いつかきっともう一度






4月の風が左側の窓の隙間から吹きかけてきた。
窓を抜けるたびに、カーテンがゆっくり揺れている。

わたし━━萌音は、教室の一番後ろの席で、新しいノートを開いていた。
紙の白さが、やけに眩しい。

「緊張するなぁ…」
 
小さく呟いた言葉は前に座る奏くんへ届いたみたいだった。

前の席の奏くんは振り返って少し笑いながら、
「大丈夫だよ。……電車で音楽流すよりは。」

…少しでもときめいてしまったわたしが馬鹿だった。

後ろから三倉が小さな声で「もしかして萌音、前の人と知り合い?!」興奮気味に聞いてきた。

わたしは慌てて「そんなのじゃないよ。朝少し話しただけで…」

そんなことを話していると担任の先生が教室に入ってきた。

「これから1年間、みんなの担任をする境だ。」

高校生の担任の先生にしては若そうな見た目の先生だ。

後ろの三倉ちゃんが「あの先生結構かっこよくない?」それは三倉ちゃんだけでなく周囲の女子生徒もそう思ったようで…「イケメンきたー!」「めっちゃラッキー!!」とコソコソ話しているのが聞こえる。

少し騒がしくなった教室へ向けて、境先生はニコニコしながら話しだす。「早速だけど、まずはクラス委員を決めたいと思う。」

ざわ、とより一層教室にいるみんなが話しだす。
それは、先生の容姿の話ではなく、一気にクラス委員の話に変わった。

「絶対なりたくないよね。」

「面倒くさいだろーなー。」

あちらこちらで、クラス委員になりたくない人の声が聞こえてくる。

(やっぱりみんなもやりたくないよね。)

後ろにいる三倉ちゃんも「やりたくないよね。」と囁いてくる。そんな三倉ちゃんに賛同するようにこくこくと頷く。

先生の「やりたいやついるかー?」という言葉はすぐに教室の騒々しさにかき消される。

先生も私達の反応を見たのか、「じゃあ、推薦にしようかな。えーとっ……宮脇と宮野。」

一瞬、時間が止まった気がした。

「……え?」

思わず声が漏れる。
前にいる奏くんも顔は見えないけれど、驚いているのか肩をすくめた。

「なんで俺たちがやるんですか?」

先生は教員手帳のようなものをめくりながら、「だって君たち、入試でトップの成績だったんだろう。」

教室のみんなが私達をチラチラ見てくるのがひしひしと感じられる。

(成績とは関係ないんじゃ…)

そう思っていると、前から
「あーそういうこと?……まぁいいけど。」と奏くんが言った。

その声は落ち着いていて、私の心拍数だけがやけにうるさかった。

そんな決め方で本当にいいの?…と思いながらも、断る勇気は無くて。結局、そのまま決まってしまった。