学校の校門をくぐる。校庭では運動部の部員が後片付けをしている。駅から走ってきたのですでに息は切れている。非常階段を上る前に、膝の上に手を置いて止まった。ゆっくり深呼吸をしながら息を整える。
「よし……」
上を向いて、足を上げる。必死に階段を駆け上がる。
(足痛い……なんでこんなに走ってんだろ……高槻がいるかどうかもわからないのに)
息も絶え絶えに、なんとか最上階に着いた。そこには高槻の姿はなかった。
「はぁ~っ……」
壁に背を預けてずるずると座り込む。息が苦しくて目を閉じた。自分の呼吸音と、カラスの鳴き声、まだまだセミが忙しく鳴いていて、その中にツクツクホウシの鳴き声も混じっている。
「はぁ、はぁ……っ、さすがに帰ってるよな」
目を開けるとーー
「え、浅見? なんで? カラオケは?」
高槻が目を真ん丸にして驚きながら、階段を上がってきた。
「……っ、いや、高槻の方こそなんでまだいんの?」
「俺は、担任に雑用頼まれて手伝ってたの。っつか、汗だくじゃん。大丈夫?」
「あ……」
走るのに必死で汗のこと気にしてなかった。背中まで汗でぐっしょり濡れている。気持ち悪い。
のろのろとカバンからタオルを取り出す。顔と髪を乱雑に拭いて、シャツのボタンを真ん中まで開けて、パタパタと風を送るように扇いだ。
「はい」
高槻がスポドリを差し出してきた。
「……いいよ。高槻のだろ」
「俺、これあんま好きじゃないから」
「なんで買ったんだよ」
「担任がおごってくれたの」
「……だったら余計にもらうわけにはーー」
「いいから飲め」
高槻はペットボトルのフタを開けて俺に差し出してきた。おずおずとそれを受け取るが、やっぱり高槻にそれを返すように差し出す。
「せめて、高槻から飲んで」
高槻は眉間にシワをよせた。
「ごちゃごちゃ言ってると口移しで飲ませるぞ」
俺は慌ててそれを口に含む。水分が口内にひろがって生き返る心地がした。
「ありがとう」
三分の二くらい飲んで、高槻に返す。高槻はペットボトルのフタを閉めてから、再びスポドリを俺に差し出してきた。
「返されても困るから、浅見が全部飲んで」
「あ、ですよね……」
人が口をつけた、好きでもない飲料が手元にあっても、確かに困る。俺はスポドリを受け取って、ごくごくと喉に流し込んだ。
気づけば、空の色は橙色から紫色に変わりかけていた。俺は急いでポケットからスマホを取り出して、暮れなずむ街の景色を画角におさめた。
「写真撮るために学校にもどってきたの?」
高槻に聞かれて、俺はふるふると首を振る。
「そうだけど、そうじゃない」
「うん?」
高槻は隣に立って、俺を見つめている。心臓がまた大きな音を立て始める。走っている時とは違うドキドキ。俺はごくりと唾を飲み込んで、高槻を見た。
「なんか無性に、高槻に……会いたくなって……気づいたら、走ってた」
高槻の目がゆっくりと見開かれ、頬が少しづつ紅潮していく。
「え……あ、そうなんだ」
高槻は混乱しているのか、ずっとパチパチと瞬きをしている。
「カラオケやっぱつまんなくてさ、高槻とここで話してる方がよかったな」
「……ははっ、そっか」
「うん……あ、カラオケと高槻を比べて高槻の方がいいって言ってるんじゃなくて……えっと、俺が高槻と一緒にいたいって思ったから……って、なに言ってんだろ」
話している途中でなにを言いたかったのかわからなくなって、俺は手で自分の顔を扇ぐ。高槻は俺が話している間、優しい目で見てくれていて、さらに恥ずかしくなって俺は目を伏せた。
「そっか、よかった」
「え?」
「なんか避けられてんのかと思ってたから、俺の勘違いだったんだな」
そうか。意識しすぎてよそよそしい態度を取っていたせいで、高槻を傷つけたかもしれない。
「それ、勘違いじゃないかも……」
「ん?」
「えっと……ごめん。高槻のことちょっとだけ避けてた」
「……え、マジか」
高槻はわかりやすいように肩を落として苦笑する。
「あ、これも高槻のこと嫌いとかじゃなくて……なんて言ったらいいかわかんないけど……」
高槻の目の色が変わった。じっと俺を見据えている。ドキドキが大きくなって、俺は胸に手を当てて息を吐いた。
「高槻のこと、特別になったんだと思う……」
「特別?」
「……うん」
「おぉ~そっか。特別、か……」
高槻は噛みしめるように、特別と復唱して、幸せそうに顔をゆるめた。
(あ、またデレデレした顔してる、かわいいな……)
俺もつられて顔が緩んで、ドキドキが少しおさまった。
「よし……」
上を向いて、足を上げる。必死に階段を駆け上がる。
(足痛い……なんでこんなに走ってんだろ……高槻がいるかどうかもわからないのに)
息も絶え絶えに、なんとか最上階に着いた。そこには高槻の姿はなかった。
「はぁ~っ……」
壁に背を預けてずるずると座り込む。息が苦しくて目を閉じた。自分の呼吸音と、カラスの鳴き声、まだまだセミが忙しく鳴いていて、その中にツクツクホウシの鳴き声も混じっている。
「はぁ、はぁ……っ、さすがに帰ってるよな」
目を開けるとーー
「え、浅見? なんで? カラオケは?」
高槻が目を真ん丸にして驚きながら、階段を上がってきた。
「……っ、いや、高槻の方こそなんでまだいんの?」
「俺は、担任に雑用頼まれて手伝ってたの。っつか、汗だくじゃん。大丈夫?」
「あ……」
走るのに必死で汗のこと気にしてなかった。背中まで汗でぐっしょり濡れている。気持ち悪い。
のろのろとカバンからタオルを取り出す。顔と髪を乱雑に拭いて、シャツのボタンを真ん中まで開けて、パタパタと風を送るように扇いだ。
「はい」
高槻がスポドリを差し出してきた。
「……いいよ。高槻のだろ」
「俺、これあんま好きじゃないから」
「なんで買ったんだよ」
「担任がおごってくれたの」
「……だったら余計にもらうわけにはーー」
「いいから飲め」
高槻はペットボトルのフタを開けて俺に差し出してきた。おずおずとそれを受け取るが、やっぱり高槻にそれを返すように差し出す。
「せめて、高槻から飲んで」
高槻は眉間にシワをよせた。
「ごちゃごちゃ言ってると口移しで飲ませるぞ」
俺は慌ててそれを口に含む。水分が口内にひろがって生き返る心地がした。
「ありがとう」
三分の二くらい飲んで、高槻に返す。高槻はペットボトルのフタを閉めてから、再びスポドリを俺に差し出してきた。
「返されても困るから、浅見が全部飲んで」
「あ、ですよね……」
人が口をつけた、好きでもない飲料が手元にあっても、確かに困る。俺はスポドリを受け取って、ごくごくと喉に流し込んだ。
気づけば、空の色は橙色から紫色に変わりかけていた。俺は急いでポケットからスマホを取り出して、暮れなずむ街の景色を画角におさめた。
「写真撮るために学校にもどってきたの?」
高槻に聞かれて、俺はふるふると首を振る。
「そうだけど、そうじゃない」
「うん?」
高槻は隣に立って、俺を見つめている。心臓がまた大きな音を立て始める。走っている時とは違うドキドキ。俺はごくりと唾を飲み込んで、高槻を見た。
「なんか無性に、高槻に……会いたくなって……気づいたら、走ってた」
高槻の目がゆっくりと見開かれ、頬が少しづつ紅潮していく。
「え……あ、そうなんだ」
高槻は混乱しているのか、ずっとパチパチと瞬きをしている。
「カラオケやっぱつまんなくてさ、高槻とここで話してる方がよかったな」
「……ははっ、そっか」
「うん……あ、カラオケと高槻を比べて高槻の方がいいって言ってるんじゃなくて……えっと、俺が高槻と一緒にいたいって思ったから……って、なに言ってんだろ」
話している途中でなにを言いたかったのかわからなくなって、俺は手で自分の顔を扇ぐ。高槻は俺が話している間、優しい目で見てくれていて、さらに恥ずかしくなって俺は目を伏せた。
「そっか、よかった」
「え?」
「なんか避けられてんのかと思ってたから、俺の勘違いだったんだな」
そうか。意識しすぎてよそよそしい態度を取っていたせいで、高槻を傷つけたかもしれない。
「それ、勘違いじゃないかも……」
「ん?」
「えっと……ごめん。高槻のことちょっとだけ避けてた」
「……え、マジか」
高槻はわかりやすいように肩を落として苦笑する。
「あ、これも高槻のこと嫌いとかじゃなくて……なんて言ったらいいかわかんないけど……」
高槻の目の色が変わった。じっと俺を見据えている。ドキドキが大きくなって、俺は胸に手を当てて息を吐いた。
「高槻のこと、特別になったんだと思う……」
「特別?」
「……うん」
「おぉ~そっか。特別、か……」
高槻は噛みしめるように、特別と復唱して、幸せそうに顔をゆるめた。
(あ、またデレデレした顔してる、かわいいな……)
俺もつられて顔が緩んで、ドキドキが少しおさまった。



