体育祭当日。
雲ひとつない青空の下、グラウンドには色とりどりの団Tシャツが並んでいた。
黒団の集合場所には、少し緊張した顔と、期待に満ちた顔が混ざっている。
クラス委員はクロ団の集合場所の中でも最前列の席に座って待機する必要がある。
私はこの日のために何度も見たダンス動画を直前まで見ておこうと、ループ再生のボタンを押す。
(やっぱり、ここの振り付け大丈夫かな。)
などと不安だらけの中、「緊張するよね。」
私の様子を見ていたのか奏くんが声をかけてきた。
その言葉はパッと私の中にあった霧が晴らすかのように暖かく優しい声色で紡がれた。
「だね。」と慌てて相槌をつき深呼吸をする。
最初の競技が始まり、歓声が一気に高まる。
「よーい、ドン!」
お馴染みのスタートピストルの音と共に、一斉にスタートラインから生徒達が走りだす。
「頑張れー!」
応援の声と歓声が鳴り響く。
リレー、綱引き、借り物競走、——
時間はあっという間に過ぎていった。
そして、ついにダンスの出番。
私は緊張しながらもクラスのみんなに声をかけ定位置に並んでもらう。
準備が完了した合図に奏くんが右手を挙げる。
「じゃあ、再生しまーす」遠くのスピーカーの近くに座る上級生の担任であろう女の人の声が聞こえる。
ついに耳にタコができるくらい聞いた音楽が流れ始め、私達はダンスの振り付けを間違えないようにしながら始める。自分の心臓の音が、音楽よりもうるさい。
(大丈夫。練習通りやれば——)
そのとき。
一列後ろの動きが、ほんの一瞬ずれた。
「……っ」
このまま続ければ、全体が崩れる。
頭が一気に真っ白になった。
(どうする……?)
その瞬間、隣にいる奏くんと目が合った。
声は出さない。
ただ、静かに一度だけ、頷く。
——任せる。
そう言われた気がした。
私は一歩、踏み出した。
予定より半拍早く合図を出す。
「次、移動——!」
声は震えていたけれど、確かに届いた。
みんながそれに反応し、動きが揃っていく。
音楽と足音が、再び重なった。
(……できた。)
胸の奥に、熱いものが広がる。
怖さよりも、確かな実感がそこにあった。
ダンスが終わり、最後のポーズが決まった瞬間。
大きな拍手が、グラウンドを包んだ。
思わず息を吐くと、
「今の、完璧だった。」
奏くんが小さく言った。
私は何も言えず、ただ頷いた。
