日向陽美とモル太少年の異世界穴蔵冒険録

その日、とある穴の奥で彼女『日向 陽美(ひなた はるみ)』は出会った。
モグラのようにも見え人間のようにも見える姿形の少年に。

これは、自分の名前が苦手な少女と、モグラのような少年が太陽を目指す物語。



日向 陽美は正直に言うと自分の苗字名前が苦手だった。
『日向』に『陽』と明るいイメージの漢字が続く自分の名前。

自分に会い名前を聞いて、大抵の人がこう言う。

「……失礼を承知で言うけど、きみ、名前のわりに雰囲気暗いね……」

「……本当に失礼」

そう。彼女『日向 陽美』はちょっと暗い雰囲気の少女であった。
学校では教室の隅で一人本を眺めるだけ。体育の時間も別段目立つ部類でもない。

ただひとつだけ、彼女が学校で有名な特徴があった。

「お、穴掘り陽美がいるぞ」

生徒たちが小馬鹿にするように視線を向ける先は、学校の校庭の隅。

「ん……」

そこで陽美はただ黙々と穴を掘っていた。

「どうせまた先生たちに怒られて掘った穴は埋められるのに、毎回楽しいのかねえ?」

そして誰が言ったかそのタイミングにちょうど教師が現れ、陽美は怒られている。
しかし陽美は怒られてもまるで気にしていなかった。
彼女はただ己が感じる『声』に答えているからだ。

陽美には幼い頃から自分にのみ聞こえる『声』があった。
親もクラスメイトにも、他の人には全く聞こえない『声』。
誰にも信じてはもらえないが、
彼女が『声』に従い穴を掘った場所には必ず何かが存在していた。
大抵はガラクタであったが、それでも何かがあったのだ。
だから彼女は怒られてもただ掘るだけである。



校庭の隅で穴を掘る。怒られて掘った穴を埋められる。
そんな日常がしばらく続いたある日のこと。

「ん……わかった」

陽美に聞こえる『声』の指示が変わった。
陽美はその『声』に従い、いつもの校庭の隅ではなく、学校の裏山の方に向かっていく。

「おい、穴掘り陽美があんなところにいるけど……」

「い、いいのか? 裏山は立ち入り禁止だろ?」

生徒たちはそれぞれ、陽美の方を見つめる。
からかう者、心配する者、ただ様子を見る者、だが誰も陽美を止めるわけではない。
どうせすぐ教師に見つかり連れ戻されるだけだと。

だが生徒らの予想に反し、今日に限って教師らは現れない。
立ち入り禁止と言っても、ただロープが張ってあるだけの山への道。
陽美は気にせずにロープを潜り裏山へと入っていく。

「……行っちまった」

生徒たちは唖然と見ながら、ようやく教師らを呼びに走るのだった。



陽美は裏山を進んでいく。
ただ山頂に登っていくわけではない。『声』に従い、時には登り時には下り進んでいく。
そしてついに――

「……あった」

裏山内。高さ的には大して登っていない山の一角。
そこに小さな洞窟が存在していた。

「ここね、わかった……」

陽美は小さな洞窟の入口にゆっくりと入っていく。
洞窟内は暗く狭い。『穴掘り陽美』などと呼ばれていても、暗くて狭いところを通るのが得意という訳ではない。
さすがの陽美も時々洞窟の壁に頭をぶつけながら奥へ奥へと進んでいく。
そしてついに洞窟の奥の行き止まりに。

「……ここを掘るのね」

洞窟の行き止まり。それは硬い土の岩の壁。
対して陽美が持っているものは、普段から使っている小さな園芸用のシャベルのみ。

「……」

無言。だが陽美にためらいはなかった。
いつものようにただ『声』の言う通りに掘る。それだけ。

シャベルの一突き、二突き、三突き。
洞窟の壁はわずかに土が転がるだけで、とても掘っているとは言い難い。

気にせずシャベルで壁を突いていく陽美。
額から汗が落ち、シャベルを持つ手は血が滲み始めている。
だがそれよりも陽美を現実に引き戻す声が聞こえた。

「日向さーん! 日向 陽美さーん!」

それは学校の教師たちの呼び声。
山に入ってどれほど時間が経ったかはわからない。
だがついに教師たちが山の奥まで探しに来るほどの時間は経っていた。

冷静な陽美もわずかに焦りが出てきた。
ここまできて教師に見つかったら、校庭で穴を掘っていた時のレベルではない。
引き戻され、裏山の警備は厳重になるだろう。
ここで連れ戻されたら『声』の依頼を果たすことができなくなってしまう。

陽美は内心の焦りを押さえ洞窟の壁を突く。
幸い洞窟の入口は小さく、また中も狭くて移動しづらい。
教師が洞窟に気づいてもすぐには捕まらない。

だが壁はいくら突いても掘り進まないのに対し、
教師らの声は間違いなく洞窟の方に近づいてきていた。
そしてついに。

「おい! こんな所に穴があるぞ!」

「日向 陽美のことだ。狭いが一応調べるぞ」

教師が入ってくる。
狭い洞窟、逃げ場などない。

陽美は一か八か、シャベルを持っ手に渾身の力を込めた。
そして一気に壁に振り下ろす。

ずっと突いて来た壁がこんなことで崩れるわけはない。
それはわかっている陽美だったが……。

「……!?」

渾身の一突きした壁が光を放つ。
そして今まで掘り進まなかったのが嘘のように、光の辺りから崩れだした。

「あ……」

陽美に『声』が聞こえた。
崩れる壁、光に触れろ、と。

その『声』もある。
そして教師に見つかるわけにもいかない。
陽美は手を伸ばし壁の光に触れた。



「う……ん……?」

どこともわからない暗い空間で陽美は目を覚ます。

「ここは……」

陽美は周りを見渡す。見渡す限りの岩壁。
洞窟の中なのは間違いない。
だが先程まで陽美がいた洞窟ではない。広さがあきらかに違っている。
さらに……。

「火……」

そう、壁の上部には洞窟を照らすように篝火がある。
自然の洞窟ではない。誰か人がいる。
そう感じた陽美の目に何かの影が見えた。

「あ、あの……!」

陽美はあまり出さない大声で影の方に呼びかける。
影がこちらに気がつき止まった。そして向かってくる。

「え……?」

「!」

陽美も驚いたが、相手の方がもっと驚いていた。

「モグラ…?」

陽美の前に現れたのはモグラのような生き物。
モグラのような、しかし陽美のイメージするモグラではない。
陽美よりは小さいものの、モグラにしては大きく、ファンタジーに出てきそうな生き物だ。

「あの……」

「どうした、何かあるのか」

陽美がモグラのような生き物に声をかけようとして、また別の声が聞こえた。
今度は間違いなく人の声。

「うん?」

モグラの後方から来た者に、陽美はまた驚いた。
どう見ても人間、ではあるのだが、爪は長くモグラが人になったと言える者だった。

「に、にんげん!?」

モグラのような少年は陽美を見てそう驚いた。
まるで珍しいものを見るように。

「お前、どこから来た?」

「え。えっと……」

陽美はここにいた経緯を説明する。
信じられないとは思うが、気づけばここにいたことを。

「そ、それってもしかして!」

モグラのような少年は一人テンションが上がっている。
いや横にいるモグラもだ。

「婆さまか言ってたことは本当だったんだ!」

そう言うと少年は陽美の方に近づき勢いよく手を掴む。そして。

「オレと一緒に『太陽』を目指してくれ!」

そう叫んだ。