特別の、その先

 植物園に到着した。バスから降りると思ったより暑くて、頭上でギラギラしている太陽を睨みつける(※太陽は直接みてはいけません)。早速入園料を支払って中に入る。真夏なのにいろんな花が咲いていてびっくりした。浅見はスマホを取り出して片っ端から写真を撮り始めた。

 「レンゲショウマ?」
 「これ?」

 うつむき加減に咲いている、半透明の白い花。花びらの先がうす紫色になっている。

 「きれいじゃない? 森の妖精って呼ばれてるらしい」
 「へぇ~。いっぱい咲いてると幻想的な感じ」
 「うん、確かに」

 何枚か撮った後、次に目についた花のところへ向かう。

 「イワタバコ?」
 「タバコ?」

 赤紫色の小さな花で、葉っぱがタバコの葉に似ているらしい。

 「そもそもタバコの葉がわかんねー」
 「え、この葉っぱ食べられるらしい」
 「へぇ~タバコは猛毒なのにな」

 また数枚写真を撮って、次の場所へ移動する。

 「小さくてかわいい」
 「ゲンノショウコ?」

 白い小さな花、腹痛の薬として知られているらしい。効き目がすぐに表れることから、この名前がついたんだとか。

 「名前の由来おもしろい」
 「うん、覚えられそう」

 浅見はずっと、プレートに書いてある花の解説を読みながら、楽しそうに写真を撮っていた。学校にいる時よりも表情が生き生きしている。

 (誘ってよかったな。浅見が楽しそうにしてると俺もうれしい)

 気がつくと、園内を一通り周っていた。浅見の額には汗が浮かび、頬もわずかに赤い。

 「浅見、ちょっと休憩しよー」

 浅見のTシャツの袖をつかんで、空いているベンチに座った。カバンから水を取り出して、がぶがぶと喉に流し込む。水が少しぬるくなっていたけど、冷えすぎてなくてちょうどいい。少しづつ身体が冷やされていく。
 隣に座る浅見をみると、ペットボトルのフタを開けられず苦戦していた。そして、手のひらをぼんやりとみつめている。

 「浅見?」
 「……ん?」

 ゆっくりとこちらを向く浅見。途端にサーッと顔色が青白くなっていく。

 「顔色悪いじゃん」

 タオルでそっと浅見の汗を拭く。

 「水飲んだ?」
 「いや、まだ……」

 すぐにペットボトルに手を伸ばしてフタを開けた。浅見はそれをゆっくりと口に含む。

 「大丈夫? 少し横になる」
 「え……」

 周りの視線を気にしているのか、横になるのをためらっている。ふと、浅見が俺の肩に寄りかかってきた。肩が触れているだけなのに、妙に熱い。

 「浅見、やっぱり横になった方がーー」

 心配になって、そっと頬に触れる。やっぱり熱い。

 「まって……」

 浅見の手が俺の手に重なって、俺の手に頬ずりするように目を伏せた。普段、浅見から触ったりくっついたりすることなんてないから、妙にドキドキして意識してしまう。

 「あ、さみ……?」
 「もう少しだけ……このままで……」

 辛そうに目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。
 吐息が聞こえるほど、距離が近い。肩も密着している。浅見がこんなに大胆なのは体調が悪いから。頭ではわかっているけど、身体は反応してしまう。

 (バカか。しっかりしろ、俺!)

 しばらくして、浅見がゆっくりと目を開けた。目が合うと「……ごめん」と小さく謝って、俺の胸に顔をうめた。

 「大丈夫?……横になる?」

 浅見の頭を優しく撫でながら聞くと、胸の中で小さくうなずく。なるべく浅見が辛くないように、そっと抱きかかえて、ゆっくりベンチに寝かせた。頭の下にはタオルを敷いた。

 「少しだけ待ってて。この奥に湧き水があるから、汲んでくる」

 耳元でそう伝え、立ち上がった瞬間、浅見が弱弱しく俺の手首をつかんだ。

 「ん? 浅見? どうした?」

 しゃがんで顔をのぞき込む。浅見はなにも言わず、ただぼんやりと俺の顔をみつめている。

 「…………えっと、浅見?」

 穴があくくらい見つめられて、困惑していると

 「……っ、もう少しーー」
 「うん?」
 「もう少しだけ……一緒に、いて?」
 
 浅見が俺に甘えている。
 
 (やばい、かわいい。でも、すごく辛そう。かわいそう。すぐに気づいてあげられなくてごめん)

 いろんな感情が頭の中を過ったが、浅見の赤い顔をみてすぐに我に返った。

 「……いいよ」

 浅見の頭をゆっくりと撫でながら、落ち着くまでそうしていた。浅見の体温が手のひらに残って、胸の奥がざわめいていた。