冷徹な海神は人魚姫に心の氷を溶かされる

「珊瑚、この魚の名は何だと思う?」
 海神皇が窓の外を泳ぐ青い魚を指さす。
「えっと……ナンヨウハギでしょうか?」
「正解だ。ではこちらは?」
「チョウチョウウオ!」
「正解。珊瑚もだいぶ魚の名前を覚えて来たな」
 あれから、海神皇は珊瑚につきっきりで文字や魚の名前を教えるようになった。
 そのせいかどうかは分からないが、珊瑚にも海神皇にも、以前より笑顔が増えたように見える。

 すると急に部屋の戸が鳴らされた。
「失礼いたします、亀子です。珊瑚様のお衣装をお持ちいたしました」
「は、はい。今開けますっ……」
 珊瑚が慌てて戸を開けると、紫色の風呂敷に包まれた衣装を手にした亀子と、お付きの女性が数人立っていた。
「珊瑚様、そろそろ着替えのお時間ですよ」
 亀子が声をかけると、海神皇が慌てて立ち上がる。
「おや、もうそんな時間か。それでは、俺も準備をするとしよう。珊瑚の準備が出来たら知らせてくれ」
 海神皇がそう言って部屋へと戻ると、亀子がいそいそと風呂敷から着物を取り出した。
「今日は十二神会議で珊瑚様のことを紹介なさるとお聞きしましたので、飛び切りの衣装を用意しましたよ」
 その言葉に、珊瑚の心臓がどきりと跳ねる。