非常階段で浅見に会ってから、晴れの日はそこに足を運ぶようになった。最初は昼休みに通っていたけど、一向に浅見に会わないので、時間帯を変えて通ってみた。が、それでも浅見に会うことはない。おかげで、妹に押し付けられた小説を読み終えてしまった。男女が交換日記をする恋愛小説で、意外とおもしろかった。
体育がおわった後、浅見が一人で歩いていたので、すかさず話しかけた。浅見はもう、非常階段に行かないつもりのようだった。きっと俺のせいだ。だから俺はもう、非常階段には行かないと決めた。浅見が一人になれる場所を奪いたくないから。
放課後、最後のつもりで非常階段に足を運ぶ。もしかしたら浅見がきて、話ができるかもしれない。話なんて非常階段じゃなくてもできるんだけど、ここはきっと浅見にとって特別な場所だから、俺に心を開いてくれるかもしれない。そんな気がした。
ゆっくりと階段を上る。最上階に来たけど、人の気配はない。
「いなかったか……」
しかたなく、手すりにもたれて街の景色を眺める。
「けっこういいじゃん……」
おもったよりも眺めがよく、街全体を橙色に照らしながら沈んでいく夕陽が、寂し気であたたかい。
不意に、ブゥゥンとスマホが震える音が聞こえた。振り向くと、気まずそうな浅見と目が合った。
「浅見…」
「ごめん。邪魔するつもりはなかったんだけど」
「だから、邪魔じゃないって言ってんじゃん」
うれしくなって頬が緩む。手招きすると、少し困ったように目を伏せたが、すぐに俺の隣まで来てくれた。
「もう来ないんじゃなかったの?」
「そう。だから見納め?」
「……そんなに気に入ってるなら、また普通に来れば?」
「え、いいの?」
「いや、そもそも、俺の場所でもないし」
浅見からの思わぬ提案に心が躍る。浅見は街の景色を一望してから、ポケットからスマホを取り出した。カシャカシャと景色を撮影し、撮った写真を画面をみてチェックする。それを何度か繰り返している。
(え……)
真剣な表情で撮影したかと思えば、チェックする時はとても楽しそうに口角を上げる。今までに見たことがない浅見の表情。
(かわいい、こんな顔もするんだ……)
俺がずっと浅見を見ていたせいで、浅見が視線を気にしてちらりとこちらを見た。
「へぇ~写真撮るのすきなんだ?」
俺はごまかすように浅見に話しかけた。
「まあ……撮るだろ、普通。高槻は?」
「え、まぁ、たまに」
「イムスタのアカないの?」
「あるけど、あんま見ない」
浅見の素っ気ない態度に笑ってしまう。写真を撮っている時とは全然違うから。
「さっき撮ったやつ、イムスタにあげんの?」
「あげるけどーー」
俺はサッとスマホを取り出して、イムスタを開いた。
「浅見のアカ、どれだっけ?」
フォロー欄をみせたが、ふるふると首を振る浅見。
「それにはあげない」
「へ?」
「……みんなが知らないもう一つのアカの方にあげる」
(そんなアカを持ってんのか……!知りたい、知りたいけど、浅見は知られたくないよな……)
少しの葛藤の末、ダメ元で聞いてみることにした。
「……じゃあ、教えて」
「やだ」
(ですよねー)
「なんで?」
「なんでって、知られたくないからだよ」
「えー。いいじゃん、教えろよ」
「やだよ。知ってどうすんだよ」
浅見のことはなんでも知りたい。そんなことを言えば、絶対に引かれる。
「浅見の目に映った景色を、俺もみたいと思ったから」
これは本心だった。だって、あんなに楽しそうに写真を撮っていたから、どんなものが撮れたのか見てみたい。
「…………」
やっぱり浅見は引いてしまい、怪訝な顔をする。
「え、俺、なんか変なこと言った?」
「うん、だいぶ変」
「え~そうかなぁ~」
結局、アカウントは教えてもらえなかったけど、非常階段には来てもいいと許可をもらった。少しは、受け入れてもらえたのかもしれない。
今日は浅見のかわいい顔をみることができた。浅見のことを知るたびに、俺の中で浅見の存在が大きくなっていく。それはつまり、そういうことなんだと思う。まだ、確信はないけど。
体育がおわった後、浅見が一人で歩いていたので、すかさず話しかけた。浅見はもう、非常階段に行かないつもりのようだった。きっと俺のせいだ。だから俺はもう、非常階段には行かないと決めた。浅見が一人になれる場所を奪いたくないから。
放課後、最後のつもりで非常階段に足を運ぶ。もしかしたら浅見がきて、話ができるかもしれない。話なんて非常階段じゃなくてもできるんだけど、ここはきっと浅見にとって特別な場所だから、俺に心を開いてくれるかもしれない。そんな気がした。
ゆっくりと階段を上る。最上階に来たけど、人の気配はない。
「いなかったか……」
しかたなく、手すりにもたれて街の景色を眺める。
「けっこういいじゃん……」
おもったよりも眺めがよく、街全体を橙色に照らしながら沈んでいく夕陽が、寂し気であたたかい。
不意に、ブゥゥンとスマホが震える音が聞こえた。振り向くと、気まずそうな浅見と目が合った。
「浅見…」
「ごめん。邪魔するつもりはなかったんだけど」
「だから、邪魔じゃないって言ってんじゃん」
うれしくなって頬が緩む。手招きすると、少し困ったように目を伏せたが、すぐに俺の隣まで来てくれた。
「もう来ないんじゃなかったの?」
「そう。だから見納め?」
「……そんなに気に入ってるなら、また普通に来れば?」
「え、いいの?」
「いや、そもそも、俺の場所でもないし」
浅見からの思わぬ提案に心が躍る。浅見は街の景色を一望してから、ポケットからスマホを取り出した。カシャカシャと景色を撮影し、撮った写真を画面をみてチェックする。それを何度か繰り返している。
(え……)
真剣な表情で撮影したかと思えば、チェックする時はとても楽しそうに口角を上げる。今までに見たことがない浅見の表情。
(かわいい、こんな顔もするんだ……)
俺がずっと浅見を見ていたせいで、浅見が視線を気にしてちらりとこちらを見た。
「へぇ~写真撮るのすきなんだ?」
俺はごまかすように浅見に話しかけた。
「まあ……撮るだろ、普通。高槻は?」
「え、まぁ、たまに」
「イムスタのアカないの?」
「あるけど、あんま見ない」
浅見の素っ気ない態度に笑ってしまう。写真を撮っている時とは全然違うから。
「さっき撮ったやつ、イムスタにあげんの?」
「あげるけどーー」
俺はサッとスマホを取り出して、イムスタを開いた。
「浅見のアカ、どれだっけ?」
フォロー欄をみせたが、ふるふると首を振る浅見。
「それにはあげない」
「へ?」
「……みんなが知らないもう一つのアカの方にあげる」
(そんなアカを持ってんのか……!知りたい、知りたいけど、浅見は知られたくないよな……)
少しの葛藤の末、ダメ元で聞いてみることにした。
「……じゃあ、教えて」
「やだ」
(ですよねー)
「なんで?」
「なんでって、知られたくないからだよ」
「えー。いいじゃん、教えろよ」
「やだよ。知ってどうすんだよ」
浅見のことはなんでも知りたい。そんなことを言えば、絶対に引かれる。
「浅見の目に映った景色を、俺もみたいと思ったから」
これは本心だった。だって、あんなに楽しそうに写真を撮っていたから、どんなものが撮れたのか見てみたい。
「…………」
やっぱり浅見は引いてしまい、怪訝な顔をする。
「え、俺、なんか変なこと言った?」
「うん、だいぶ変」
「え~そうかなぁ~」
結局、アカウントは教えてもらえなかったけど、非常階段には来てもいいと許可をもらった。少しは、受け入れてもらえたのかもしれない。
今日は浅見のかわいい顔をみることができた。浅見のことを知るたびに、俺の中で浅見の存在が大きくなっていく。それはつまり、そういうことなんだと思う。まだ、確信はないけど。



