今日の俺は散々だった。体育の時間、サッカーボールが顔面に当たって鼻血が出た。数学の時間、先生に指名されたけど問題が解けず、俺だけ宿題を増やされた。化学の時間、実験中に水酸化ナトリウムを机にこぼしてしまい慌てて雑巾で拭いたら雑巾から煙が出て、驚いて冷や汗をかいた。
そして昼休み、その反動でパンをドカ食いしてしまい、いつもより張った腹を抱えて騒がしい教室を出た。やけに疲れていて、静かなところにいきたくて、妹に借りた小説(面白いから読めと押しつけられた)を手に、非常階段への扉を開けた。もしかしたらこの上に、浅見がいるかもしれない。いたら話しかけてみよう。そう思うと、なんだかワクワクドキドキしてきて、俺は疲れているのも忘れて、軽い足取りで非常階段を上っていった。
最上階まで上った先で、小さな後ろ姿がみえた。手すりにもたれてスマホをいじっているようだった。俺は足を止めてごくりと唾を飲み込み、ドキドキと高鳴る胸を撫でおろしてから、いつもの調子で声をかけた。
「あ、浅見?」
肩を少し揺らして、こちらを振り返った浅見は、驚いて大きな目をぱちぱちさせていた。
「え、高槻? なんで……」
怪訝な顔をしている。驚かせてはいけないと、できるだけ普段通りになるように自然に振る舞う。
「もしかして、浅見も休憩?」
俺は、さもいつもここに来ているかのように、壁を背にして座り込む。あまり浅見を意識しないように、小説を広げて文字を目で追う。ただし、内容は全く頭に入っていない。
浅見は少し気まずそうにスマホをしまった。落ち着かない様子で視線を泳がせている。しばらく沈黙が続いたあと――
「ごめん、邪魔したな」
浅見が静かに階段を降りて行った。俺は慌てて立ち上がり、階段の隙間から下を覗き込んだ。
「浅見!」
気づいたら叫んでいた。浅見が上を向いて、ばっちりと目が合う。大きな瞳がゆらゆらしている。
「バカか! 落ちるぞ!」
眉間にしわが寄って、怒っているような表情になった。こんな顔もするのか。俺はうれしくなっておもわず笑ってしまう。
「邪魔じゃないから、いつでもどうぞ。べつに俺の場所でもないしな」
じっと怪訝な顔をして俺を見上げている浅見。浅見と目が合っているのがうれしくて、にやけそうになったので、慌てて顔を引っ込めた。
(うわ、久しぶりに浅見としゃべった……たくさん目も合ったし、なんかうれしい)
今日の俺は散々だったけど、もしかしたらこのためだったのかもしれない。もっと浅見のことを知って、たくさん話したい。ただのクラスメイトじゃなく、もっと近い存在になりたい。こんなことを思ったのは、浅見が初めてだ。
そして昼休み、その反動でパンをドカ食いしてしまい、いつもより張った腹を抱えて騒がしい教室を出た。やけに疲れていて、静かなところにいきたくて、妹に借りた小説(面白いから読めと押しつけられた)を手に、非常階段への扉を開けた。もしかしたらこの上に、浅見がいるかもしれない。いたら話しかけてみよう。そう思うと、なんだかワクワクドキドキしてきて、俺は疲れているのも忘れて、軽い足取りで非常階段を上っていった。
最上階まで上った先で、小さな後ろ姿がみえた。手すりにもたれてスマホをいじっているようだった。俺は足を止めてごくりと唾を飲み込み、ドキドキと高鳴る胸を撫でおろしてから、いつもの調子で声をかけた。
「あ、浅見?」
肩を少し揺らして、こちらを振り返った浅見は、驚いて大きな目をぱちぱちさせていた。
「え、高槻? なんで……」
怪訝な顔をしている。驚かせてはいけないと、できるだけ普段通りになるように自然に振る舞う。
「もしかして、浅見も休憩?」
俺は、さもいつもここに来ているかのように、壁を背にして座り込む。あまり浅見を意識しないように、小説を広げて文字を目で追う。ただし、内容は全く頭に入っていない。
浅見は少し気まずそうにスマホをしまった。落ち着かない様子で視線を泳がせている。しばらく沈黙が続いたあと――
「ごめん、邪魔したな」
浅見が静かに階段を降りて行った。俺は慌てて立ち上がり、階段の隙間から下を覗き込んだ。
「浅見!」
気づいたら叫んでいた。浅見が上を向いて、ばっちりと目が合う。大きな瞳がゆらゆらしている。
「バカか! 落ちるぞ!」
眉間にしわが寄って、怒っているような表情になった。こんな顔もするのか。俺はうれしくなっておもわず笑ってしまう。
「邪魔じゃないから、いつでもどうぞ。べつに俺の場所でもないしな」
じっと怪訝な顔をして俺を見上げている浅見。浅見と目が合っているのがうれしくて、にやけそうになったので、慌てて顔を引っ込めた。
(うわ、久しぶりに浅見としゃべった……たくさん目も合ったし、なんかうれしい)
今日の俺は散々だったけど、もしかしたらこのためだったのかもしれない。もっと浅見のことを知って、たくさん話したい。ただのクラスメイトじゃなく、もっと近い存在になりたい。こんなことを思ったのは、浅見が初めてだ。



