特別の、その先

 あの場所ーー非常階段は、俺の場所でも高槻の場所でもない。だから、譲られるのはなんか違う。それが言いたくて、さっきから高槻を探しているけど、なぜかどこにもいない。教室にも、廊下にもいない。昇降口にもいなくて、気づけば校庭まで来ていた。

 (くっそーどこ行きやがったんだよ……)

 探していない場所はーー

 「あそこ、か……」

 放課後なので人もまばらだが、一応周りを気にしながら非常階段へのドアを開ける。ゆっくりと階段を上り、最上階までやってきた。

 (やっぱ、いた)

 夕日に照らされた後姿は静かに街を見下ろしている。声をかけるのをためらわれるほど、見入っている様子だったので、俺は静かに踵を返す。その時、ブゥゥンとスマホが震えて、その音で高丘が後ろを向いた。

 「浅見……」
 「ごめん。邪魔するつもりはなかったんだけど」
 「だから、邪魔じゃないって言ってんじゃん」

 高槻は頬を緩めて手招きする。俺は少し迷った後、高槻の隣に立った。

 「もう来ないんじゃなかったの?」
 「そう。だから見納め?」
 「……そんなに気に入ってるなら、また普通に来れば?」
 「え、いいの?」
 「いや、そもそも、俺の場所でもないし」
 
 夕陽が、東の空へ沈んでいく。橙色に染まった街が、だんだんと暗くなっていく。
 俺はすかさずスマホを取り出して、カメラを起動した。街の色が変わっていく瞬間を画角におさめたくて、スマホを構える。

 「へぇ~写真撮るのすきなんだ?」

 カシャカシャと撮影している横で、高槻があまり興味がなさそうに聞いてきた。

 「まあ……撮るだろ、普通。高槻は?」
 「え、まぁ、たまに」
 「イムスタのアカないの?」
 「あるけど、あんま見ない」

 意外だった。SNSとか頻繁にやってそうなのに。

 「さっき撮ったやつ、イムスタにあげんの?」
 「あげるけどーー」

 高槻はスマホを取り出して、イムスタを起動させる。

 「浅見のアカ、どれだっけ?」

 フォロー欄を見せられる。そこには俺のアカウントもあるにはあるがーー

 「それにはあげない」
 「へ?」
 「……みんなが知らないもう一つのアカの方にあげる」

 黙っていようかと思ったけど、なぜか高槻には秘密のアカウントがあることを話してしまった。

 「……じゃあ、教えて」
 「やだ」
 「なんで?」
 「なんでって、知られたくないからだよ」
 「えー。いいじゃん、教えろよ」
 「やだよ。知ってどうすんだよ」

 高槻は少しの沈黙の後、ふっと口角を上げた。

 「浅見の目に映った景色を、俺もみたいと思ったから」
 「…………」
 「え、俺、なんか変なこと言った?」
 「うん、だいぶ変」
 「え~そうかなぁ~」

 夕焼けが、ゆっくり沈んでいく。隣に人がいるのにやけに静かで、こういうのもべつに悪くないかもと思った。
 結局、アカウントは教えなかったけど、そのあとも、何度かあそこに行った。