冷徹な海神は人魚姫に心の氷を溶かされる

 輿入れの日。赤い着物を着ていつもより着飾った珊瑚は、ひとけのない夜中にひっそりと村長の家に連れてこられた。
 通された部屋は、床にござが敷かれただけの質素な離れの部屋で、とても嫁を迎え入れるようには見えなかった。
 てっきり村のみんなに祝福されながら祝言を上げるのだと思っていたが、妾なのだから仕方がないのかもしれない。

 珊瑚はふう、とため息をついた。
 (ずっと幸せな花嫁になるのを夢見ていたのにな)
 珊瑚は自分の家族のことを思い出した。
 珊瑚は家で金銭的に不自由をしたり飢えるこそなかったが、いつも両親や姉からどこかよそよそしさを感じていた。
 両親は、親戚の集まりや村の祭りにはいつも瑠璃だけを連れていき、珊瑚は家で雑用が当たり前。
 両親から愛され優遇されているはずの姉の瑠璃は、なぜか自分を目の敵にし、「グズ」や「気味の悪い子」と呼び、機嫌が悪いときには理不尽に怒られたり叩かれたりした。
 ――本当の娘ではないのだから仕方ない。
 そう思いつつも、珊瑚はずっと温かい家庭に憧れを持っていた。
 嫁入りをすれば、その夢がかなうと思っていたのに。

 珊瑚は差し入れされた食事や酒に口をつけることもなく、その場にごろりと横になった。
 (夜中に連れてこられたから何だか眠い。村長が来るまで少し休憩しても良いかな)
 すると遠くからこんな話声が聞こえてきた。
「それで、人魚の娘は捕らえたのか?」
「はい、今、酒で眠らせております」
「それなら良い。ククク、これで長年探し求めていた不老不死の力が手に入る。まさかあんなに人に似ているとは思わなかったから皆は戸惑っておったが、お前ならば大丈夫だろう? 捌くのはお前に任せたぞ。」
「ええ、お任せください。人だろうが人魚だろうが捌いて見せますよ」
 ――人魚?