特別の、その先

 呼びかけても返事をしなくなったが、顔色はさっきよりマシになっている。胸を上下させて寝息をたてているので、暑さに疲れて眠ってしまったのだろう。このまま浅見をここに放置するわけにもいかないので、浅見を背負いゆっくりと歩き出した。
 入り口の近くにあった植物園の事務所に行き、事情を説明すると、事務員さんが事務所の一角に簡易ベッドを出してくれた。そこに、そっと名波を寝かせる。額に浮かぶ汗を拭ってから、きれいなタオルを水で濡らして首を冷やす。

 「あさみ……」

 浅見との時間が楽しくて浮かれていた。俺がもっと早く浅見の異変に気付いていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 「ごめんな」

 静かに寝息を立てる浅見の寝顔をみつめる。空調の音だけが部屋の中に響いている。外からはわずかに人の話し声がするが、なんだかここだけが別世界みたいで、二人きりで取り残されたような少し寂しい気持ちになった。浅見に早く目覚めてほしい気持ちと、ゆっくり休んでほしい気持ちが、心の中で拮抗している。

 (甘えてきた浅見、かわいかったな。あんなふうに頼られたの初めてだった。もっとちゃんと支えられるようになりたい。浅見を甘やかしたい)

 「あさみ、好きだ……」

 気づいたら口に出していて、部屋にはだれもいないのに慌てて周りを見回した。名波は変わらず、安らかに眠っている。安心して息を吐くと、ガチャとドアが開いて、心臓が飛び跳ねた。

 「お友達は大丈夫?」

 事務員さんだった。

 「あ、はい。よく寝てます。ベッドありがとうございました」
 「今日はちょっとバタバタしてて、なにもできなくてごめんね」
 「いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけしてーー」

 話の途中で突然ぐぅーと盛大に腹が鳴った。事務員さんは目を丸くした後、クスクス笑っている。俺は恥ずかしくて腹をさすりながら苦笑した。

 「お昼食べてきたら? その間、わたしがみておくわよ」
 「あーー」

 浅見の方に視線を移す。ご当地バーガーを一緒に食べようと言っていたのを、ふと思い出した。

 「目が覚めた時に、一緒に食べたいので、今は大丈夫です」
 「あらそう? じゃあ、なにかあったら遠慮なく言ってね?」

 事務員さんは紙の束を持って、忙しそうに事務所を出て行った。
 俺はイスに座り直し、ポケットからスマホを取り出した。ご当地バーガーの画像を出す。とても大きくて肉厚で食べ応えがありそうだ。ぐ~~とまた腹の底で悲鳴が聞こえた。本当は今すぐにでもバーガーに嚙りつきたいけど、きっと浅見と一緒に食べた方が何倍もうまい。

 いつの間にこんなに大きくなってしまたんだろう。自覚してしまったら、自分の中にとどめておくのは無理だな。