特別の、その先

 「あ、ねぇねぇ、高槻くんだよね?」

 担任からクラス全員分のノートを渡されて教室まで運んでいると、知らない女子に声をかけられた。

 「そうだけどーー」
 「ウチ、3組の川村アミっていうんだけど、よかったらライン交換しない?」
 「あー……」

 手はノートでふさがっていて、周りをみてもノートを置く場所もない。下に置くわけにもいかないしーー

 「アミちゃーん」

 どうしたもんかと困っていたら、クラスの陽キャ・神崎滉人が意気揚々とこちらにやってきた。

 「昨日ラインしたのに、既読無視したよね?」
 「えーそうだっけ?」
 「ほら、これ見て」

 滉人と女子が話し始めたので、この隙に俺はこそこそと退場した。

 「わっ、」

 廊下の角で誰かにぶつかりそうになり、前をみると浅見が驚いて右往左往していた。

 「ごめん」
 「いや、こっちこそ」

 右に避けようとすると浅見も右へ。左に避けようとすると浅見も左へ。俺はおもわず吹き出してしまい、浅見は少し驚いたように瞬きして俺を見上げている。

 「あっ……」

 この時、初めて目が合った。前髪の隙間から覗いた目は、思ったよりずっと大きくて、光を溜めたみたいに揺れていた。きれいだ。一瞬、息が止まる。

 「……っ、浅見って、そんな顔してんだ」

 うれしくて思わず口に出していた。

 「……そんな顔って、どんな顔だよ」
 「そんな顔だよ」
 「はぁ?」

 あまり話したことのないクラスメイトにきれいだとかなんとか言えるはずもなく、適当にごまかしておいた。浅見は怪訝な顔をして、廊下の先を歩いて行った。

 (また非常階段にいくのかな)

 今度は、ちゃんと話してみたい。浅見のことを、もっと知りたい。