特別の、その先

 side 高槻③

今日は待ちに待った浅見とのお出かけの日。昨日、色々調べて持ち物を準備し、早めにベッドに入った。おけげで今朝は目覚めがよく、朝ごはんもたくさん食べて張り切って家を出た。
 駅の改札前で待ち合わせ。そわそわしながら待っていると、浅見がひょこひょこ歩いてきた。

 「あさみー」

 浅見に向かって手を振るとこちらに気づき、少し恥ずかしそうにしながら軽く手を挙げた。俺は浅見の傍まで駆け寄っていく。

 「おはよ!」
 「おはよう」
 「体調大丈夫?」
 「うん、元気」
 
 黒と青のボーダーのTシャツにアイボリーのハーフパンツを履いて、黒のキャップをかぶってリュックを背負っている。腕は少し日焼けしているけど、ハーフパンツから伸びる足は白くて細い。

 (やっぱ私服の浅見かわいい……)

 「バスに乗るんだっけ?」
 「…………」
 「高槻?」
 「え? あ、そうそう。バス乗り場あっちだから。いこ」

 浅見に見入っていたせいで反応が遅れてしまった。
 雑談しながらバスターミナルに向かい、乗車券を買った。目的地までは30分くらいかかるらしい。乗車したバスにはお客さんが少なくて、俺たちは後ろから二番目の二人用の席に座った。

 「あっ」

 バスが出発して数分経った頃、浅見が小さく声をあげた。

 「なに? どうした?」
 「日焼け止め、塗るの忘れた」
 「ちょっと待って」

 俺はガサゴソとカバンの中を漁り、携帯用の小さな日焼け止めを取り出した。浅見はそれをみて「用意周到」と感心するように呟いた。

 「塗ってあげる」

 日焼け止めをシャカシャカ振って、手のひらに出した。浅見は、ふるふると首を振って断ったが、俺が「もう手に出しちゃったからさ」と言うと渋々了承してくれた。

 「腕、出して?」

 差し出された名波の白い腕にスーッと日焼け止めを塗っていく。二の腕のあたりまで塗ったところで、ぴくっと浅見の肩が揺れた。びっくりして手を止める。

 「え、痛かった?」
 「ちがう、ちょっとくすぐったくて」
 「あー、びっくりした」

 ほっとして笑うと、浅見が警戒するように身を引いた。

 「……なんで笑うんだよ」
 「いや、反応がわかりやすすぎて」
 「高槻、今なんか悪いこと考えただろ」
 「え?」

 (やば、顔に出た。だって反応がかわいすぎるんだよ……)

 俺はごまかすように虫よけスプレーを取り出して名波にふりかけ、ついでにキャラメルを3個浅見にあげた。浅見はキャラメルの包みをあけて口に放り込み「懐かしい味がする」と顔をゆるめている。

 「なんか高槻って母さんみたいだな」
 「ん?」
 「色々世話してくれるから」
 「母さんかー」
 「あれ? だめ?」
 「だめじゃないけど、そこはせめて兄ちゃんでしょ」

 (母親認定されたってことは、心許してくれてんのかな……)

 バスに揺られて外の風景をぼんやりと眺めている浅見。その横顔をみつめながら、そうだったらいいなぁと願う。