冷徹な海神は人魚姫に心の氷を溶かされる


「どのような本をお探しですか?」
「えっと……漢字辞典と……あとは魚の本を」
 珊瑚は答えた。
 海辺の村で育った珊瑚はある程度の魚の名前は知っているつもりだったが、ここには見たこともないような魚がたくさんいる。
 海神皇の妻たるもの海に詳しくないといけないだろう。
 でも魚の本はどこにあるのだろう。
 珊瑚が図書室の中をうろうろとしていると、突然背後から声をかけられた。
「――何を探しているの?」
 振り返ると、そこには褐色の肌に黒い髪、海のように蒼い瞳に、赤い花模様の派手な洋服を着た青年がいた。
 青年は、海神皇に負けず劣らずの美形なのだが、にこにこと愛想がよいせいか、海神皇よりずっと親しみやすそうに見えた。
「えっと……魚の本を」
「ああ。魚の図鑑ならたくさんあるよ」
 青年が何冊かの本を見繕ってくれる。
 珊瑚は青年の選んでくれた図鑑を何冊かめくってみた。
「わあっ……! すごく綺麗……絵じゃなくて本物の魚が泳いでるみたい……!」
「それは舶来ものの翻訳本さ」
 青年がニコニコと教えてくれる。
「舶来もの……ですか?」
「ええ。ここには海を通じて世界中の色々なものがやって来るからね」
 そういえば、ここはあらゆる場所、あらゆる時間に通じていると海神皇が言っていたことを珊瑚は思い出す。
「そうなんですね……じゃあこれと……あとは、これを借りようかな
 珊瑚が手を取ったのは、珊瑚と同じような桃色の髪をした人魚姫のお話だった。
「いいね。このお姫様、君にそっくりじゃない?」
「そうですか?」
 珊瑚は嬉しくなって自分の髪に触れた。