特別の、その先

 痛む指先をティッシュでぐるぐる巻きにして保健室にやってきた。先生は不在のようで、勝手に触っちゃだめだよなと思いつつ、棚を漁って絆創膏を探す。みつけた絆創膏を2枚拝借し、傷口を覆うように貼った。

 「これでいっか」

 ガラガラと戸が開いて、迷いなくまっすぐ高槻が入ってきた。

 「え、もう終わったけど」

 絆創膏を巻いた指をみせると、眉をひそめる高槻。

 「ぐちゃぐちゃじゃん。ちゃんと傷口洗った?」
 「え、いや……」
 「ほら、座って」
 「だ、大丈夫だって。こんなのすぐ治るから」
 「大丈夫じゃない」

 少しムッとした表情で丸椅子をぽんぽん叩かれる。ここに座れということだろう。抵抗するのも面倒なのでゆっくりとイスに腰かけた。高槻が優しく絆創膏を外してくれる。傷口を流水で洗った後、小さく切ったガーゼをわたされて、しばらくガーゼを傷口にあてて止血しろと言われた。

 「浅見さ、最近、元気ないよね」
 「……そんなことないけど」

 高槻がじっとこっちをみている。俺は見透かされないように、丸椅子に座ったままくるくる回り、視線をそらした。

 「あるよ。今だって、目も合わせてくれないし」

 遊んでいるふりをしていたのバレバレだった。仕方なく、くるくる回るのをやめて、高槻の方をみる。

 「俺、またなんかしたのかなって……」

 また、あの泣きそうな顔をしている。そうさせているのは俺だ。

 「……高槻はなにも悪くないよ」

 平静を装おうとしたけれど、辛そうな高槻の顔をみるとどうしても胸が痛む。

 「じゃあ、なんで……」

 縋るような高槻の視線に耐えられなくて、また目をそらしてしまった。

 「……ごめん、言えない」

 高槻はそっと俺の手を取り、ガーゼを取って傷口をみる。血が止まっているのを確認すると、ワセリンを塗って、きれいなガーゼで傷口を包んでくれた。

 「……ごめん」

 高槻は何か言いたそうに口を開いたが、せつなげに俺をみてきゅっと口を引き結んだ。

 「痛むなら病院行けよ」

 そう言いながら、救急セットを片付けている。

 高槻は優しい。心配して保健室まで来てくれた。手当てをしてくれた。俺が落ち込んでいると、自分のことのように悲しんでくれる。でも、今はそれが苦しい。
 いっそ全部言ってしまえたら楽になれるのかもしれない。宮崎さんと後夜祭に行かないで。俺の傍にいてほしい。好きなんだ。高槻のことが好きなんだ。
 宮崎さんに嫉妬して、プラネタリウムが失敗してしまえばいいなんて……本当に最低だよな。

 ぐるぐるといろんな感情が巡り、気づけば頬に涙が伝っていた。

 「浅見……」

 ゆっくりと、高槻の手が伸びてくる。

 「みるな」

 俺は咄嗟に下を向いた。

 「俺、高槻に優しくされる資格ない」

 拭っても拭っても、次から次へと涙が落ちる。

 「なんだよ、それ……意味わかんねーよ」

 呆れと怒りを含んだような高槻の低い声。

 「……ごめん」

 俺はただ、ごめんと謝ることしかできない。

 「……俺に言いにくいことなら仕方ないけど」

 高槻は膝の上でぎゅっと拳を握る。

 「頼むから、一人で抱え込むなよ」

 高槻は俺の髪をくしゃと撫でて、静かに保健室から出て行った。