冷徹な海神は人魚姫に心の氷を溶かされる

「……これは」
 海神皇が驚いたように目を見開く。
 その瞳からは、涙が一筋伝い落ちていた。
「ウガ……ウガアアアア……」
 そして人面魚――瑠璃の目からもぽたりと涙が一滴こぼれ落ちた。
 その瞬間、清らかな光が辺り一面を包み、気が付くと瑠璃は元の人間の姿に戻り、すやすやと寝息を立て地面に横たわっていた。
「……ふう」
 珊瑚はその場にペタリと座り込んだ。
「珊瑚様!」
「海神皇様ーっ!」
 そこへ亀子と亀助が血相を変えて走って来る。
「珊瑚様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。悪いものは追い払ったわ」
 珊瑚は微笑んだ。だが亀子の表情は晴れない。
「でも、白無垢が……」
 亀子の言葉に、珊瑚ははっとして自分の着物を見た。
 真っ白だった白無垢は黒いすすで汚れ、ところどころ破けている。
「どうしよう……もうすぐ婚礼の儀が始まるのに」
 珊瑚が慌てていると、海神皇は珊瑚の肩に手を置いた。
「そうだな、大丈夫だ。神通力で別の白無垢を取り寄せよう。前のものより格は落ちるかと思うが、それでもかまわなければ……」
「はい、大丈夫です」
 二人がそんな話をしていると、奥から褐色肌の神――扶桑が駆けてきた。
「海神皇、珊瑚ちゃん、大丈夫!?」
「扶桑さん! ……はい、大丈夫です。でも、白無垢が汚れてしまって、今、別のものを取り寄せる予定です」
 珊瑚が返事をすると、扶桑は何かを思いついたかのように手をたたいた。
「そうなんだ。それなら僕に名案があるよ!」