特別の、その先

 高槻へ
 久しぶりにノート開いた。
 ずっと書けなくてごめん。

 宮崎さんと一緒にいる高槻を見るのが、思ったよりしんどかった。
 自分でもなんでこんなに嫌なのかわからなかったけど…

 俺、高槻のことが好きなんだと思う。

 だから、宮崎さんと後夜祭に行くって聞くのが怖い。
 応援したいのにできない。

 プラネタリウム失敗すればいいとか思った。最低だ。

 ほんとは、後夜祭、一緒にいたい。
 できればこれからも、ずっと隣にいたい。


 ノートを書き終えて空を見上げる。ほっと息を吐いた。さっきまで明るかった空の色が、いつの間にか橙色になりかけている。
 文化祭準備の時から、ずっといろんな感情がうずまいてごちゃごちゃしていたけれど、ノートに書きだすことで少しすっきりした。改めて、書いた文章を目で追う。

 「……これはさすがに、わたせないよな」

 俺のありのままの気持ちを書いた。これを全部高槻に知られたら、今までの関係じゃいられなくなる。隣にいられないなら、友達のままでいた方がいい。高槻が笑ってくれる場所を、残しておきたい。
 俺は迷いなくこのページを破った。ぐしゃぐしゃに丸める。立ち上がって、校庭めがけて腕をふりかぶったけれど、握り締めたまま離せない。そう簡単には捨てられない。

 「どうすりゃいいんだよ……」

 手を開いて、丸まった紙をみつめる。ふと、足元に置いたカバンが目に留まる。そこにつけている又三郎と目が合って、ちょんっと指でつついた。

 「どうしたらいいと思う?」

 又三郎はきりっとこちらをみているだけだ。ため息が漏れて、俺は紙をポケットに突っ込んだ。

 ▽▽▽▽

 たくさんのお客さんがきて盛り上がった文化祭が終わろうとしている。校舎内には、一般客の姿はほとんどなく、あちこちで片付けが始まっていた。空の色も、橙色から紫色へ変わろうとしている。
 教室に戻ると、何人かのクラスメイトがバタバタと教室から出て行った。

 「もうすぐ後夜祭始まるって! 片付けなんか後でいいから、浅見も来いよ」
 「うん、もう少ししたら行く」

 返事をしてから教室に入る。片付けは途中のまま放置されていて、ほの暗い教室の中で田辺がのそのそと展示物を片付けていた。

 「おつかれ~」
 「おー。今日は一緒に回れなくてごめん」
 「そんなんいいって。友達と楽しく過ごせた?」
 「うん、まぁ……久々にゆっくり話せてよかったわ」
 「そっか。よかった」

 田辺が満足そうに口元をゆるめていて、俺もなんだかうれしい。

 「浅見は? 文化祭楽しめた?」
 「う~ん……まぁまぁかな」

 黒板に貼ってある飾りを取って、書かれてある上映時間や役割分担表などをきれいに消していく。

 「……高槻のことはいいの?」

 黒板を消す手が止まった。

 「……よくはないけど、いい」

 自分でも、どうしたらいいのかわからない。

 「なんじゃそりゃ」

 田辺は苦笑しながら、教室内のゴミを拾っている。俺も一緒に、ゴミ拾いをする。くしゃくしゃに丸まった紙を拾った。広げてみると、プラネタリウムのチラシだった。

 「せっかく作ったのに、こんなにくしゃくしゃにされたら虚しいよな」
 「……うん」

 俺はポケットに突っ込んだままになっている紙を取り出した。丸まったそれを広げて、もう一度読み直してみる。

 「おっ、始まったか!」

 田辺の声で顔をあげると、校庭に次々とライトが灯り始めた。窓辺に寄って、その様子をみつめる。ぼんやりと弱弱しい光が、少しずつ少しずつ明るくなっていく。手元をみると、校庭のライトの光がくしゃくしゃの紙を白く照らしていた。そこに書かれた”好き”の文字がやけに鮮明に、輝いてみえた。

 (やっぱり、俺、高槻のことがーー)

 振り返って田辺をみる。

 「あのさ、やっぱり俺、よくない」

 気づけばそう口走っていた。田辺は、にやりと口端を持ち上げる。

 「うん、片付けやっとくから」

 田辺がうなずいたのを確認して、教室を出る。

 「っ、ありがとう、けんちゃん!」

 廊下をでたところで、田辺の笑い声が聞こえた。

 「けんちゃんって……まぁ、いいけど」