に出たから、故郷の良さがわかった。
森の仲間たちは、ミミを迎えました。
「おかえり、ミミ」
「ただいま」
ミミは笑いました。
そして、思いました。
「また、いつか旅に出よう。
でも、今は、ここが私の場所」
ミミは、森の仲間たちに、旅の話をしました。
みんな、目を輝かせて聞いていました。
「ミミ、すごいね」
「勇気があるね」
でも、ミミは思いました。
「勇気があったわけじゃない。
ただ、一歩踏み出しただけ」
おわり
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 私は、書き終えた文章を読み返した。
 まだまだだけど……これが、私の物語。七歳の私が夢見た物語。十七歳の私が完成させる物語。十冊の一冊目。
 私は「放課後タイムカプセル」に投稿した。
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【活動記録】
ユーザー名:橘陽向
日付:8月12日
絵本の最終章、書き終わりました。
物語は完成しました。
まだ絵は半分くらいしか描いてないけど、
確実に進んでます。
十冊のうちの一冊目。
「絵本作家になる」は約束してない。
でも「十年間で十冊完成させる」は約束した。
十年後の私、この物語を絵本にできてるよね?
『結果』じゃなく『行動』を信じてる。
一緒に頑張りましょう。
#放課後タイムカプセル
#絵本制作
#結果じゃなく行動を
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 すぐに、たくさんのコメントが届いた。
「おめでとう!」
「一冊目完成楽しみにしてます!」
「十冊全部完成させてね!」
「『結果じゃなく行動を』、この言葉に救われてる」
「一緒に頑張りましょう」
「私も小説、書き始めました」
「応援してます!」
 私は涙が溢れた。
 ありがとう、みんな。
 十年後、絶対に会おう。そして、笑い合おう。「約束、守ったよ」って。
【第5章 完】