冷徹な海神は人魚姫に心の氷を溶かされる


 (な……なんて悲しいお話なんでしょう。涙が止まらない……)
 部屋に戻り、珊瑚が辞書を片手に人魚姫の物語を読んでいると、海神皇が戻って来た。
「戻ったぞ」
「か……海神皇様」
 珊瑚は慌てて目に浮かんだ涙をぬぐった。
 海神皇は、顔を上げた珊瑚が泣きはらした目をしているのを見て驚く。
「どうした、珊瑚」
「いえ、このお話が悲しくて……」
 珊瑚が人魚姫の絵本を海神皇に見せると、海神皇少しホッとしたような顔をした。
「本を読んでいたのか」
 そう言うと、海神皇は絵本の横に置かれた辞書に目をやった。
「はい……私は字を読むのが苦手なので、少し勉強しようかと。少しでも、海神皇様にふさわしい奥さんになれるように頑張ろうと思って……」
 そう言って珊瑚が笑うと、海神皇は長い腕を伸ばし、わしゃわしゃと珊瑚の頭を撫でた。
「か……海神皇様?」
 珊瑚が目を白黒させていると、海神皇は珊瑚の耳元で呟いた。
「……無理して勉強などしなくていい。お前は俺が幸せにする。その絵本の人魚のようにはさせない」
 その言葉に、珊瑚は胸がくすぐったいような暖かいような、何だかふわふわした気分になるのを感じた。
「いえ、海神皇様。私は無理などしておりません。新しいことを学ぶのは楽しいですっ。それにこの絵本だって、悲しいけど、とっても綺麗な物語で、私、このお話が好きです……!」
「そうか」
 海神皇は珊瑚の体を放すと、少しホッとしたような顔をした。