特別の、その先

翌日、俺は浅見に会いたすぎて早めに家を出た。学校近くのコンビニで待機し、浅見が通りかかったところでコンビニを出て浅見を追いかける。

 「あさみー!」

 通学路をとぼとぼ歩く浅見の後姿に向かって、手を振りながら駆けていく。後ろを振り返った浅見は少し驚いて軽く手を挙げた。

 「おはよ!」
 「おはよう。今日は早いな」

 まだ完全に目が覚めていないのか、ぼんやりしている。後ろ髪がちょんと跳ねていて、寝ぐせがついたままになっていた。寝不足なのか、うっすらと目の下に隈がみえる。

 (寝ぐせ……浅見らしい。隈あるけど、大丈夫かな)

 「浅見と話したくて早く来た」
 「え? いっつも話してるじゃん。休み時間とか」
 「そうだけど、ゆっくり話したくて」
 「……あー、高槻、最近忙しいもんな。文化祭の準備で」

 浅見の横に並んで歩く。あまり車の通らない道だけど、自転車がスピードを出して横を通過するので、俺は車道側を歩いた。

 「おもったより忙しくてさ、放課後もずっと居残りだし」
 「すげーよ。高槻も、宮崎さんも……率先して動いてクラスまとめて」
 「俺は早く終わりたくて早く動いてるだけなんだけどね」
 「それがすごいんだって……かっこいいなって思う」

 耳を澄まさないと聞こえないほど小さな声だったけど、確かに浅見はかっこいいと言った。

 (うわ……めちゃくちゃうれしい!)

 うれしくてさけびだしそうになるのを、ゴホンッと咳をして堪え、隣の浅見をじっとみつめる。俺の視線に気づいたのか、浅見もこちらを見上げて、目が合うと少し頬を赤くした。

 「なんだよ……」
 「へへっ、浅見だなぁと思って」
 「は? 意味わからん」

 ▽▽▽▽

 放課後ーー浅見にかっこいいと言われてやる気に満ち溢れている俺は、張り切って作業に臨んでいた。途中、男子がふざけ始めて、積み重なっている段ボールが宮崎さんめがけて倒れてきた。偶然近くにいた俺が、宮崎さんをかばったので事なきを得た。作業にもどろうとした時、教室の中に名波の姿が見当たらない。

 「田辺、浅見は?」
 「トイレいった。すぐ戻ってくると思うけど」
 「あー、そっか」

 しばらくしても浅見はもどってこず、田辺の姿も見当たらないので、作業の合間をみて教室を出た。

 (最近、元気なさそうだったし、今朝も寝不足っぽかった。体調悪いのかも……)

 浅見を探して廊下を歩いているとーー

 「高槻くん、ちょっといい?」

 宮崎さんに呼び止められた。

 「え? あ、うん」

 なにか言いにくいことなのか、下を向いて落ち着きなく指をいじっている。しばらくして、意を決したように顔を上げた。

 「文化祭、成功したら……後夜祭、一緒に行ってくれませんか」
 「……え」

 予想外のことに、俺は固まってしまった。確か、この間、大友さんが言っていた。後夜祭を一緒に過ごした二人は結ばれるとかなんとか。
 宮崎さんは真っ赤な顔をして、不安そうに瞳を揺らしながらじっと返事を待っている。

 (そっか……宮崎さんはそんな風に俺のことみてくれてたんだ)

 ラインのやり取りが長かったり、たくさん話しかけてくれたり、目が合うと少し困ったように笑ったり。今思い返すと、それらは全部、宮崎さんからのサインだったのかもしれない。それなのに俺は全く気付かず、宮崎さんはすごいとかがんばっているとか、そういう言葉を不用意に伝えてしまった。思わせぶりなことをしていたかもしれない。
 なんだか急に申し訳なくなり、胸が痛くなった。

 「……あ、急にこんなこと言われたら困るよね。ごめんなさい」

 しかも、宮崎さんに謝らせてしまう始末。情けない。

 「いや、違う……宮崎さんの気持ちはうれしいんだけど……俺、他に誘いたい人がいて」

 途端に宮崎さんの顔からサーッと表情が消えていく。

 「あ、そうなんだ……」
 「うん、ごめん」

 泣きそうに瞳をゆらしながら、無理やりに笑った。

 「謝らないで……」
 「……うん。誘ってくれてありがとう」
 「わたしの方こそ、ありがとう……」

 一筋涙を流して、悲しそうに笑っている。

 「じゃあ……」

 俺は踵を返し、浅見を探しに戻った。背後で宮崎さんのすすり泣く声がきこえて、胸が痛んだ。