特別の、その先

 浅見へ
 もしよかったらさ、今度、二人で遊びに行かない?
 暑いから、どこか涼しいところとか。どうかな?


 明日は、高槻と一緒に高山植物園にいく。寝る前にノートを見返していると、このページだけ、紙がよれてる。電気に透かして見ると、うっすらと書き直した跡がみえた。

 (何回も書き直したのかな?)

 高槻が悩みながらこの文章を書いている姿を想像する。

 (ふふっ、かわいい……って、何思ってんだ俺)

 文章を指でなぞる。まるで高丘がここにいるみたいに感じて、自然と笑みがこぼれた。

 (明日、楽しみだな……こんなに誰かと出かけるの楽しみなの、久しぶりかも)

 ▽▽▽▽

 当日の朝、俺たちは最寄り駅に集合し、そこから30分バスに乗って高山植物園に移動する。バスに乗っている間、高槻が俺に日焼け止めや虫よけスプレーを貸してくれて、キャラメルまでくれた。甲斐甲斐しく世話をやいてくる高槻に、母さんみたいだと言ったら、そこはせめて兄ちゃんでしょ、と少し不満そうにしつつも笑っていた。

 「着いたー!」

 バスから降りた高槻は、気持ちよさそうに伸びをする。

 「暑くない?」

 クーラーがきいていたバスから降りた途端、むわっとした熱気が身体にまとわりついてくる。涼しさを求めてやってきたはずなのに都会とあまり変わらない。地球温暖化、恐るべし。

 「植物園の奥で湧き水飲めるんだって。めっちゃ冷たいらしい」

 早速入り口に置いてあったパンフレットを見せてくれる高槻。

 「それはありがたい」
 「じゃあ、とりあえず奥まで行くか」
 「りょーかい」

 俺たちは入り口で入園料を払って園内に入った。入り口は小さなアーチ状になっていて、その周りにうすいピンク色のバラが巻きついていた。俺はそれが撮りたくてスマホのカメラを構えたら、ちょうど高槻がアーチをくぐる後姿も画角に入ったのでそのまま写真を撮った。撮った写真をすぐにチェックする。

 (やっぱスタイルいいなー)

 黒のTシャツに膝丈のベージュのハーフパンツ、白のバケットハットをかぶっている。シンプルなのにおしゃれにみえる。

 「浅見ー?」

 手招きされて俺もアーチをくぐった。

 「どした?」
 「うん、今日も高槻はおしゃれだなと思って」
 「そう?」
 「あ、なんか見たことない花がいっぱいある」

 小道の脇に、木や花がたくさん植わっていて、名前のプレートと一緒にその植物たちを夢中で撮影する。

 「こんな暑いのに、枯れないのすげーよな」
 「真夏は世話が大変なんだって。花も夏バテしちゃうから」
 「マジか。人間と一緒じゃん」
 「生きてるからね」

 この花きれいじゃない?、この葉っぱ変な形だ、こっちの花はいい匂いがする。
 写真を撮っている間、高槻は俺の他愛ない呟きに、そうだな、とか、うん、とか相槌を打ってくれていた。

 「浅見、ちょっと休憩しよー」

 写真を撮りながら移動しているうちに、いつの間にか広い原っぱに来ていた。そこにも花壇が点在していて、少しづつ花が植わっている。

 「こっち」

 くいっと袖をつかまれる。花壇の傍にベンチがあり、高槻と一緒にそこに座った。座った瞬間、どっと汗が出て、少し身体が重い気がした。
 カバンから水を取り出す。ペットボトルのフタを開けようとしているのに、指先に力が入らない。

 「……あれ?」

 手のひらをみつめていると、視界がぼんやりしてきた。

 「浅見?」
 「……ん?」
 「顔色悪いじゃん」

 高槻がタオルでそっと顔の汗を拭ってくれる。

 「水飲んだ?」
 「いや、まだ……」

 俺の手元にあるペットボトルに気づいて、フタを開けてくれた。俺はそれを少しづつ口に含む。水は少しぬるくなってしまっているけど、口内の渇きを潤してくれた。

 「大丈夫? 少し横になる」
 「え……」

 まばらだけど、周りには人がいる。横になっていたら、チラチラ見られてしまうんじゃないか。

 「あ、大丈夫だからーー」

 人の視線が気になって、横になるのをためらっていたら、ふっと眩暈がして、俺は高槻の肩に寄りかかった。

 (これは……ちょっとやばいかも)

 「浅見、やっぱり横になった方がーー」

 高槻の手が、少しだけ俺の頬に触れた。

 「まって……」

 その手をそっと掴む。高槻の手が、少し冷たくて心地いい。

 「あ、さみ……?」
 「もう少しだけ……このままで……」

 目をつむる。頭の中がぐるぐると回っている感覚がして気持ちが悪い。高槻の手の感触に集中しながら、俺はゆっくりと息を吐く。
 少し落ち着いたところで、俺はゆっくりと目を開けた。ぼやっと緑色の原っぱと視界の端に色とりどりの花がみえる。顔を上げて高槻の方に視線をやると、ほんのりと赤い顔で俺を見つめていた。

 「……ごめん」

 それだけ言って、高槻の胸元に顔をうめる。

 「大丈夫?……横になる?」

 声を発することができず、小さくうなずく。高槻は俺の頭と腰を支えるように手をそえて、ゆっくりとベンチに寝かせてくれた。頭の下にはタオルを敷いてくれている。

 「少しだけ待ってて。この奥に湧き水があるから、汲んでくる」

 耳元でそう優しく告げて、立ち上がる高槻。

 「あーー」

 咄嗟に高槻の手首をつかんでしまった。

 「ん? 浅見? どうした?」

 しゃがんで顔をのぞきこみ、優しい声で様子をうかがっている。

 (高槻って、やっぱイケメンだな……まつ毛なが……こんな近くでみたことなかった……)

 ぼんやりと高槻の顔に見惚れていたら、徐々に高槻の顔が赤くなっていって、言葉を失ったように黙ってしまった。

 「…………えっと、浅見?」
 「……っ、もう少しーー」
 「うん?」
 「もう少しだけ……一緒に、いて?」

 高槻は驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな顔に戻った。

 「……いいよ」

 優しくうなずいてくれて、俺は安心して再び目をつむった。