特別の、その先

 「今日こそ、新規開拓しようぜ」

 2学期の初日ということで、今日の授業は午前中だけ。担任のホームルームが終わった途端、待ってましたとばかりに田辺が後ろを向いて俺をラーメンに誘う。
 
 「じゃあさ、ここどう?」

 ちょうど腹が減って、近場のラーメン屋を探していたところだった。スマホ画面を田辺にみせて、イムスタでみつけたおいしそうなラーメン屋を提案する。

 「え、うまそう!」

 田辺の目が輝く。今朝の、だるそうな様子とは雲泥の差だ。

 「どれどれ?」

 いつの間にかやってきた高槻が、俺のスマホを覗き込む。角度のせいなのか、よく見えないらしく、眉根を寄せながらスマホに手を伸ばす。

 「あ……」

 高槻の手が俺の手に、ちょんっと一瞬だけ触れた。だだそれだけのことなのに、俺の心臓はまた騒がしく脈打つ。

 「ん?」

 放っておいてくれればいいのに、高槻は俺の一挙手一投足に反応する。

 「ごめん、なんでもない……」

 うまいことごまかせればいいのに、それができなくて、ぎこちなく笑うしかない。

 (変に思われてないかな……)

 高槻は特に気に留める様子もなく、田辺と話をして、今からラーメン屋にいこうということになった。
 昼間のラーメン屋は平日といえど激込みで、カウンターに座ってしまったがために、俺の右肘は高槻の左肘とぴったりくっついていた(高槻は左利き)。少しだけ距離をあけようとしてみたけど、カウンターが狭くてどうにもならない。食べている間、右肘だけ妙に熱くて落ち着かなかった。何度か高槻に話しかけられて、何か言わなきゃと思うのに言葉が出てこない。うんとかううんとか、そんな返事しかできなかった。

 帰宅してから、ベッドに倒れこむ。どっと疲れが襲ってきて、深く息を吐いた。高槻と一緒にいたら落ち着くし楽だし楽しい、はずなのに。ラーメンだっておいしく食べるはずだったのに、味を覚えていない。ただただドキドキして、高槻と目が合うたびに、逸らしてしまった。

 「絶対変に思われたよなー……」

 静かな部屋にまたため息が響く。ベッドから這い出て、カバンからノートを取り出す。ベッドに這い戻り、寝転んだままでノートを開いた。


 浅見へ
 ノートをわたすのがおそくなってごめんなさい。
 浅見と一緒に植物園に行ったことが楽しくて、色々書こうとしたんだけど、まとまらなかった。ごめん。
 明日から学校だな。2学期からもよろしくな。


 電気に透かすと、何回も書き直した跡が、うっすらとみえる。この四行を書くために、たくさん時間をかけたのかな。その間は、俺のこと考えてくれてたのかな。そう思うと、また胸がドキドキする。高槻が傍にいるわけでもないのに。

 「なんだよこれ……しんどい……」

 俺の呟きは、部屋の中の静寂に飲み込まれて消えていった。