いつかきっともう一度







この学校では、黄色団、赤団、青団、緑団、黒団に分かれて三学年合同で練習をする。

私達のクラスは、黒団に入ることになった。

体育祭のダンス練習は、クラス委員がみんなをまとめて体育館で行うことになっている。

ダンスは各チームで決まっているけれど、動線などは各クラス委員が中心に決めることになっていた。

(みんなで協力しないと間に合わなくなっちゃうんだけど…)

元々乗り気ではなかった男子と、頑張ろうと思っている女子で意見が食い違って空気がピリピリしていた。

「それじゃ、揃わなくない?」

「でもその動きだと間に合わねぇんだよ。」

みんなの声が重なって「あの、、みんな一旦落ち着こう。」そんな私の言葉をかき消していく。

しっかりしないと、そう思う。
クラス委員なんだから。
でも、喉の奥がきゅっと縮んで、声が出ない。

(間違えたらどうしよう。
変なこと言ったら、空気が悪くなったら、、)

頭の中でそんな考えが何度も回る。

そのときだった。

「一回みんな落ち着こう。」

奏くんの、低くはっきりした声がみんなの元へ届いた。

驚いて隣に立つ奏くんの方へ顔をあげると、彼は私のことをを見ていた。

「俺と宮野さんが考えていた案を一回聞いてくれるかな。無理に決めなくてもいいから。」

そう奏くんが言うと、みんなの視線が一気に私達へ向けられた。

それはまるで私へ「言ってもいいんだよ。」と言ってくれているようだった。

胸の奥の何かが緩んだ気がした。

いつもはこんなに多くの視線を向けられると怖く感じてしまうけれど、不思議とそんなことは思わなかった。

「あの、私と宮脇くんが考えた案なんだけど…」

少し震えた声でも、奏くんが隣にいてくれているだけで
前を向いて話せた。

声は小さかったけれど、ちゃんと最後まで案を伝えることができた。

みんなも頷いて、話が細かくまとまっていく。

その様子を見ながら私は、横に立つ奏くんの横顔を見ていた。

(どうして、この人は
こんなふうに、自然に助けてくれるんだろう。)

すごい、と思う。
でもそれだけじゃない。

胸の奥で、
「それが嬉しい」と思っている自分に、
まだ気づかないふりをした。

校舎へ戻る途中。
夕方の光が、長い影を作る。

「さっきはありがとう。」
少し前を歩く奏くんへお礼を言う。

「んー?別に宮野さんが困ってそうだったから、少し声を掛けただけだよ。」

奏くんのその言い方があまりにもさりげなくて。

「…でも、宮脇くんのおかげで助かった!」
私は振り返った奏くんの目を見て感謝した。

「…じゃあ、お礼に俺のこと名前で呼んでくれる?」
奏くんは少し微笑みながら、真っ直ぐ私のことを見つめていた。

「わかった。…奏くん。」
恥ずかしくて、顔を少し下に向ける。実際に口に出して人の名前を呼ぶのは、こんなにも緊張するのことだっただろうか。

ふと、返事がないと感じて前を向くと夕焼けの光のせいなのか少し赤らんだ顔をしながら「うん、これからよろしくね。萌音」と奏くんが言った。

「…っ」
その言葉は、あまりにも暖かくて。
名前を呼ばれただけなのに、私も頬が赤らんだ気がした。

(今が夕方でよかった。)

━夕焼けの光が私達を照らし続けた。