「そういえば、この絵本、扶桑様に選んでもらったんです」
珊瑚が笑顔で告げると、海神皇が怪訝そうな顔をする。
「何だと? 扶桑に?」
「はい。図書室で偶然会ったんです。他にも図鑑とか雑誌とか、色々選んでくださって」
嬉しそうに話す珊瑚をよそに、海神皇は少し不機嫌そうに返事をした。
「ふうん……二人きりでか?」
「いえ、亀子も一緒でしたが」
珊瑚の答えに、海神皇は少しホッとしたような顔をする。
「そうか」
「ええ。……あ、そうです。この間のお茶も美味しかったですし、今度お会いしたら扶桑様にぜひお礼を言いたいです。海神皇様、扶桑様にはどこに行けば会えますか?」
珊瑚の問いに、海神皇はあからさまに不機嫌そうな顔になると、ぷいと横を向いた。
「その必要はない。扶桑には俺の方から礼を言っておく。元々あれは珊瑚にではなく俺に送られたものだしな」
「でも――字の読み方も今度あったら教えてくださると言ってくださって」
その答えに、海神皇はますます不機嫌になる。
「では今度から、俺が珊瑚に字の読み方を教えてやろう。海の生き物のことも、この城のことも、聞きたいことは何でも聞くといい」
扶桑の名を出すたびに不機嫌になっていく海神皇に、珊瑚は首をかしげた。
「は、はい……ありがとうございます」
(全く、海神皇様も嫉妬深いことで……)
二人の会話を戸の前で聞いていた亀助は苦笑する。
(それにしても、海神皇様も変わられたものですね)
亀助は、長い間海神皇に使えているが、主がこれほど一人の女性に執着するのは見たことがない。
(二人の結婚で、海神皇様も昔の苦い経験を忘れてくださればよいのですが……)
亀助は小さくため息をついたのだった。



