楽しい時間はあっという間に過ぎる。くわえて、十一月は日の入りが早い。午後4時半を過ぎた頃には、鮮やかな橙色から深い群青色へとグラデーションに空が色づく。その様をぼんやりと見上げながら、高槻と手をつないで家までの道をゆっくりと歩く。いつもなら、駅の改札口で別れるのに「もう暗くなるから家まで送る」と高槻が言ってくれた。家までついてきてもらうのはさすがに悪いと思って一度断ったんだけど、「もう少し一緒にいさせて」と寂しそうにお願いされては断れない。
「ここ、俺の家」
とうとう家の前まで来てしまった。名残惜しそうに、つないでいた手が離れていく。
「いい家じゃん」
「べつに普通の一軒家だけど」
「浅見が住んでるだけで、ここは特別になるんだよ」
「……はいはい、そうですか」
俺はおもむろに、カバンから小さな袋を取り出した。
「これ、誕生日プレゼント」
それを差し出すと、高槻は少し驚きながらもうれしそうに受け取った。
「べつによかったのに~」
と言いながらもわくわくしながら開封している。
「あ、この子……」
袋から出てきた又三郎をみて黙ってしまった。
(あ、嫌だったかな……)
「俺がゲーセンで取った又三郎……」
「そう。今、俺のカバンについてる」
カバンにつけている又三郎をみせると、二つの又三郎を交互に手に取った。
「おそろい?」
「……うん、嫌だった?」
ふるふると首を振って、うれしそうに頬をゆるめる。
「うれしい、ありがとう。今までで一番うれしいプレゼントだ」
「そんなおおげさな……」
「カバンにつけて持ち歩く。浅見だと思って大事にする」
「えーどっちかっていうと、又三郎は高槻似じゃね?」
「違うって。俺が又三郎似だから」
「どっちでもいい」
意味のないことを言いながら笑い合う。この時間が心地よくてすきだ。
笑い声もおさまって、なにか次の話題を探そうとするけれど思いつかない。もう空はうす暗くなって、街灯もぽつぽつと灯り始めた。高槻の手がそっと伸びて、俺の手を取る。あたたかい。
「じゃあそろそろ帰る……」
「……うん、じゃあ」
ゆっくりと手が離れていく。
「今日はありがとう。最高の誕生日だった」
「俺も、楽しかった」
高槻が踵を返し、歩いてきた道を戻っていく。後ろを振り返りながら、俺に向かって手を振る。
「前みろバカ」
俺も手を振り返す。
(結局、キスできなかったな……)
指で下唇をそっとなぞり、ため息をついた。
(高槻は最高の誕生日だって言ってくれたけど、俺はーー)
気づけば勝手に足が動いていた。高槻の背中めがけてまっすぐに走る。
「たかつき!」
振り返った高槻は驚いて目を丸くしていた。
「え、なに!?」
「……っ、忘れてた」
「なにを?」
「いいから、目、つむって」
「えーサプライズ的ななにか??」
「黙って」
「は、はい」
高槻が目をつむったことを確認し、静かに息を吐く。緊張で胸がドキドキして、ごくりと喉を鳴らした。周りに誰もいないことを確認してから、高槻の肩に手を乗せる。少し背伸びをして、ゆっくりと顔を寄せる。目をつむって、そっと唇をあてた。目を開けると、高槻と目が合う。恥ずかしすぎてそっぽを向いた。うるさい心臓をなだめるように、胸を撫でおろす。
「…………」
高槻は黙ったままなにも言わない。
(どうしよう、引かれたかも……)
おそるおそる振り向くと、高槻は真っ赤になって手の甲を口元にあてていた。高槻が一番照れた時の仕草だ。
「……えっと、ごめん」
「……なんで謝るの?」
「……俺の方からキスしたら高槻が喜ぶかもって思ったけど、そうじゃなかった」
「え?」
「俺が高槻とキスしたくて、許可も取らずにしちゃった……ごめん」
「なにそれ……」
高槻は脱力したようにふにゃりと顔をゆるめて苦笑する。
「まさか浅見からキスされるなんて思わなかったから、すげードキドキした」
「……びっくりしたよな。ごめん。今度から許可取るようにするからーー」
不意に高槻の顔が近づいて、ちゅっとリップ音を立ててキスをされた。数秒後にやっと理解して、たちまち顔が熱くなる。
「いいよ。許可取らなくて。浅見がしたいと思った時にして? 俺もそうするから」
「……わかった。でも、さっきのはずるい」
「え?」
「話してる途中にするのはなんか、不意打ち過ぎてーー」
また、唇が重なる。今度は唇を食べるみたいに、角度を変えて何度もあまがみされる。頭がふわふわしてなにも考えられない。苦しいのに気持ちいい。
やっと解放された時には、頭がぼんやりして呼吸も浅くなっていた。
「浅見、かわいい」
そっと胸の中に抱きしめられる。
「……バカ」
ぽつりと言い返すと、腕を解かれて顔をのぞき込まれた。
「好き。浅見、好きだ」
高槻の熱のこもった視線にまたドキドキさせられて、俺は下を向いた。
「……ずるいって」
高槻はうれしそうに俺の手を握って、そのまま離そうとしなかった。
これから先、ケンカもすると思う。今日みたいにうまく気持ちが伝えられなくて、悩む日もきっとある。
それでも、そのたびに話して、笑って、また隣にいられたらいい。
高槻と過ごす時間は、どうでもよかった毎日を、少しずつ特別に変えていく。
寒い夜だったけど、つないだ手はずっとあたたかくて、俺も離したくないって思った。
「ここ、俺の家」
とうとう家の前まで来てしまった。名残惜しそうに、つないでいた手が離れていく。
「いい家じゃん」
「べつに普通の一軒家だけど」
「浅見が住んでるだけで、ここは特別になるんだよ」
「……はいはい、そうですか」
俺はおもむろに、カバンから小さな袋を取り出した。
「これ、誕生日プレゼント」
それを差し出すと、高槻は少し驚きながらもうれしそうに受け取った。
「べつによかったのに~」
と言いながらもわくわくしながら開封している。
「あ、この子……」
袋から出てきた又三郎をみて黙ってしまった。
(あ、嫌だったかな……)
「俺がゲーセンで取った又三郎……」
「そう。今、俺のカバンについてる」
カバンにつけている又三郎をみせると、二つの又三郎を交互に手に取った。
「おそろい?」
「……うん、嫌だった?」
ふるふると首を振って、うれしそうに頬をゆるめる。
「うれしい、ありがとう。今までで一番うれしいプレゼントだ」
「そんなおおげさな……」
「カバンにつけて持ち歩く。浅見だと思って大事にする」
「えーどっちかっていうと、又三郎は高槻似じゃね?」
「違うって。俺が又三郎似だから」
「どっちでもいい」
意味のないことを言いながら笑い合う。この時間が心地よくてすきだ。
笑い声もおさまって、なにか次の話題を探そうとするけれど思いつかない。もう空はうす暗くなって、街灯もぽつぽつと灯り始めた。高槻の手がそっと伸びて、俺の手を取る。あたたかい。
「じゃあそろそろ帰る……」
「……うん、じゃあ」
ゆっくりと手が離れていく。
「今日はありがとう。最高の誕生日だった」
「俺も、楽しかった」
高槻が踵を返し、歩いてきた道を戻っていく。後ろを振り返りながら、俺に向かって手を振る。
「前みろバカ」
俺も手を振り返す。
(結局、キスできなかったな……)
指で下唇をそっとなぞり、ため息をついた。
(高槻は最高の誕生日だって言ってくれたけど、俺はーー)
気づけば勝手に足が動いていた。高槻の背中めがけてまっすぐに走る。
「たかつき!」
振り返った高槻は驚いて目を丸くしていた。
「え、なに!?」
「……っ、忘れてた」
「なにを?」
「いいから、目、つむって」
「えーサプライズ的ななにか??」
「黙って」
「は、はい」
高槻が目をつむったことを確認し、静かに息を吐く。緊張で胸がドキドキして、ごくりと喉を鳴らした。周りに誰もいないことを確認してから、高槻の肩に手を乗せる。少し背伸びをして、ゆっくりと顔を寄せる。目をつむって、そっと唇をあてた。目を開けると、高槻と目が合う。恥ずかしすぎてそっぽを向いた。うるさい心臓をなだめるように、胸を撫でおろす。
「…………」
高槻は黙ったままなにも言わない。
(どうしよう、引かれたかも……)
おそるおそる振り向くと、高槻は真っ赤になって手の甲を口元にあてていた。高槻が一番照れた時の仕草だ。
「……えっと、ごめん」
「……なんで謝るの?」
「……俺の方からキスしたら高槻が喜ぶかもって思ったけど、そうじゃなかった」
「え?」
「俺が高槻とキスしたくて、許可も取らずにしちゃった……ごめん」
「なにそれ……」
高槻は脱力したようにふにゃりと顔をゆるめて苦笑する。
「まさか浅見からキスされるなんて思わなかったから、すげードキドキした」
「……びっくりしたよな。ごめん。今度から許可取るようにするからーー」
不意に高槻の顔が近づいて、ちゅっとリップ音を立ててキスをされた。数秒後にやっと理解して、たちまち顔が熱くなる。
「いいよ。許可取らなくて。浅見がしたいと思った時にして? 俺もそうするから」
「……わかった。でも、さっきのはずるい」
「え?」
「話してる途中にするのはなんか、不意打ち過ぎてーー」
また、唇が重なる。今度は唇を食べるみたいに、角度を変えて何度もあまがみされる。頭がふわふわしてなにも考えられない。苦しいのに気持ちいい。
やっと解放された時には、頭がぼんやりして呼吸も浅くなっていた。
「浅見、かわいい」
そっと胸の中に抱きしめられる。
「……バカ」
ぽつりと言い返すと、腕を解かれて顔をのぞき込まれた。
「好き。浅見、好きだ」
高槻の熱のこもった視線にまたドキドキさせられて、俺は下を向いた。
「……ずるいって」
高槻はうれしそうに俺の手を握って、そのまま離そうとしなかった。
これから先、ケンカもすると思う。今日みたいにうまく気持ちが伝えられなくて、悩む日もきっとある。
それでも、そのたびに話して、笑って、また隣にいられたらいい。
高槻と過ごす時間は、どうでもよかった毎日を、少しずつ特別に変えていく。
寒い夜だったけど、つないだ手はずっとあたたかくて、俺も離したくないって思った。



