特別の、その先

 また意味もなくトイレに戻り、丁寧に手を洗って、顔のマッサージをして、ふらふらと教室に戻った。俺が戻ったころには、作業している人数も数人しかいなくなっていた。高槻は田辺と一緒に作業していて、宮崎さんは友達と一緒にいる。

 「あ、浅見! どこ行ってたんだよ」

 高槻が駆け寄ってきた。

 「えっと、ちょっとトイレに」
 「なんか顔色悪くない? 大丈夫?」
 「……うん、大丈夫。これ、切ればいいの?」

 ケント紙を貼りつけた段ボールを設計図通りに採寸し、カッターで切る作業をしていた。俺もカッターを借りて、教室の隅に行った。今は、高槻の顔をまともにみれない。

 (高槻はなんて返事したんだろう、断る理由ないよな、宮崎さんがんばってたし、お似合いだし……)

 作業に集中するために一人になったのに、頭に浮かぶのはさっきの二人の姿。

 (俺なんかより、宮崎さんの方が……)

 ズキズキと胸が痛む。息が苦しい。

 (二人はつき合っちゃうのかな……)

 ふと顔を上げると、田辺と笑い合っている高槻の顔が見えて、次の瞬間、目が合った。俺は咄嗟に目をそらして、作業に集中しているふりをする。

 (嫌だな……もし文化祭が成功しなかったら、高槻は後夜祭に行かないのかな……)

 段ボールをカットしていた手が止まる。

 (……プラネタリウムが失敗してしまえば高槻はーー)

 よくない考えが頭を過り、払拭するようにふるふると軽く頭を振った。

 (……って、なに考えてんだよ)

 スッとまっすぐカッターの刃を動かしたつもりが、なぜか指の方に移動してしまいザクッと指先を切ってしまった。

 「あ……」

 パカッと切れた傷口から赤い血がにじんで、だらだらと指にたれていく。ポタッと真っ白なケント紙に血の染みができて、ようやく自分がケガをしたことを認識した。

 「え、ちょ、浅見!」

 高槻が驚いた様子で傍に駆け寄ってきた。

 「血、出てるぞ」

 ティッシュで指の血を優しく拭ってくれて、心配そうに顔を覗き込んでいる。

 「保健室行こ」

 視界の端に、こちらをみている宮崎さんが映った。

 「行ってくるから、高槻は作業の続きしてろよ」
 「付き添うよ。ぼんやりしてて心配だし」
 「大丈夫だって。高槻はリーダーなんだから教室にいなきゃ」
 「でもーー」

 断っても付き添おうとする高槻を振り切って、俺はさっさと教室を出た。保健室に向かって廊下を歩いていると、やっとじんじんと指先が痛み始めた。

 「痛いな……」