特別の、その先

 受付係の仕事がおわり、たこ焼きとから揚げを調達して非常階段にやってきた。ほっとして壁に背をあずけて座り込む。受付を担当した時間は1時間半なのに、やけに長く感じた。俺があの場にいたくなかったからだ。
 校庭では、運動部が担当しているいろんな屋台がずらっと並んでいて、生徒たちの客引きの声や楽しんでいるお客さんたちの声がここまで届いている。文化祭の賑やかな雰囲気を感じながら、ここで一人で過ごすのも悪くない。本当は、田辺や高槻と一緒に回りたかったけど、田辺は友達といるし、高槻は解説係で忙しいから仕方がない。
 かつお節がおどっている熱々のたこ焼きを爪楊枝で刺して、口に運ぼうとしたその時、階段を上ってくる足音が聞こえた。

 「あ、やっぱいた」

 身構えていたら、高槻がひょこっと顔を出した。

 「なんで?」
 「昼休憩。浅見がここにいるかと思って」

 当たり前のように俺の隣に座る高槻。手には、焼きそばときれいな袋に入った焼き菓子を持っている。

 (……今は一緒にいたくないんだけど)

 「そんな嫌そうな顔すんなよ」
 
 高槻が苦笑している。

 (嫌っていうか気まずいっていうか……)

 黙っていると、高槻がスッと立ち上がった。

 「……わかったよ。邪魔して悪かったな」

 ため息をついて立ち去ろうとしたので、咄嗟に腕を伸ばす。高槻の制服の裾をつかんでしまった。高槻は振り向いて、じっと俺をみている。

 「……嫌じゃないから」

 高槻はやわらかく笑って、また俺の隣に座りなおした。気まずくても、やっぱり一緒にいたいと思ってしまった。もしかしたらもう、ここで一緒に過ごすことはないかもしれないから。

 「やった! かぶってないからシェアしよ!」

 俺のたこ焼きとから揚げを嬉々として指さす高槻。

 「しかたないな……」

 たこ焼きを差し出すと、8個あったうちの4個を一気に食べてしまい、空いたところに焼きそばを入れてくれた。

 「あ、青のりついてる」

 手を伸ばして、高槻の口端についた青のりをそっと指で取った。

 「え……?」

 目を細めてじっと見つめられる。ドキドキと心臓が早鳴り、体温が上がっていく。恥ずかしくて目をそらしたいのに、高槻のまっすぐな視線にとらえられてそらせない。

 「……浅見も、ついてる」

 高槻の手が伸びてきて、指で俺の下唇をなぞるようにそっと触れていった。高槻はへへっと照れたように笑って、ゆっくりと離れて行った。触れられた唇が妙に熱くて、俺は下を向く。

 「……っ、午後からも忙しいんだろ?」

 胸のドキドキをごまかすように話題を振った。

 「う~ん、回る時間はほぼない」

 高槻は俺のから揚げを一つつまむと、かわりに焼き菓子を一つくれた。

 「今年は諦めるけど、来年は絶対いっしょに回ろ」

 顔を上げると、高槻と目が合う。ん?、と口角を上げた。

 (高槻は来年も俺と一緒にいてくれるんだ)

 それはきっと叶わないだろうけど、俺は静かにうなずいた。

 「……うん、そうだな」

 今、この時だけでも俺を選んでくれてうれしかったから。

 「……それでさ、浅見」

 改まったように姿勢を正したかと思うと、真剣な顔をして俺をみつめる。

 「この後の、後夜祭のことなんだけどーー」

 嫌な予感がして、ぎゅっと拳を握った。次の瞬間、ヴーヴーとスマホが震える。

 「え、こんな時にーー」

 高槻は慌てて電話に出て「すぐ行く」と即答し、急いでゴミをまとめた。

 「ごめん、あとで話すから」
 「……うん」
 「話すまで、待っててほしい」
 「……わかった」

 俺がうなずいたのを確認し、急いで階段を駆け下りて行った。

 (後夜祭の話って……)

 「宮崎さんのこと、だよなぁ……」