冷徹な海神は人魚姫に心の氷を溶かされる

 ごくりと唾を飲みこみ、珊瑚は恐る恐る海水へつま先をつけてみた。
 とたん、蒼い光が辺りを包む。
「眩しいっ……」
 眩しさのあまり、珊瑚は思わず手で目を覆った。
 だがそのうち、珊瑚は足に違和感を覚え、恐る恐る目を開けた。
 足が燃えるように熱くなり、続いてぬらりとした感覚がした。これはまさか――。
 珊瑚はごくりと息を飲み、足に目をやった。
 するとそこには、青く光る鱗に覆われた魚のひれがあった。
 自分の腰から下が魚になっているのを見て、珊瑚は小さく悲鳴を上げた。

 (魚……やっぱり私は……)
 珊瑚が顔面蒼白になっていると、ものものしい足音が近づいてきた。
「いたぞ、あそこだ!」
 見ると、松明を持った人影がどんどん近づいて来る。
「見ろ、人魚だ!」
「話は本当だったんだ!」
「早く捕まえろ!」
 その人影の中に自分を育ててくれた両親や姉の瑠璃の姿を見つけ、珊瑚はそっとうつむいた。
 (お父さんお母さんも知っていたのね……知っていて、私を村長に売ったんだ)
 そう考えれば、自分に対するどこかよそよそしかった態度も納得がいく。
 珊瑚がうつむいていると、瑠璃が鬼のような形相で叫んだ。
「珊瑚、戻って来なさい! 私の嫁入り道具や持参金を揃えるにはあんたが必要なのよ!」
 そういえば、瑠璃は最近、隣町の裕福な庄家との縁談が決まったと言っていた。
 自分は瑠璃のために犠牲になったのか――。

 珊瑚はじり、と後ずさりをした。
 (そうだ。私がもし本当に人魚なら、自由に泳げるし、水の中で息だってできるはず。海に逃げよう……)
 そう思ったのだけれど、足が動かない。
 物心ついたころから、ずっと海に近づくなと言われていた。
 当然、泳いだことなど一度もない。恐怖心に足がすくむ。
 それでも珊瑚は勇気を出して一歩、海へと踏み出した。