冷徹な海神は人魚姫に心の氷を溶かされる


「わあ、二人とも可愛いですね。ところで……このかたは……」
 珊瑚がおずおずと薄桃色の神の女性を指さすと、玉姫はふんと鼻を鳴らした。
「この方は海神皇の乳母で教育係だった、人魚の真珠(まじゅ)様よ。真珠様は上品で聡明で、素敵な大人の女性でしたわ。海神皇様もとても彼女に懐いていて、たぶん初恋の相手だったんじゃないかしら」
「初恋……」
 珊瑚の胸が、なぜだかちくりと痛んだ。
「でも彼女は、ある日愚かな人間に捕まってしまい、亡くなってしまったの。恐らく、人魚の肉を狙われたのね。確かに人魚の肉は魚と動物の良いとこどりで、滋養にはいいらしいけれど、不老不死だなんて嘘っぱちなのに」
「そう……だったんですね」
 珊瑚は自分が捕らえられたときのことを思い出し、ぞっと背筋が寒くなる。
「真珠様を捕えられたことに怒った海神皇は、人間に深い恨みを抱き、その村を一晩にして滅ぼしたって聞くわ。よほどお怒りだったのでしょうね」
 一晩にして人間の村を――。
 (そっか、あの伝説はその時の……)
 珊瑚は海神皇が気まぐれに村を滅ぼすなど考えられなかったが、そういう理由があったのかと珊瑚は納得する。
 玉姫はにっこりと微笑み、頬杖をついて珊瑚を見た。
「ねえ、真珠様って、あなたに外見がそっくりよね。人魚は長生きだけど子供をあまり産まないうえに人間どもに乱獲されて数が少ないから、もしかして親子か親戚だったりするのかもね。あなた、自分の親を知らないんでしょ?」
「は……はい」
 珊瑚はうなずいて、肖像画の中の女性をじっと見つめた。