Scene 1:SNSでの拡散
四人はスマホを取り出して、それぞれ投稿し始めた。
私はTwitterを開いて、投稿文を考えた。何て書けばいいかな。プロジェクトのこと、ちゃんと伝えたい。「結果じゃなく行動を」というコンセプトを、わかりやすく伝えたい。
カードの写真を撮った。二次元コードが映るように。それから、投稿文を書き始める。
【陽向の投稿(Twitter)】
十年後の自分へ約束を送るプロジェクト始めました。
でも、約束するのは「結果」じゃなくて「行動」。
「絵本作家になる」じゃなくて「絵本を完成させる」。
自分でコントロールできることだけを約束する。
みんなも、未来の自分に約束してみない?
詳しくはこの二次元コードから↓
https://houkago-timecapsule.jp
(二次元コードのカード画像を添付)
#放課後タイムカプセル
#十年後の自分へ
#結果じゃなく行動を
#高校生
投稿ボタンを押す。画面に、私の投稿が表示された。
隣では、蒼がInstagramに投稿していた。
【蒼の投稿(Instagram)】
(画像:自分の絵と二次元コードのカード)
俺の約束は「十年後も絵を描き続けること」。
「プロになる」は約束できない。
でも「描き続ける」は約束できる。
結果じゃなく、行動を約束する。
お前らも、何か約束してみないか。
詳しくは → https://houkago-timecapsule.jp
#放課後タイムカプセル
#未来の自分へ
#行動を約束する
#絵描きさんと繋がりたい
楓もTwitterに投稿していた。
【楓の投稿(Twitter)】
十年前の私は「ピアニストになりたい」って書いてた。
今の私は、その夢を諦めてた。
でも、十年後の私への約束は
「ピアノを弾き続けること」。
「ピアニストになる」は約束できない。
でも「弾き続ける」は約束できる。
あなたの約束は?
https://houkago-timecapsule.jp
(二次元コードのカード画像を添付)
#放課後タイムカプセル
#十年後の私へ
#結果じゃなく行動を
隼人もTwitterに投稿した。
【隼人の投稿(Twitter)】
怪我でサッカー選手の夢、諦めかけてた。
でも、十年後の俺への約束は
「サッカーに関わり続けること」。
「プロになる」は約束できない。
でも「関わり続ける」は約束できる。
形は変わっても、好きなことは続けたい。
みんなも、約束してみない?
https://houkago-timecapsule.jp
(二次元コードのカード画像を添付)
#放課後タイムカプセル
#結果じゃなく行動を
#サッカー好きと繋がりたい
投稿すると、すぐに反応が来た。「いいね」が増えていく。1、2、5、10……リツイート、シェアが広がる。
スマホに、通知が次々と届いた。
「いいね」されました(+1)
「いいね」されました(+1)
リツイートされました
リツイートされました
コメントも届く。
「私も参加したい!」
「『結果じゃなく行動を』っていいね」
「自分でコントロールできることだけ、確かに!」
「二次元コード読み取ってみた!」
「これ、めっちゃいい考え方」
「同じこと悩んでた。ありがとう」
「すごい……もう五十いいね超えてる」
思わず声が出た。楓も目を見開いている。
「私も! リツイートされてる。もう百人以上に届いてる」
蒼が画面をこちらに向ける。
「Instagramでも反応すごい。ストーリーでシェアしてる人もいる」
「誰か、もう登録したみたいだぞ」
白鳥さんがパソコンを確認した。
「本当だ! 参加者、十人になってる!」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【現在の参加者:10名】
最新の約束:
【ユーザー名:夢追い人】
十年後の自分へ
「音楽で食べていける」は約束しない。
でも「毎日三十分、楽器に触る」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:未来の看護師】
五年後の自分へ
「看護師になる」は約束しない。(試験に落ちるかも)
でも「毎日一時間、勉強する」は約束する。
「解剖学の本を十冊読む」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:絵を描く人】
三年後の自分へ
「イラストレーターになる」は約束しない。
でも「毎日一枚、必ず絵を描く」は約束する。
行動を約束する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
隼人が興奮を隠せない様子で言った。
「すげえ、もう広がってる! みんな、ちゃんと『行動』を約束してる!」
画面を見つめていると、じんわりと涙が溢れてきた。
「みんな、同じなんだ……」
「え?」
「みんな、『結果』を約束できなくて悩んでた。でも、『行動』なら約束できる。その考え方に、みんな救われてるんだ」
楓が静かに頷いた。
「そうだね。私たちだけじゃないんだ」
宮本先生が温かく微笑んだ。
「君たちが始めたことが、もう広がり始めてる。一人の悩みじゃない。みんなの悩みだったんだ。そして、みんなで答えを見つけられる」
白鳥さんが画面を見つめながら言った。
「これから、どんどん参加者が増えると思う。楽しみだね」
画面を見つめる。参加者数が、リアルタイムで増えていく。11名、12名、15名、18名……
そして、みんなが「行動」を約束している。
「放課後タイムカプセル」プロジェクトが、動き出した。
スマホに、また通知が来た。見ると、知らない人からのリプライだった。
「私も登録しました。『小説家になる』は約束できないけど、『毎日千字書く』は約束できる。ありがとう、このプロジェクトを作ってくれて」
涙が止まらなくなった。でも、これは悲しい涙じゃない。嬉しい涙。
Scene 2:プロジェクトの広がり
その夜、自室でサイトを見ていた。
参加者数は、五十人を超えていた。色々な人の約束が投稿されている。そして、全員が「行動」を約束している。
「参加者の約束を見る」というページを開いた。そこには、次々と新しい約束が投稿されている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【ユーザー名:音楽少女】
五年後の私へ
「プロのバンドマンになる」は約束しない。
でも「ライブに百回出演する」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:普通の高校生】
一年後の自分へ
特別な夢はないけど、
「毎日、友達に感謝の言葉を伝える」は約束できる。
小さな行動だけど、これが私の約束。
【ユーザー名:勉強頑張る】
十年後の自分へ
「医者になる」は約束しない。(試験に落ちるかも)
でも「毎日五時間勉強する」は約束する。
「医学書を百冊読む」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:絵描きの卵】
五年後の自分へ
「イラストレーターになる」は約束しない。
でも「毎日一枚は絵を描く」は約束する。
「SNSに週三回投稿する」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:バレエを続けたい】
十年後の自分へ
「プリマになる」は約束しない。
でも「週三回はレッスンに通う」は約束する。
「バレエを人生から手放さない」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:料理が好き】
五年後の自分へ
「有名シェフになる」は約束しない。
でも「週に一度は新しいレシピに挑戦する」は約束する。
「料理の勉強を続ける」は約束する。
行動を約束する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
みんな、それぞれの約束。でも、共通点がある。誰も「結果」を約束していない。みんな「行動」を約束している。
自然と笑みがこぼれる。みんな、頑張ってるんだ。
蒼からLINEが届いた。
「見た? もう五十人超えてる」
指が画面の上を滑る。
「すごいよね。みんな、ちゃんと『行動』を約束してる」
蒼から返信が来た。
「『結果じゃなく行動を』ってコンセプトが、刺さったんだな」
「うん。みんな、結果を約束できなくて悩んでたんだ」
「でも、行動なら約束できる」
「そうだね」
楓からもメッセージが届いた。
「TikTokでも広がってるね」
「本当?」
楓から動画のリンクが送られてきた。動画を開くと、高校生の女の子が映っていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【TikTok動画】
『私も参加してみた! 十年後の自分への約束』
(カメラに向かって高校生の女の子)
「私の約束は『毎日英語を三十分勉強すること』!
『留学する』は約束できない。
でも『勉強を続ける』は約束できる!
結果じゃなく、行動を約束する!」
(二次元コードをスマホで読み取る様子)
(画面に「登録完了」の文字)
「みんなも、やってみて!
https://houkago-timecapsule.jp
#放課後タイムカプセル
#結果じゃなく行動を」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
コメント欄には、たくさんのコメントが並んでいた。
「私もやってみる!」
「この考え方いい!」
「結果は約束できないけど、行動なら約束できる!」
「十年後が楽しみ」
「同じこと悩んでた」
「救われた」
画面を見つめたまま、楓にメッセージを送る。
「すごい広がってる……」
楓から返信が来た。
「『結果じゃなく行動を』ってコンセプトが、みんなの心に響いてるんだね」
「うん」
隼人からもメッセージが届いた。
「Twitterのトレンドに入りそうだぞ。#放課後タイムカプセル」
心臓が跳ねた。急いで確認する。本当だ。トレンドの二十位くらいに「#放課後タイムカプセル」が表示されている。
窓の外を見た。夜空に、星が輝いている。満月が、明るく光っている。
十年後、私はどうなってるんだろう。
でも、今は——
約束を守るために、頑張ろう。「絵本作家になる」は約束してない。でも「絵本を完成させる」は約束した。
結果じゃなく、行動を。
ワークシートをもう一度見た。
十年後の私へ。この約束、覚えててね。
スマホに、また通知が来た。サイトからの通知だった。
「参加者が100名を突破しました!」
息を呑む。急いでサイトを確認した。
URL: https://houkago-timecapsule.jp
【現在の参加者:102名】
たった数時間で、百人を超えた。
涙が溢れてきた。みんな、同じだったんだ。みんな、「結果」を約束できなくて悩んでた。でも、「行動」なら約束できる。
この考え方が、たくさんの人に届いた。
四人のグループLINEにメッセージを送る。
「みんな、見て! 参加者、百人超えたよ!」
すぐに反応が来た。
蒼から。「マジか!」
楓から。「すごい……」
隼人から。「やばいな、これ」
「私たちが始めたこと、たくさんの人に届いてる」
宮本先生からもメッセージが来た。
「すごいことになったな。このプロジェクトは、きっともっと大きくなる」
サイトをもう一度見た。参加者の約束が、次々と投稿されている。
みんな、それぞれの約束。
でも、全員が「行動」を約束している。
画面を見つめていると、胸が温かくなる。
十年後、みんなでもう一度集まろう。
そして、約束を守れたか、確認しよう。
一週間後の土曜日、小学校の図書室に四人が集まっていた。
白鳥さんが弾んだ声で報告する。
「見て、もう五百人以上が参加してる!」
パソコンの画面には、参加者数のカウンター。503名。リアルタイムで増えていく数字。504名、505名……
宮本先生も驚きを隠せない様子だった。
「すごいな……たった一週間で。最初は四人だけだったのに」
パソコンの画面には、全国からの投稿。北は北海道から、南は沖縄まで。高校生、中学生、大学生、社会人。様々な人が参加している。年齢も、職業も、住んでる場所も、全部違う。でも、みんな同じ。「結果」じゃなく「行動」を約束している。
白鳥さんが続けた。
「それでね、他の学校からも問い合わせが来てるの。『うちの学校でもやりたい』『生徒に配りたい』って。もう二十校以上から連絡が来てる」
「本当に?」
「うん。それで、カードを大量印刷することにした」
白鳥さんは、新しいデザインのカードを見せた。前回と同じデザインだけど、印刷の質が上がっている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【カード表面】
放課後タイムカプセル
未来のあなたへ
今のあなたから
結果じゃなく、行動を約束しよう
【カード裏面】
(二次元コード)
█████████ ███ █████████
██ ██ █ █ ██ ██
██ ███ ██ ███ ██ ███ ██
██ ███ ██ █ █ ██ ███ ██
██ ██ ███ ██ ██
█████████ █ █ █████████
スマホで読み取って
プロジェクトに参加!
約束するのは「結果」ではありません。
「行動」を約束してください。
「プロになる」→「練習を続ける」
「成功する」→「挑戦し続ける」
「合格する」→「勉強し続ける」
自分でコントロールできることだけを。
https://houkago-timecapsule.jp
#放課後タイムカプセル
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「これ、めっちゃいいじゃん! 前より綺麗になってる」
隼人が感嘆の声を上げた。
「でしょ? これを千枚印刷して、希望する学校に配る予定。印刷費用は、クラウドファンディングで集めることにした」
宮本先生が感慨深げに言った。
「君たちが始めたことが、こんなに広がるなんてな」
照れくさそうに笑う。
「私たち、なんかすごいことしちゃったのかな」
蒼が首を振る。
「いや、すごいのはこのプロジェクトじゃない。『結果じゃなく行動を』っていう考え方が、みんなの心に響いたんだ。俺たちは、ただそのきっかけを作っただけ」
楓が静かに続けた。
「そうだね。みんな、『結果』を約束できなくて悩んでた。『プロになれるかわからない』『成功できるかわからない』『夢が叶うかわからない』でも、『行動』なら約束できる。その考え方に、みんな救われてるんだ」
隼人が拳を握った。
「だったら、もっと広げよう。もっとたくさんの人に、この考え方を伝えよう」
白鳥さんが嬉しそうに付け加えた。
「実はね、地元のテレビ局から取材の依頼が来てるの」
「テレビ!?」
四人は、同時に声を上げた。
「うん。『高校生が始めた未来へのプロジェクト』って特集したいって。来週、取材に来るみたい」
四人は顔を見合わせた。
「すごいことになってきたね……」
画面を見つめる。参加者数が、また増えている。510名、515名、520名……
こんなにたくさんの人が、同じように悩んで、同じように約束を立てている。
Scene 3:陽向の最初の一歩
約束をサイトに登録してから三日後の土曜日、駅前の大きな本屋に立っていた。
三階の児童書コーナー。絵本がずらりと並んでいる。『ぐりとぐら』『はらぺこあおむし』『100万回生きたねこ』『スイミー』『おおきなかぶ』『てぶくろ』。懐かしい絵本たちが、本棚に並んでいる。
一冊ずつ手に取って、ページをめくった。絵のタッチ、色使い、文章のリズム。どれも違う。でも、どれも素晴らしい。子供の頃、何度も読んだ絵本たち。今改めて読むと、また違った感動がある。
『ぐりとぐら』のシンプルで温かい絵。『はらぺこあおむし』の鮮やかな色彩。『100万回生きたねこ』の深いメッセージ。
みんな、どうやって絵本を作ってるんだろう。どうやって物語を考えて、どうやって絵を描いて、どうやって完成させるんだろう。
本棚を見回した。絵本の作り方について書かれた本はないかな。実用書のコーナーに移動して、探す。デザイン、イラスト、創作……
あった。
『絵本の作り方入門』という本。表紙には、色鉛筆と画用紙のイラスト。著者は、実際に絵本作家として活動している人らしい。帯には「初心者でも絵本が作れる!」と書かれている。
手に取って、パラパラとめくった。目次を見る。
第1章:絵本とは何か
第2章:物語の作り方
第3章:キャラクターの作り方
第4章:絵の描き方
第5章:文章の書き方
第6章:完成までの道のり
各章には、具体的な例が載っている。実際の絵本の制作過程も紹介されている。これだ。これが欲しかった。
レジに向かった。定価は1,800円。少し高いけど、お年玉の残りで買える。
レジで会計を済ませて、本を受け取る。ビニール袋に入れてもらって、店を出た。手に持った本が、ずっしりと重い。でも、その重みが嬉しい。
帰りの電車の中で、早速本を読み始めた。ページをめくるたびに、新しい知識が頭に入ってくる。絵本の構造、物語の作り方、キャラクターの設定方法。
本には、こんなことが書かれていた。
【絵本の作り方 5つのステップ】
ステップ1:物語のテーマを決める
何を伝えたいのか。読者にどんな気持ちになってほしいのか。
ステップ2:登場人物を作る
主人公はどんなキャラクター? 性格は? 見た目は?
ステップ3:ストーリーを構成する
起承転結を考える。どんな出来事が起こる?
ステップ4:絵を描く
場面ごとに絵を描く。キャラクターの表情、背景、色使い。
ステップ5:文章を書く
絵に合わせて文章を書く。リズム、テンポ、言葉選び。
なるほど。まずは、テーマを決めるんだ。何を伝えたいのか。それが一番大事なんだ。
家に帰って、すぐに自分の部屋に入った。机の上に本を置いて、ノートを開く。真っ白なページが、私を待っている。
よし、やってみよう。
自分の約束を読み返した。机の引き出しから、ワークシートのコピーを取り出す。
【約束1:創作】
十年後までに、絵本を一冊、完成させること。
物語も絵も、全て自分で作り上げること。
これは「結果」じゃなくて「行動」。出版されるかどうかは約束してない。プロになれるかどうかも約束してない。でも、完成させることは約束した。だから、今はただ完成させることだけを考えよう。
ペンを握った。ノートの最初のページに、大きく書く。
【うさぎのミミと、忘れられた森】
タイトルが決まった。次は、物語のテーマ。何を伝えたい?
考えた。十年前の私が抱いていた夢。それを諦めかけていた今の私。でも、もう一度挑戦しようと決めた。
そうだ。「勇気を出して一歩踏み出すこと」をテーマにしよう。安全な場所に留まるのではなく、未知の世界に飛び込む勇気。
ノートに書き始めた。
【テーマ:勇気を出して一歩踏み出すこと】
次に、登場人物。主人公は、うさぎのミミ。中学の時に描いた、あのうさぎ。大きな耳と、好奇心いっぱいの目。臆病だけど、心の中では冒険に憧れている。
中学時代に描いた絵を引き出しから取り出した。色褪せた画用紙。でも、確かにここにある。ミミの絵。赤いリボンをつけた、可愛いうさぎ。
そうだ、あれを膨らませてみよう。あの時は、ただ描いただけだったけど、今度はちゃんと物語にしよう。
ペンが動き出す。
【うさぎのミミと、忘れられた森】
第1章:ミミの夢
むかしむかし、忘れられた森に、
一匹のうさぎが住んでいました。
名前はミミ。
ミミには、夢がありました。
「いつか、大きな世界を見てみたい」
でも、森の外に出る勇気がありませんでした。
みんなは言いました。
「森の外は危ないよ」
「ここにいれば安全だよ」
「外には怖いものがいっぱいあるよ」
でも、ミミは思いました。
「本当にそうかな?」
「外の世界は、本当に怖いだけなのかな?」
ある日、ミミは森の入り口まで行ってみました。
そこから見える景色は、とても綺麗でした。
青い空、広い草原、遠くに見える山々。
ミミは思いました。
「行ってみたい」
でも、足が震えました。
「怖い……でも、行きたい」
ミミは、一歩だけ、森の外に足を踏み出しました。
手が止まらない。物語が、頭の中から溢れ出してくる。ミミが森の外に出る決意をする場面。初めて出会う動物たち。リスのチロ、キツネのアカネ、フクロウのホー先生。困難を乗り越えながら、成長していく姿。
第2章では、ミミが初めて出会うリスのチロとの友情。第3章では、道に迷って不安になるミミ。第4章では、フクロウのホー先生から「勇気とは何か」を学ぶ場面。
気づけば、三時間が経っていた。
時計を見ると、もう夕方の五時。窓の外は、オレンジ色に染まっている。夕日が、部屋の中まで差し込んでいる。
ノートには、物語の骨組みが出来上がっている。第1章から第3章まで、ざっと書き上げた。まだ粗いけど、形になっている。全体で十二章構成にしよう。ミミが旅に出て、様々な出会いを経験して、最後に自分の居場所を見つける物語。
自分の書いた文章を読み返した。
私、できるかも!
そして、気づいた。
あれ……私、今「絵本作家になる」ことを考えてない。ただ「絵本を完成させる」ことだけを考えてる。出版されるかどうか、認められるかどうか、プロになれるかどうか。そんなこと、全然考えてない。
頬が緩んでいくのがわかる。
そうか。「結果」を気にしなくていいから、「行動」に集中できるんだ。出版されるかどうか、認められるかどうか、そんなこと考えなくていい。ただ、完成させればいい。それだけでいい。
スマホで、ノートの写真を撮った。それから、「放課後タイムカプセル」のサイトにログインする。
URL: https://houkago-timecapsule.jp
サイトには、「活動記録」という機能がある。約束に向かって、どんな行動をしたかを記録できる機能。他の参加者の記録も見られる。みんなの頑張りが見える。
活動記録を投稿した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【活動記録】
ユーザー名:橘陽向
日付:6月2日
今日、絵本のストーリーを書き始めました。
タイトルは「うさぎのミミと、忘れられた森」。
まだ第1章から第3章の骨組みだけだけど、
十年ぶりに物語を書いて、すごく楽しかった。
「絵本作家になる」は約束してない。
でも「絵本を完成させる」は約束した。
だから、出版されるかどうかは考えない。
認められるかどうかも考えない。
ただ、完成させることだけを考える。
そうしたら、不思議なことに、
すごく楽しく書けた。
プレッシャーがないって、こんなに自由なんだ。
十年後の私、この物語完成させてるよね?
#放課後タイムカプセル
#絵本制作
#結果じゃなく行動を
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
投稿すると、すぐに「いいね」やコメントが届いた。
「頑張って! 応援してます!」
「私も小説書き始めました! 一緒に頑張りましょう!」
「完成したら読みたい!」
「『結果は考えない、行動だけを』いい言葉!」
「一緒に頑張りましょう!」
「プレッシャーがないって、本当にそうですね」
「私も同じこと感じました」
画面を見つめていると、胸が温かくなる。
一人じゃないんだ。みんな、同じように約束に向かって頑張ってる。みんな、「結果」じゃなく「行動」に集中してる。
Scene 4:楓のピアノ
楓は、放課後、音楽室へ向かっていた。
何年ぶりだろう。ピアノの前に座るのは。
廊下を歩きながら、楓の心臓は高鳴っていた。本当に、弾けるんだろうか。指は、まだ覚えているんだろうか。コンクールで失敗してから、もう三年も弾いていない。
音楽室のドアの前に立つ。深呼吸をして、ドアノブを回す。手が震えている。
ドアを開けると、誰もいなかった。
グランドピアノが、静かに佇んでいる。黒く光る、美しいピアノ。楓が何年も前に、毎日何時間も弾いていたピアノ。あの頃は、このピアノが世界の全てだった。
楓は恐る恐る近づいた。ピアノの前に立って、鍵盤カバーを開ける。カバーを持ち上げる音が、静かな音楽室に響く。
白と黒の鍵盤。懐かしい。88鍵。一つ一つが、楓の記憶を呼び起こす。
楓は椅子に座った。椅子の高さを調整して、姿勢を正す。背筋を伸ばして、肩の力を抜く。先生に何度も何度も言われた姿勢。
「楓ちゃん、肩に力入ってるわよ」
「もっとリラックスして」
指を鍵盤に置く。冷たい。ずっと触れていなかった鍵盤は、冷たくて、よそよそしい。まるで、楓のことを忘れてしまったみたいに。
楓は自分の約束を思い出した。
【約束1:継続】
十年後も、ピアノを弾き続けていること。
週に最低二回、三十分以上弾くこと。
「ピアニストになる」は約束してない。「コンクールで入賞する」も約束してない。でも「ピアノを弾き続ける」は約束した。
楓は深呼吸した。
上手く弾けなくてもいい。コンクールで入賞できなくてもいい。それは「結果」だから。ただ、弾き続ける。それが私の「行動」の約束。
ゆっくりと、一つの鍵を押す。
「ド」の音が響いた。
音楽室に、澄んだ音が広がる。その音は、楓の心に染み込んでいく。懐かしい音。何年も聴いていなかった音。
次に「レ」、そして「ミ」。
簡単な音階を弾く。
「ドレミファソラシド」
上がって、下がって。指が、少しずつ思い出していく。筋肉が、記憶を呼び起こしていく。体が覚えている。何年も弾いていなくても、体は覚えている。
ショパンの「ノクターン」第2番。
楽譜はない。でも、体が覚えている。指が覚えている。何百回、何千回と弾いた曲。コンクールで弾いた曲。失敗した、あの曲。
楓は目を閉じて、弾き始めた。
最初はぎこちない。指が思うように動かない。音が途切れる。間違える。テンポも揺れる。でも、構わない。
少しずつ——
メロディが流れ出す。
ショパンの優しいメロディが、音楽室に響く。楓は目を閉じたまま、弾き続ける。指が鍵盤を滑るように動く。左手が和音を奏でて、右手がメロディを歌う。
音楽が、体を通り抜ける。心が、軽くなる。何年も抱えていた重荷が、少しずつ消えていく。完璧に弾かなきゃいけないというプレッシャー、評価されなきゃいけないという焦り、そんなものが全部、音楽と一緒に流れていく。
これだ……これが、私のやりたかったこと。
音楽を楽しむこと。ただそれだけ。
曲が終わった。
楓は目を開けて、涙を拭った。いつの間にか、涙が溢れていた。でも、これは悲しい涙じゃない。嬉しい涙。解放された涙。
今の演奏、下手だったと思う。音も途切れたし、間違えた箇所もあった。テンポも不安定だった。でも、いいんだ。
「上手く弾く」は結果。「弾き続ける」が行動。私が約束したのは、行動だから。結果がどうであれ、弾き続けることが大事。
楓はスマホを取り出して、「放課後タイムカプセル」のサイトを開いた。
URL: https://houkago-timecapsule.jp
活動記録を投稿する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【活動記録】
ユーザー名:水瀬楓
日付:6月3日
今日、何年かぶりにピアノを弾きました。
指は思うように動かなかったけど、
すごく楽しかった。
「ピアニストになる」は約束してない。
「上手く弾く」も約束してない。
「コンクールで入賞する」も約束してない。
でも「弾き続ける」は約束した。
だから、今日の演奏が下手でもいい。
大事なのは、弾いたこと。
結果を気にしなくていいって、
こんなに自由なんだって初めて知りました。
これから、週に二回は必ず弾きます。
十年後の私、まだピアノ弾いてるよね?
#放課後タイムカプセル
#ピアノ
#結果じゃなく行動を
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
投稿すると、すぐに「いいね」やコメントが届いた。
「応援してます!」
「私もピアノ再開しました!」
「楓さんの投稿見て勇気もらいました」
「一緒に頑張りましょう!」
楓は柔らかく笑った。
四人のグループLINEを開く。
陽向から投稿があった。
「今日、絵本のストーリー書き始めた!」
楓もメッセージを送る。
「私も今日ピアノ弾いた。すごく楽しかった」
すぐに返信が来た。
陽向から。「楓ちゃん、良かったね!」
蒼から。「お互い、動き出したな」
隼人から。「みんな頑張ってるな。俺も負けてられない」
楓は画面を見つめながら、微笑んだ。
みんな、それぞれの場所で、約束に向かって動き出している。
Scene 5:蒼と隼人の変化
蒼の場合
美術室。放課後の静かな部屋で、蒼は再びコンクールの応募要項を見ていた。
「高校生絵画コンクール……」
B4サイズの紙。あの時、親に見つかって怒られた。応募要項を破り捨てられそうになった。「絵で食えるわけがない」って。
でも、約束を立ててから、何かが変わった。
蒼は自分の約束を読み返した。スマホで、約束のページを開く。
URL: https://houkago-timecapsule.jp/mypage
【約束3:挑戦】
毎年、最低一回はコンクールか展示会に応募すること。
入賞するかどうかは約束しない。
でも、挑戦し続けることは約束する。
「入賞する」は結果。約束してない。でも「応募する」は行動。これは約束した。
親に反対された。でも、俺が約束したのは「入賞する」ことじゃない。「挑戦し続ける」ことだ。
蒼は決めた。
もう一度、出してみよう。親に見つからないように。入賞できなくてもいい。評価されなくてもいい。ただ、挑戦する。それが俺の約束。
蒼は新しいキャンバスを準備した。F30号サイズ。大きなキャンバス。真っ白な画布が、蒼を見つめている。
テーマは「未来」。
蒼は筆を握って、色を選んだ。今まで描いてきた抽象画とは違う。今回は、具体的な形を描こう。人の姿を描こう。走り出す人々を描こう。
蒼は下書きをせずに、直接筆を走らせた。青、赤、黄色、緑。色が混ざり合って、キャンバスの上で踊る。
走り出す人々。それぞれが、違う方向を向いている。でも、みんな前を向いている。朝日に向かって、走り出している。背景には、大きな太陽。地平線から昇る朝日。新しい一日の始まり。
蒼は何時間も、何日も、絵を描き続けた。放課後、毎日美術室に通った。色を塗って、修正して、また塗って。細部にこだわって、全体のバランスを見て、また細部に戻って。
これが、俺の描きたいものだ。これが、俺の「未来」。
数日後、作品が完成した。
蒼は完成した絵を見つめた。走り出す人々。それぞれが、違う服を着て、違う表情をしている。でも、みんな前を向いている。朝日に向かって、走り出している。希望に満ちた絵。
タイトルは『走り出す朝』。
蒼は作品にサインを入れた。右下に、小さく「Aoi」と。
蒼は作品を写真に撮って、「放課後タイムカプセル」に投稿した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【活動記録】
ユーザー名:神崎蒼
日付:6月5日
コンクールに応募する作品、完成しました。
タイトルは『走り出す朝』。
テーマは「未来」。
前に親に反対されて諦めかけたけど、
約束を立ててから、もう一度挑戦する勇気が出た。
「入賞する」は約束してない。
「評価される」も約束してない。
結果は、神様に任せる。
でも「応募する」は約束した。
挑戦し続けることは約束した。
だから、明日、応募します。
結果がどうであれ、
挑戦したこと自体が大事。
十年後の俺、まだ描いてるよな?
まだ挑戦し続けてるよな?
#放課後タイムカプセル
#絵画
#結果じゃなく行動を
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
隼人の場合
サッカーグラウンド。放課後の練習が終わった後、隼人はコーチに相談していた。
「先生、俺……将来、コーチになりたいんです」
「コーチに?」
コーチは、五十代くらいの男性。隼人がサッカーを始めた頃から、ずっと指導してくれている恩師だ。厳しいけど、優しい先生。
「はい。選手としてプロになるのは無理でも、サッカーに関わり続けたい。膝の怪我で、選手としては限界だって、わかってます」
隼人は自分の約束を思い出した。
【約束1:関わり続ける】
十年後も、サッカーに関わり続けていること。
選手として、コーチとして、審判として、
あるいは別の形でも。
「『プロ選手になる』は約束してない。『日本代表になる』も約束してない。でも『サッカーに関わり続ける』は約束した。だから、形が変わってもいいんです。選手じゃなくても、サッカーに関われれば」
コーチは深く頷いた。
「いい目標だな。早川、よく考えたな」
「ありがとうございます」
「でも、簡単じゃないぞ。コーチになるのも、選手になるのと同じくらい大変だ」
「わかってます」
「指導者ライセンス、取らないとな。それに、教える技術も必要だ。サッカーができることと、サッカーを教えられることは、別だからな。技術も、戦術も、心理学も、全部勉強しないといけない」
「はい! 全部勉強します」
コーチは柔らかく笑った。
「じゃあ、今日から練習のアシスタントやってみるか? 実際にやってみないと、わからないこともあるからな」
「本当ですか!?」
「ああ。早川、副キャプテンだし、後輩に教えるのも上手いからな。実際にやってみて、コーチの仕事を体験してみろ。向いてるかどうかも、やってみないとわからない」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
隼人は、新たな目標に向かって走り出した。
その日の練習から、隼人は一年生の指導を手伝った。基礎練習のやり方を教えて、フォームを直して、声をかける。パスの出し方、トラップの仕方、シュートのフォーム。一つ一つ、丁寧に教える。
「そう、もっと軸足をボールの横に置いて」
「トラップは、足を柔らかく使って」
「シュートは、膝から下を振り抜いて」
教えるのは、思ったより難しい。自分ができることと、それを人に教えることは、全然違う。どう説明すればわかりやすいか、どう示せば伝わるか、考えながら教える。
でも、すごく楽しい。一年生が上達していく姿を見ると、嬉しい。「ありがとうございます!」って言われると、やりがいを感じる。
膝はまだ痛い。走ると、鋭い痛みが走る。選手としては限界かもしれない。でも——
俺には、まだやれることがある。サッカーを教えることができる。次の世代を育てることができる。
練習後、隼人も活動記録を投稿した。
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【活動記録】
ユーザー名:早川隼人
日付:6月5日
今日から、コーチのアシスタントを始めました。
後輩に教えるの、思ったより難しい。
自分ができることと、教えることは全然違う。
でも、すごく楽しい。
後輩が上達していく姿を見ると、嬉しい。
「プロ選手になる」は約束してない。
「日本代表になる」も約束してない。
でも「サッカーに関わり続ける」は約束した。
形は変わったけど、約束は守ってる。
選手としての道は閉ざされたかもしれないけど、
コーチとしての道が開かれた。
これが、俺の新しい道かもしれない。
十年後の俺、いいコーチになってるよな?
#放課後タイムカプセル
#サッカー
#結果じゃなく行動を
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四人は、それぞれの約束に向かって、歩き始めた。
陽向は絵本を書き、楓はピアノを弾き、蒼は絵を描き、隼人はコーチとして後輩を教える。
「結果」は約束してない。でも「行動」は約束した。
それぞれの約束を、それぞれの形で、守り始めた。
週末、四人は再び小学校の図書室に集まった。それぞれの一週間を報告し合う。
「みんな、動き出したね」
陽向が柔らかく笑う。
「うん。約束に向かって、一歩ずつ」
楓も頷いた。
「これから、どんなことが待ってるんだろう」
蒼が静かに言った。
「わからない。でも、約束は守る」
隼人が拳を握った。
「十年後、胸張って会えるように」
四人は微笑み合った。
窓の外には、青い空が広がっている。
【第3章 完】
四人はスマホを取り出して、それぞれ投稿し始めた。
私はTwitterを開いて、投稿文を考えた。何て書けばいいかな。プロジェクトのこと、ちゃんと伝えたい。「結果じゃなく行動を」というコンセプトを、わかりやすく伝えたい。
カードの写真を撮った。二次元コードが映るように。それから、投稿文を書き始める。
【陽向の投稿(Twitter)】
十年後の自分へ約束を送るプロジェクト始めました。
でも、約束するのは「結果」じゃなくて「行動」。
「絵本作家になる」じゃなくて「絵本を完成させる」。
自分でコントロールできることだけを約束する。
みんなも、未来の自分に約束してみない?
詳しくはこの二次元コードから↓
https://houkago-timecapsule.jp
(二次元コードのカード画像を添付)
#放課後タイムカプセル
#十年後の自分へ
#結果じゃなく行動を
#高校生
投稿ボタンを押す。画面に、私の投稿が表示された。
隣では、蒼がInstagramに投稿していた。
【蒼の投稿(Instagram)】
(画像:自分の絵と二次元コードのカード)
俺の約束は「十年後も絵を描き続けること」。
「プロになる」は約束できない。
でも「描き続ける」は約束できる。
結果じゃなく、行動を約束する。
お前らも、何か約束してみないか。
詳しくは → https://houkago-timecapsule.jp
#放課後タイムカプセル
#未来の自分へ
#行動を約束する
#絵描きさんと繋がりたい
楓もTwitterに投稿していた。
【楓の投稿(Twitter)】
十年前の私は「ピアニストになりたい」って書いてた。
今の私は、その夢を諦めてた。
でも、十年後の私への約束は
「ピアノを弾き続けること」。
「ピアニストになる」は約束できない。
でも「弾き続ける」は約束できる。
あなたの約束は?
https://houkago-timecapsule.jp
(二次元コードのカード画像を添付)
#放課後タイムカプセル
#十年後の私へ
#結果じゃなく行動を
隼人もTwitterに投稿した。
【隼人の投稿(Twitter)】
怪我でサッカー選手の夢、諦めかけてた。
でも、十年後の俺への約束は
「サッカーに関わり続けること」。
「プロになる」は約束できない。
でも「関わり続ける」は約束できる。
形は変わっても、好きなことは続けたい。
みんなも、約束してみない?
https://houkago-timecapsule.jp
(二次元コードのカード画像を添付)
#放課後タイムカプセル
#結果じゃなく行動を
#サッカー好きと繋がりたい
投稿すると、すぐに反応が来た。「いいね」が増えていく。1、2、5、10……リツイート、シェアが広がる。
スマホに、通知が次々と届いた。
「いいね」されました(+1)
「いいね」されました(+1)
リツイートされました
リツイートされました
コメントも届く。
「私も参加したい!」
「『結果じゃなく行動を』っていいね」
「自分でコントロールできることだけ、確かに!」
「二次元コード読み取ってみた!」
「これ、めっちゃいい考え方」
「同じこと悩んでた。ありがとう」
「すごい……もう五十いいね超えてる」
思わず声が出た。楓も目を見開いている。
「私も! リツイートされてる。もう百人以上に届いてる」
蒼が画面をこちらに向ける。
「Instagramでも反応すごい。ストーリーでシェアしてる人もいる」
「誰か、もう登録したみたいだぞ」
白鳥さんがパソコンを確認した。
「本当だ! 参加者、十人になってる!」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【現在の参加者:10名】
最新の約束:
【ユーザー名:夢追い人】
十年後の自分へ
「音楽で食べていける」は約束しない。
でも「毎日三十分、楽器に触る」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:未来の看護師】
五年後の自分へ
「看護師になる」は約束しない。(試験に落ちるかも)
でも「毎日一時間、勉強する」は約束する。
「解剖学の本を十冊読む」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:絵を描く人】
三年後の自分へ
「イラストレーターになる」は約束しない。
でも「毎日一枚、必ず絵を描く」は約束する。
行動を約束する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
隼人が興奮を隠せない様子で言った。
「すげえ、もう広がってる! みんな、ちゃんと『行動』を約束してる!」
画面を見つめていると、じんわりと涙が溢れてきた。
「みんな、同じなんだ……」
「え?」
「みんな、『結果』を約束できなくて悩んでた。でも、『行動』なら約束できる。その考え方に、みんな救われてるんだ」
楓が静かに頷いた。
「そうだね。私たちだけじゃないんだ」
宮本先生が温かく微笑んだ。
「君たちが始めたことが、もう広がり始めてる。一人の悩みじゃない。みんなの悩みだったんだ。そして、みんなで答えを見つけられる」
白鳥さんが画面を見つめながら言った。
「これから、どんどん参加者が増えると思う。楽しみだね」
画面を見つめる。参加者数が、リアルタイムで増えていく。11名、12名、15名、18名……
そして、みんなが「行動」を約束している。
「放課後タイムカプセル」プロジェクトが、動き出した。
スマホに、また通知が来た。見ると、知らない人からのリプライだった。
「私も登録しました。『小説家になる』は約束できないけど、『毎日千字書く』は約束できる。ありがとう、このプロジェクトを作ってくれて」
涙が止まらなくなった。でも、これは悲しい涙じゃない。嬉しい涙。
Scene 2:プロジェクトの広がり
その夜、自室でサイトを見ていた。
参加者数は、五十人を超えていた。色々な人の約束が投稿されている。そして、全員が「行動」を約束している。
「参加者の約束を見る」というページを開いた。そこには、次々と新しい約束が投稿されている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【ユーザー名:音楽少女】
五年後の私へ
「プロのバンドマンになる」は約束しない。
でも「ライブに百回出演する」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:普通の高校生】
一年後の自分へ
特別な夢はないけど、
「毎日、友達に感謝の言葉を伝える」は約束できる。
小さな行動だけど、これが私の約束。
【ユーザー名:勉強頑張る】
十年後の自分へ
「医者になる」は約束しない。(試験に落ちるかも)
でも「毎日五時間勉強する」は約束する。
「医学書を百冊読む」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:絵描きの卵】
五年後の自分へ
「イラストレーターになる」は約束しない。
でも「毎日一枚は絵を描く」は約束する。
「SNSに週三回投稿する」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:バレエを続けたい】
十年後の自分へ
「プリマになる」は約束しない。
でも「週三回はレッスンに通う」は約束する。
「バレエを人生から手放さない」は約束する。
行動を約束する。
【ユーザー名:料理が好き】
五年後の自分へ
「有名シェフになる」は約束しない。
でも「週に一度は新しいレシピに挑戦する」は約束する。
「料理の勉強を続ける」は約束する。
行動を約束する。
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みんな、それぞれの約束。でも、共通点がある。誰も「結果」を約束していない。みんな「行動」を約束している。
自然と笑みがこぼれる。みんな、頑張ってるんだ。
蒼からLINEが届いた。
「見た? もう五十人超えてる」
指が画面の上を滑る。
「すごいよね。みんな、ちゃんと『行動』を約束してる」
蒼から返信が来た。
「『結果じゃなく行動を』ってコンセプトが、刺さったんだな」
「うん。みんな、結果を約束できなくて悩んでたんだ」
「でも、行動なら約束できる」
「そうだね」
楓からもメッセージが届いた。
「TikTokでも広がってるね」
「本当?」
楓から動画のリンクが送られてきた。動画を開くと、高校生の女の子が映っていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【TikTok動画】
『私も参加してみた! 十年後の自分への約束』
(カメラに向かって高校生の女の子)
「私の約束は『毎日英語を三十分勉強すること』!
『留学する』は約束できない。
でも『勉強を続ける』は約束できる!
結果じゃなく、行動を約束する!」
(二次元コードをスマホで読み取る様子)
(画面に「登録完了」の文字)
「みんなも、やってみて!
https://houkago-timecapsule.jp
#放課後タイムカプセル
#結果じゃなく行動を」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
コメント欄には、たくさんのコメントが並んでいた。
「私もやってみる!」
「この考え方いい!」
「結果は約束できないけど、行動なら約束できる!」
「十年後が楽しみ」
「同じこと悩んでた」
「救われた」
画面を見つめたまま、楓にメッセージを送る。
「すごい広がってる……」
楓から返信が来た。
「『結果じゃなく行動を』ってコンセプトが、みんなの心に響いてるんだね」
「うん」
隼人からもメッセージが届いた。
「Twitterのトレンドに入りそうだぞ。#放課後タイムカプセル」
心臓が跳ねた。急いで確認する。本当だ。トレンドの二十位くらいに「#放課後タイムカプセル」が表示されている。
窓の外を見た。夜空に、星が輝いている。満月が、明るく光っている。
十年後、私はどうなってるんだろう。
でも、今は——
約束を守るために、頑張ろう。「絵本作家になる」は約束してない。でも「絵本を完成させる」は約束した。
結果じゃなく、行動を。
ワークシートをもう一度見た。
十年後の私へ。この約束、覚えててね。
スマホに、また通知が来た。サイトからの通知だった。
「参加者が100名を突破しました!」
息を呑む。急いでサイトを確認した。
URL: https://houkago-timecapsule.jp
【現在の参加者:102名】
たった数時間で、百人を超えた。
涙が溢れてきた。みんな、同じだったんだ。みんな、「結果」を約束できなくて悩んでた。でも、「行動」なら約束できる。
この考え方が、たくさんの人に届いた。
四人のグループLINEにメッセージを送る。
「みんな、見て! 参加者、百人超えたよ!」
すぐに反応が来た。
蒼から。「マジか!」
楓から。「すごい……」
隼人から。「やばいな、これ」
「私たちが始めたこと、たくさんの人に届いてる」
宮本先生からもメッセージが来た。
「すごいことになったな。このプロジェクトは、きっともっと大きくなる」
サイトをもう一度見た。参加者の約束が、次々と投稿されている。
みんな、それぞれの約束。
でも、全員が「行動」を約束している。
画面を見つめていると、胸が温かくなる。
十年後、みんなでもう一度集まろう。
そして、約束を守れたか、確認しよう。
一週間後の土曜日、小学校の図書室に四人が集まっていた。
白鳥さんが弾んだ声で報告する。
「見て、もう五百人以上が参加してる!」
パソコンの画面には、参加者数のカウンター。503名。リアルタイムで増えていく数字。504名、505名……
宮本先生も驚きを隠せない様子だった。
「すごいな……たった一週間で。最初は四人だけだったのに」
パソコンの画面には、全国からの投稿。北は北海道から、南は沖縄まで。高校生、中学生、大学生、社会人。様々な人が参加している。年齢も、職業も、住んでる場所も、全部違う。でも、みんな同じ。「結果」じゃなく「行動」を約束している。
白鳥さんが続けた。
「それでね、他の学校からも問い合わせが来てるの。『うちの学校でもやりたい』『生徒に配りたい』って。もう二十校以上から連絡が来てる」
「本当に?」
「うん。それで、カードを大量印刷することにした」
白鳥さんは、新しいデザインのカードを見せた。前回と同じデザインだけど、印刷の質が上がっている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【カード表面】
放課後タイムカプセル
未来のあなたへ
今のあなたから
結果じゃなく、行動を約束しよう
【カード裏面】
(二次元コード)
█████████ ███ █████████
██ ██ █ █ ██ ██
██ ███ ██ ███ ██ ███ ██
██ ███ ██ █ █ ██ ███ ██
██ ██ ███ ██ ██
█████████ █ █ █████████
スマホで読み取って
プロジェクトに参加!
約束するのは「結果」ではありません。
「行動」を約束してください。
「プロになる」→「練習を続ける」
「成功する」→「挑戦し続ける」
「合格する」→「勉強し続ける」
自分でコントロールできることだけを。
https://houkago-timecapsule.jp
#放課後タイムカプセル
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「これ、めっちゃいいじゃん! 前より綺麗になってる」
隼人が感嘆の声を上げた。
「でしょ? これを千枚印刷して、希望する学校に配る予定。印刷費用は、クラウドファンディングで集めることにした」
宮本先生が感慨深げに言った。
「君たちが始めたことが、こんなに広がるなんてな」
照れくさそうに笑う。
「私たち、なんかすごいことしちゃったのかな」
蒼が首を振る。
「いや、すごいのはこのプロジェクトじゃない。『結果じゃなく行動を』っていう考え方が、みんなの心に響いたんだ。俺たちは、ただそのきっかけを作っただけ」
楓が静かに続けた。
「そうだね。みんな、『結果』を約束できなくて悩んでた。『プロになれるかわからない』『成功できるかわからない』『夢が叶うかわからない』でも、『行動』なら約束できる。その考え方に、みんな救われてるんだ」
隼人が拳を握った。
「だったら、もっと広げよう。もっとたくさんの人に、この考え方を伝えよう」
白鳥さんが嬉しそうに付け加えた。
「実はね、地元のテレビ局から取材の依頼が来てるの」
「テレビ!?」
四人は、同時に声を上げた。
「うん。『高校生が始めた未来へのプロジェクト』って特集したいって。来週、取材に来るみたい」
四人は顔を見合わせた。
「すごいことになってきたね……」
画面を見つめる。参加者数が、また増えている。510名、515名、520名……
こんなにたくさんの人が、同じように悩んで、同じように約束を立てている。
Scene 3:陽向の最初の一歩
約束をサイトに登録してから三日後の土曜日、駅前の大きな本屋に立っていた。
三階の児童書コーナー。絵本がずらりと並んでいる。『ぐりとぐら』『はらぺこあおむし』『100万回生きたねこ』『スイミー』『おおきなかぶ』『てぶくろ』。懐かしい絵本たちが、本棚に並んでいる。
一冊ずつ手に取って、ページをめくった。絵のタッチ、色使い、文章のリズム。どれも違う。でも、どれも素晴らしい。子供の頃、何度も読んだ絵本たち。今改めて読むと、また違った感動がある。
『ぐりとぐら』のシンプルで温かい絵。『はらぺこあおむし』の鮮やかな色彩。『100万回生きたねこ』の深いメッセージ。
みんな、どうやって絵本を作ってるんだろう。どうやって物語を考えて、どうやって絵を描いて、どうやって完成させるんだろう。
本棚を見回した。絵本の作り方について書かれた本はないかな。実用書のコーナーに移動して、探す。デザイン、イラスト、創作……
あった。
『絵本の作り方入門』という本。表紙には、色鉛筆と画用紙のイラスト。著者は、実際に絵本作家として活動している人らしい。帯には「初心者でも絵本が作れる!」と書かれている。
手に取って、パラパラとめくった。目次を見る。
第1章:絵本とは何か
第2章:物語の作り方
第3章:キャラクターの作り方
第4章:絵の描き方
第5章:文章の書き方
第6章:完成までの道のり
各章には、具体的な例が載っている。実際の絵本の制作過程も紹介されている。これだ。これが欲しかった。
レジに向かった。定価は1,800円。少し高いけど、お年玉の残りで買える。
レジで会計を済ませて、本を受け取る。ビニール袋に入れてもらって、店を出た。手に持った本が、ずっしりと重い。でも、その重みが嬉しい。
帰りの電車の中で、早速本を読み始めた。ページをめくるたびに、新しい知識が頭に入ってくる。絵本の構造、物語の作り方、キャラクターの設定方法。
本には、こんなことが書かれていた。
【絵本の作り方 5つのステップ】
ステップ1:物語のテーマを決める
何を伝えたいのか。読者にどんな気持ちになってほしいのか。
ステップ2:登場人物を作る
主人公はどんなキャラクター? 性格は? 見た目は?
ステップ3:ストーリーを構成する
起承転結を考える。どんな出来事が起こる?
ステップ4:絵を描く
場面ごとに絵を描く。キャラクターの表情、背景、色使い。
ステップ5:文章を書く
絵に合わせて文章を書く。リズム、テンポ、言葉選び。
なるほど。まずは、テーマを決めるんだ。何を伝えたいのか。それが一番大事なんだ。
家に帰って、すぐに自分の部屋に入った。机の上に本を置いて、ノートを開く。真っ白なページが、私を待っている。
よし、やってみよう。
自分の約束を読み返した。机の引き出しから、ワークシートのコピーを取り出す。
【約束1:創作】
十年後までに、絵本を一冊、完成させること。
物語も絵も、全て自分で作り上げること。
これは「結果」じゃなくて「行動」。出版されるかどうかは約束してない。プロになれるかどうかも約束してない。でも、完成させることは約束した。だから、今はただ完成させることだけを考えよう。
ペンを握った。ノートの最初のページに、大きく書く。
【うさぎのミミと、忘れられた森】
タイトルが決まった。次は、物語のテーマ。何を伝えたい?
考えた。十年前の私が抱いていた夢。それを諦めかけていた今の私。でも、もう一度挑戦しようと決めた。
そうだ。「勇気を出して一歩踏み出すこと」をテーマにしよう。安全な場所に留まるのではなく、未知の世界に飛び込む勇気。
ノートに書き始めた。
【テーマ:勇気を出して一歩踏み出すこと】
次に、登場人物。主人公は、うさぎのミミ。中学の時に描いた、あのうさぎ。大きな耳と、好奇心いっぱいの目。臆病だけど、心の中では冒険に憧れている。
中学時代に描いた絵を引き出しから取り出した。色褪せた画用紙。でも、確かにここにある。ミミの絵。赤いリボンをつけた、可愛いうさぎ。
そうだ、あれを膨らませてみよう。あの時は、ただ描いただけだったけど、今度はちゃんと物語にしよう。
ペンが動き出す。
【うさぎのミミと、忘れられた森】
第1章:ミミの夢
むかしむかし、忘れられた森に、
一匹のうさぎが住んでいました。
名前はミミ。
ミミには、夢がありました。
「いつか、大きな世界を見てみたい」
でも、森の外に出る勇気がありませんでした。
みんなは言いました。
「森の外は危ないよ」
「ここにいれば安全だよ」
「外には怖いものがいっぱいあるよ」
でも、ミミは思いました。
「本当にそうかな?」
「外の世界は、本当に怖いだけなのかな?」
ある日、ミミは森の入り口まで行ってみました。
そこから見える景色は、とても綺麗でした。
青い空、広い草原、遠くに見える山々。
ミミは思いました。
「行ってみたい」
でも、足が震えました。
「怖い……でも、行きたい」
ミミは、一歩だけ、森の外に足を踏み出しました。
手が止まらない。物語が、頭の中から溢れ出してくる。ミミが森の外に出る決意をする場面。初めて出会う動物たち。リスのチロ、キツネのアカネ、フクロウのホー先生。困難を乗り越えながら、成長していく姿。
第2章では、ミミが初めて出会うリスのチロとの友情。第3章では、道に迷って不安になるミミ。第4章では、フクロウのホー先生から「勇気とは何か」を学ぶ場面。
気づけば、三時間が経っていた。
時計を見ると、もう夕方の五時。窓の外は、オレンジ色に染まっている。夕日が、部屋の中まで差し込んでいる。
ノートには、物語の骨組みが出来上がっている。第1章から第3章まで、ざっと書き上げた。まだ粗いけど、形になっている。全体で十二章構成にしよう。ミミが旅に出て、様々な出会いを経験して、最後に自分の居場所を見つける物語。
自分の書いた文章を読み返した。
私、できるかも!
そして、気づいた。
あれ……私、今「絵本作家になる」ことを考えてない。ただ「絵本を完成させる」ことだけを考えてる。出版されるかどうか、認められるかどうか、プロになれるかどうか。そんなこと、全然考えてない。
頬が緩んでいくのがわかる。
そうか。「結果」を気にしなくていいから、「行動」に集中できるんだ。出版されるかどうか、認められるかどうか、そんなこと考えなくていい。ただ、完成させればいい。それだけでいい。
スマホで、ノートの写真を撮った。それから、「放課後タイムカプセル」のサイトにログインする。
URL: https://houkago-timecapsule.jp
サイトには、「活動記録」という機能がある。約束に向かって、どんな行動をしたかを記録できる機能。他の参加者の記録も見られる。みんなの頑張りが見える。
活動記録を投稿した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【活動記録】
ユーザー名:橘陽向
日付:6月2日
今日、絵本のストーリーを書き始めました。
タイトルは「うさぎのミミと、忘れられた森」。
まだ第1章から第3章の骨組みだけだけど、
十年ぶりに物語を書いて、すごく楽しかった。
「絵本作家になる」は約束してない。
でも「絵本を完成させる」は約束した。
だから、出版されるかどうかは考えない。
認められるかどうかも考えない。
ただ、完成させることだけを考える。
そうしたら、不思議なことに、
すごく楽しく書けた。
プレッシャーがないって、こんなに自由なんだ。
十年後の私、この物語完成させてるよね?
#放課後タイムカプセル
#絵本制作
#結果じゃなく行動を
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
投稿すると、すぐに「いいね」やコメントが届いた。
「頑張って! 応援してます!」
「私も小説書き始めました! 一緒に頑張りましょう!」
「完成したら読みたい!」
「『結果は考えない、行動だけを』いい言葉!」
「一緒に頑張りましょう!」
「プレッシャーがないって、本当にそうですね」
「私も同じこと感じました」
画面を見つめていると、胸が温かくなる。
一人じゃないんだ。みんな、同じように約束に向かって頑張ってる。みんな、「結果」じゃなく「行動」に集中してる。
Scene 4:楓のピアノ
楓は、放課後、音楽室へ向かっていた。
何年ぶりだろう。ピアノの前に座るのは。
廊下を歩きながら、楓の心臓は高鳴っていた。本当に、弾けるんだろうか。指は、まだ覚えているんだろうか。コンクールで失敗してから、もう三年も弾いていない。
音楽室のドアの前に立つ。深呼吸をして、ドアノブを回す。手が震えている。
ドアを開けると、誰もいなかった。
グランドピアノが、静かに佇んでいる。黒く光る、美しいピアノ。楓が何年も前に、毎日何時間も弾いていたピアノ。あの頃は、このピアノが世界の全てだった。
楓は恐る恐る近づいた。ピアノの前に立って、鍵盤カバーを開ける。カバーを持ち上げる音が、静かな音楽室に響く。
白と黒の鍵盤。懐かしい。88鍵。一つ一つが、楓の記憶を呼び起こす。
楓は椅子に座った。椅子の高さを調整して、姿勢を正す。背筋を伸ばして、肩の力を抜く。先生に何度も何度も言われた姿勢。
「楓ちゃん、肩に力入ってるわよ」
「もっとリラックスして」
指を鍵盤に置く。冷たい。ずっと触れていなかった鍵盤は、冷たくて、よそよそしい。まるで、楓のことを忘れてしまったみたいに。
楓は自分の約束を思い出した。
【約束1:継続】
十年後も、ピアノを弾き続けていること。
週に最低二回、三十分以上弾くこと。
「ピアニストになる」は約束してない。「コンクールで入賞する」も約束してない。でも「ピアノを弾き続ける」は約束した。
楓は深呼吸した。
上手く弾けなくてもいい。コンクールで入賞できなくてもいい。それは「結果」だから。ただ、弾き続ける。それが私の「行動」の約束。
ゆっくりと、一つの鍵を押す。
「ド」の音が響いた。
音楽室に、澄んだ音が広がる。その音は、楓の心に染み込んでいく。懐かしい音。何年も聴いていなかった音。
次に「レ」、そして「ミ」。
簡単な音階を弾く。
「ドレミファソラシド」
上がって、下がって。指が、少しずつ思い出していく。筋肉が、記憶を呼び起こしていく。体が覚えている。何年も弾いていなくても、体は覚えている。
ショパンの「ノクターン」第2番。
楽譜はない。でも、体が覚えている。指が覚えている。何百回、何千回と弾いた曲。コンクールで弾いた曲。失敗した、あの曲。
楓は目を閉じて、弾き始めた。
最初はぎこちない。指が思うように動かない。音が途切れる。間違える。テンポも揺れる。でも、構わない。
少しずつ——
メロディが流れ出す。
ショパンの優しいメロディが、音楽室に響く。楓は目を閉じたまま、弾き続ける。指が鍵盤を滑るように動く。左手が和音を奏でて、右手がメロディを歌う。
音楽が、体を通り抜ける。心が、軽くなる。何年も抱えていた重荷が、少しずつ消えていく。完璧に弾かなきゃいけないというプレッシャー、評価されなきゃいけないという焦り、そんなものが全部、音楽と一緒に流れていく。
これだ……これが、私のやりたかったこと。
音楽を楽しむこと。ただそれだけ。
曲が終わった。
楓は目を開けて、涙を拭った。いつの間にか、涙が溢れていた。でも、これは悲しい涙じゃない。嬉しい涙。解放された涙。
今の演奏、下手だったと思う。音も途切れたし、間違えた箇所もあった。テンポも不安定だった。でも、いいんだ。
「上手く弾く」は結果。「弾き続ける」が行動。私が約束したのは、行動だから。結果がどうであれ、弾き続けることが大事。
楓はスマホを取り出して、「放課後タイムカプセル」のサイトを開いた。
URL: https://houkago-timecapsule.jp
活動記録を投稿する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【活動記録】
ユーザー名:水瀬楓
日付:6月3日
今日、何年かぶりにピアノを弾きました。
指は思うように動かなかったけど、
すごく楽しかった。
「ピアニストになる」は約束してない。
「上手く弾く」も約束してない。
「コンクールで入賞する」も約束してない。
でも「弾き続ける」は約束した。
だから、今日の演奏が下手でもいい。
大事なのは、弾いたこと。
結果を気にしなくていいって、
こんなに自由なんだって初めて知りました。
これから、週に二回は必ず弾きます。
十年後の私、まだピアノ弾いてるよね?
#放課後タイムカプセル
#ピアノ
#結果じゃなく行動を
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
投稿すると、すぐに「いいね」やコメントが届いた。
「応援してます!」
「私もピアノ再開しました!」
「楓さんの投稿見て勇気もらいました」
「一緒に頑張りましょう!」
楓は柔らかく笑った。
四人のグループLINEを開く。
陽向から投稿があった。
「今日、絵本のストーリー書き始めた!」
楓もメッセージを送る。
「私も今日ピアノ弾いた。すごく楽しかった」
すぐに返信が来た。
陽向から。「楓ちゃん、良かったね!」
蒼から。「お互い、動き出したな」
隼人から。「みんな頑張ってるな。俺も負けてられない」
楓は画面を見つめながら、微笑んだ。
みんな、それぞれの場所で、約束に向かって動き出している。
Scene 5:蒼と隼人の変化
蒼の場合
美術室。放課後の静かな部屋で、蒼は再びコンクールの応募要項を見ていた。
「高校生絵画コンクール……」
B4サイズの紙。あの時、親に見つかって怒られた。応募要項を破り捨てられそうになった。「絵で食えるわけがない」って。
でも、約束を立ててから、何かが変わった。
蒼は自分の約束を読み返した。スマホで、約束のページを開く。
URL: https://houkago-timecapsule.jp/mypage
【約束3:挑戦】
毎年、最低一回はコンクールか展示会に応募すること。
入賞するかどうかは約束しない。
でも、挑戦し続けることは約束する。
「入賞する」は結果。約束してない。でも「応募する」は行動。これは約束した。
親に反対された。でも、俺が約束したのは「入賞する」ことじゃない。「挑戦し続ける」ことだ。
蒼は決めた。
もう一度、出してみよう。親に見つからないように。入賞できなくてもいい。評価されなくてもいい。ただ、挑戦する。それが俺の約束。
蒼は新しいキャンバスを準備した。F30号サイズ。大きなキャンバス。真っ白な画布が、蒼を見つめている。
テーマは「未来」。
蒼は筆を握って、色を選んだ。今まで描いてきた抽象画とは違う。今回は、具体的な形を描こう。人の姿を描こう。走り出す人々を描こう。
蒼は下書きをせずに、直接筆を走らせた。青、赤、黄色、緑。色が混ざり合って、キャンバスの上で踊る。
走り出す人々。それぞれが、違う方向を向いている。でも、みんな前を向いている。朝日に向かって、走り出している。背景には、大きな太陽。地平線から昇る朝日。新しい一日の始まり。
蒼は何時間も、何日も、絵を描き続けた。放課後、毎日美術室に通った。色を塗って、修正して、また塗って。細部にこだわって、全体のバランスを見て、また細部に戻って。
これが、俺の描きたいものだ。これが、俺の「未来」。
数日後、作品が完成した。
蒼は完成した絵を見つめた。走り出す人々。それぞれが、違う服を着て、違う表情をしている。でも、みんな前を向いている。朝日に向かって、走り出している。希望に満ちた絵。
タイトルは『走り出す朝』。
蒼は作品にサインを入れた。右下に、小さく「Aoi」と。
蒼は作品を写真に撮って、「放課後タイムカプセル」に投稿した。
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【活動記録】
ユーザー名:神崎蒼
日付:6月5日
コンクールに応募する作品、完成しました。
タイトルは『走り出す朝』。
テーマは「未来」。
前に親に反対されて諦めかけたけど、
約束を立ててから、もう一度挑戦する勇気が出た。
「入賞する」は約束してない。
「評価される」も約束してない。
結果は、神様に任せる。
でも「応募する」は約束した。
挑戦し続けることは約束した。
だから、明日、応募します。
結果がどうであれ、
挑戦したこと自体が大事。
十年後の俺、まだ描いてるよな?
まだ挑戦し続けてるよな?
#放課後タイムカプセル
#絵画
#結果じゃなく行動を
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隼人の場合
サッカーグラウンド。放課後の練習が終わった後、隼人はコーチに相談していた。
「先生、俺……将来、コーチになりたいんです」
「コーチに?」
コーチは、五十代くらいの男性。隼人がサッカーを始めた頃から、ずっと指導してくれている恩師だ。厳しいけど、優しい先生。
「はい。選手としてプロになるのは無理でも、サッカーに関わり続けたい。膝の怪我で、選手としては限界だって、わかってます」
隼人は自分の約束を思い出した。
【約束1:関わり続ける】
十年後も、サッカーに関わり続けていること。
選手として、コーチとして、審判として、
あるいは別の形でも。
「『プロ選手になる』は約束してない。『日本代表になる』も約束してない。でも『サッカーに関わり続ける』は約束した。だから、形が変わってもいいんです。選手じゃなくても、サッカーに関われれば」
コーチは深く頷いた。
「いい目標だな。早川、よく考えたな」
「ありがとうございます」
「でも、簡単じゃないぞ。コーチになるのも、選手になるのと同じくらい大変だ」
「わかってます」
「指導者ライセンス、取らないとな。それに、教える技術も必要だ。サッカーができることと、サッカーを教えられることは、別だからな。技術も、戦術も、心理学も、全部勉強しないといけない」
「はい! 全部勉強します」
コーチは柔らかく笑った。
「じゃあ、今日から練習のアシスタントやってみるか? 実際にやってみないと、わからないこともあるからな」
「本当ですか!?」
「ああ。早川、副キャプテンだし、後輩に教えるのも上手いからな。実際にやってみて、コーチの仕事を体験してみろ。向いてるかどうかも、やってみないとわからない」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
隼人は、新たな目標に向かって走り出した。
その日の練習から、隼人は一年生の指導を手伝った。基礎練習のやり方を教えて、フォームを直して、声をかける。パスの出し方、トラップの仕方、シュートのフォーム。一つ一つ、丁寧に教える。
「そう、もっと軸足をボールの横に置いて」
「トラップは、足を柔らかく使って」
「シュートは、膝から下を振り抜いて」
教えるのは、思ったより難しい。自分ができることと、それを人に教えることは、全然違う。どう説明すればわかりやすいか、どう示せば伝わるか、考えながら教える。
でも、すごく楽しい。一年生が上達していく姿を見ると、嬉しい。「ありがとうございます!」って言われると、やりがいを感じる。
膝はまだ痛い。走ると、鋭い痛みが走る。選手としては限界かもしれない。でも——
俺には、まだやれることがある。サッカーを教えることができる。次の世代を育てることができる。
練習後、隼人も活動記録を投稿した。
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【活動記録】
ユーザー名:早川隼人
日付:6月5日
今日から、コーチのアシスタントを始めました。
後輩に教えるの、思ったより難しい。
自分ができることと、教えることは全然違う。
でも、すごく楽しい。
後輩が上達していく姿を見ると、嬉しい。
「プロ選手になる」は約束してない。
「日本代表になる」も約束してない。
でも「サッカーに関わり続ける」は約束した。
形は変わったけど、約束は守ってる。
選手としての道は閉ざされたかもしれないけど、
コーチとしての道が開かれた。
これが、俺の新しい道かもしれない。
十年後の俺、いいコーチになってるよな?
#放課後タイムカプセル
#サッカー
#結果じゃなく行動を
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四人は、それぞれの約束に向かって、歩き始めた。
陽向は絵本を書き、楓はピアノを弾き、蒼は絵を描き、隼人はコーチとして後輩を教える。
「結果」は約束してない。でも「行動」は約束した。
それぞれの約束を、それぞれの形で、守り始めた。
週末、四人は再び小学校の図書室に集まった。それぞれの一週間を報告し合う。
「みんな、動き出したね」
陽向が柔らかく笑う。
「うん。約束に向かって、一歩ずつ」
楓も頷いた。
「これから、どんなことが待ってるんだろう」
蒼が静かに言った。
「わからない。でも、約束は守る」
隼人が拳を握った。
「十年後、胸張って会えるように」
四人は微笑み合った。
窓の外には、青い空が広がっている。
【第3章 完】



