冷徹な海神は人魚姫に心の氷を溶かされる

 戸の外へ一歩踏み出すと、そこは大都会――帝都だった。
「わあ……」
 珊瑚は目の前の景色に目をぱちくりさせた。
 山のように高いビルに、道には乗用車が走り、きらびやかな洋装に身を包んだおしゃれな男女が歩いている。
「こ……ここが帝都なんですね」
 今まで見たこともないような都会の景色に珊瑚が驚いていると、海神皇はエスコートするように珊瑚の手を取った。
「あ、行こう」
「はいっ」
 二人で白亜の洋風建築の並ぶ通りを歩く。
 ブティックの立ち並ぶ通りのショーウインドーには今流行りのモダンな洋服や帽子、貴金属に香水など、珊瑚がこれまで見たこともないようなものがたくさんあった。
「なんだか……別世界みたいです」
「俺もまだこの町には慣れないな。人間社会は神々の世界に比べて変化が速い」
 そうは言いつつも、海神皇は平然とした顔で街を歩いている。
 珊瑚は海神皇の顔をちらりと見た。
 黒髪に、黒い目。人間の姿に変化した海神皇は、青い髪に銀の目の姿の時ほど派手な外見ではないが、背がすらりと高く端正な顔立ちをしているので、嫌でも人目を引く。
「見て、素敵な紳士ね」
「なんて男前なのかしら」
 すれ違うご婦人がうっとりとささやく声が聞こえてくる。
 そのたびに、珊瑚はびくりと身を震わせた。
 自分では海神皇に釣り合わないのではないか。そんな風に考えて身を固くしていると、海神皇は珊瑚の背中をぽんぽんと叩いた。
「背筋を伸ばせ。自分では気づいていないかもしれないが、お前は美しい。そのワンピースも似合っているぞ」
「そうでしょうか……」
「ああ。すぐ縮こまるのはお前の悪い癖だ」
 言われて、珊瑚は慌てて背筋をぐっと伸ばした。
「は、はいっ」