特別の、その先

 高槻へ


 ここ一週間くらい、ノートと向き合っているけどなにも書けない。どうしても、言葉が何も浮かばない。浮かぶのは、宮崎さんの隣で笑っていた高槻の顔。思い出して胸が痛くなって、結局ノートを閉じてしまう。
 今日もノートを机に置きっぱなしで、俺はベッドにもぐりこんだ。ノートをわたさなくても、高槻は何も言わないし催促もしない。このまま俺がノートをわたさなかったら、このやりとりもおわってしまう。それは嫌だけど、どうしても何も書けない。
 俺はふるふると頭を振って、目を閉じた。

 (俺はただ、高槻を好きなだけなのに……なんでこんなにしんどいんだよ……)

 ▽▽▽▽

 放課後、今日も文化祭の準備作業。初日は手伝う人数も多かったのに、だんだんと人数が減ってきている。手伝っている人も同じような作業にだれてきて、しゃべってるだけの人や、遊びだす人まででてきた。宮崎さんが作業しながら、クラス内を見渡してなにか言いたげにしている。次の瞬間、クラスの男子がふざけて暴れ始め、立てかけていた段ボールに当たった。何枚も重ねて立てかけていた段ボールは、近くで作業していた宮崎さんめがけて倒れてきた。

 ――ドサドサドサッ

 「え、大丈夫!?」

 慌てて段ボールを退けると、高槻がいた。高丘の胸の中には宮崎さんがいる。高槻が、段ボールから宮崎さんをかばったらしい。

 「高槻、王子様じゃん!」
 「かっけー!」

 高槻は宮崎さんに大丈夫?と様子をうかがってから、ふざけていた男子を睨みつける。

 「違うだろ。まずは宮崎さんにごめんなさい、だろ」

 ふざけてからかっていた男子たちはすかさず宮崎さんに頭を下げて、高槻にもばつが悪そうに謝っている。

 「え~あの二人めっちゃいい感じじゃない?」
 「つきあっちゃえばいいのにね」

 それをみていた女子達がコソコソと楽しそうに話している。

 「まぁ、おまえと高槻の方が全然仲いいけどな」

 田辺がケッと皮肉っぽく笑っているけど、俺は笑うことも言葉を発することもできなかった。宮崎さんが、あの時よりもーー高槻が好きだと打ち明けてくれた時よりも真っ赤な顔をして、うつむいてしまっていた。そんな宮崎さんのことを心配して、高槻が声をかけていたけど、宮崎さんは静かに廊下に出てしまった。

 「……トイレいってくる」

 いたたまれない気持ちになって、田辺に声をかけて俺もふらふらと廊下に出る。決定的瞬間をみせつけられたみたいで、頭がぼんやりしてなにも考えたくない。
 とりあえずトイレに入った。蛇口をひねる。手を洗う。水が冷たくて指先が冷える。特に汚れているわけではないけど、ハンドソープをつけて丁寧に手を洗った。顔を上げると、鏡に映った自分がとてもひどい顔をしていた。うつろな目をして覇気のない暗い顔。

 「浅見、」

 名前を呼ばれてハッとした。

 「大丈夫か?」

 トイレの入り口に田辺が立っていた。心配そうな顔で俺をみている。

 「あ、うん。大丈夫」
 「高槻が、おまえのこと探してたけど」
 「え……」

 (どうしよう、こんな顔で高丘に会えない……)

 鏡を見ながら頬をつまんで伸ばしたり、顔をマッサージするみたいにこねくりまわしてみた。

 (痛い……)

 「なにしてんだよ」

 用を足し終えて隣で手を洗っている田辺に呆れられて、俺も少し笑ってしまった。

 「……なにしてんだろうね」

 田辺のおかげで少しだけ気持ちが軽くなり、一緒にトイレからでた。二人で廊下を歩いていると、渡り廊下に宮崎さんらしき女子がいた。そこには高丘の後姿も見える。このまま進めば二人に遭遇してしまう。俺の足は地面に貼りついたみたいに動かなくなってしまった。

 「うわぁ、タイミングわる」

 隣で田辺がだるそうにつぶやく。

 「高槻くん、ちょっといい?」
 「え? あ、うん」
 「文化祭、成功したら……後夜祭、一緒に行ってくれませんか」
 「……え」

 ウチの学校には、後夜祭を一緒に過ごした二人は結ばれるとかなんとかの噂がある。後夜祭に誘うということは、好きだと告白したようなもので……

 「行くなら今だけど」

 田辺に言われて、俺の足はやっと地面から離れた。踵を返し、来た道を引き返す。田辺が呼び止めてくれたけど、聞こえないふりをした。