特別の、その先

 浅見が嫌がっても断られても、浅見と一緒にいる。だって、あんな状態の浅見を放っておけない。そう心に決めて、保健室の戸を開けた。中には先生の姿はなく、名波がぽつんと突っ立っているだけだった。

 「え、もう終わったけど」

 気づけば迷わず保健室に入っていた。浅見の指には絆創膏が巻かれていたけど、ひどい状態だった。思わず眉をひそめる。

 「ぐちゃぐちゃじゃん。ちゃんと傷口洗った?」
 「え、いや……」
 「ほら、座って」
 「だ、大丈夫だって。こんなのすぐ治るから」
 「大丈夫じゃない」

 浅見を丸椅子に座らせて、傷口に触れないよう注意しながら流水で洗った。止血用のガーゼを名波にわたし、傷口にあてるように言った。

 「浅見さ、最近、元気ないよね」
 「……そんなことないけど」

 浅見は丸椅子に座ったまま、ゆっくりくるくると回っている。そのせいで、全く視線が合わない。

 「あるよ。今だって、目も合わせてくれないし」

 くるくる回るのをやめて、やっと俺の方をみてくれた。だけど、やっぱりなんだか辛そうで、前髪からのぞく瞳がゆらゆら揺れている。

 「俺、またなんかしたのかなって……」

 以前も、少し避けられたことがあった。浅見に避けられるだけならまだマシだけど、浅見が辛そうにしているのは耐えられない。その原因が俺だったら、自分を許せないと思う。

 「……高槻はなにも悪くないよ」

 口ではそう言っているけど、たぶん俺は無関係じゃない。

 「じゃあ、なんで……」

 どうしても理由が知りたくて、じっと浅見をみる。

 「……ごめん、言えない」

 また目をそらされてしまった。拒絶されてると思うと、ズキズキと胸が痛み始めた。胸の痛みをごまかすように、静かに息を吐いてから、そっと浅見の手を取る。傷口の様子をみながら、手当の続きをした。

 「……ごめん」

 しんと静かな室内に、浅見のか細い声がぽつんと響く。浅見の力になりたいのに、何もできない自分が歯がゆい。なにか声をかけたいのに、何も思いつかなくて口を引き結んだ。

 「痛むなら病院行けよ」

 こんなことを言いたいんじゃない。でも今は、こんなことしか言えない。重くて苦しい空気の中で、救急セットを片付けていると、浅見の頬が光った。

 「浅見……」

 つーっと静かにに涙が落ちていく。おもわず、浅見の方へ手を伸ばす。

 「みるな」

 俺の手を拒絶するように下を向いた。

 「俺、高槻に優しくされる資格ない」

 ぽたぽたと涙がこぼれ落ちて、拭ってもきりがない。

 「なんだよ、それ……意味わかんねーよ」

 なにがそんなに辛いんだろう。できることなら代わってやりたい。何もできない自分が歯がゆくて腹立たしい。

 「……ごめん」

 また浅見に謝らせてしまった。謝ってほしくない。浅見には幸せでいてほしい。笑ってほしい。それだけなのに、今の俺は、浅見のためになにもできない。

 「……俺に言いにくいことなら仕方ないけど」

 悔しくて、膝の上でぎゅっと拳を握った。

 「頼むから、一人で抱え込むなよ」

 抱きしめたい衝動をぐっと我慢して、浅見の髪を軽く撫でて保健室から出た。