特別の、その先

 浅見へ
 返事ありがとう。
 おれ、実は、小1から中3まで習字やってました!
 その中でも硬筆(筆じゃない道具で書く)はけっこう得意!ほめられてうれしい!
 浅見はなにか習いごとしてた?


 高槻へ
 9年も、すごいじゃん。
 俺は、水泳とか空手とかいろいろやらされたけど、あんま続かなかった。
 ずっと行ってるのは塾くらい…


 浅見へ
 ピアノも5年くらいやってたよ!
 やらされたっていうのが浅見らしい。
 頭いいもんなーまた数学教えて!
 そういえばさ、イムスタにあげてたひまわり!夏っぽくていいね!


 高槻へ
 ピアノもできんの!?ギャップがすごい
 教えられるとこなら教えます。
 あれは、庭に植わってたやつ。母さんがガーデニングとかすきだから、なんかいっぱい花がある。


 もうすぐ七月がおわる。二日に一回は高槻に会って、一緒にアイスを食べて少し話してノートを渡す。話す内容もノートの内容も他愛ないことだし、会ってる時間は30分くらいなのに、その時間が心地よくて高槻に会うのが楽しみになっている。

▽▽▽▽

 八月に入った。何度目かのノートの受け渡し、俺たちはドーナツショップにきていた。毎回、学校近くのコンビニで会ったいたけど、おばちゃんの店員さんに顔を覚えられてしまって、仲がいいのね~と言われてなんとなく気まずくて、俺が高槻に場所を変えてもらった。
 俺はコーヒーを注文して早々に席についた。高槻は、ドーナツがたくさん並んでいるショーケースを目を輝かせて見ながら、何個かドーナツを注文していた。

 「え、めっちゃ買ってんじゃん」

 高槻が席までやってきた。トレーには3個もドーナツがのっている。

 「だってどれもうまそうなんだもん」

 抹茶とチョコといちご。星やらハートやらの小さなチョコがトッピングされていて、見た目がかわいらしくすごく甘そう。

 「浅見も食べる?1個あげようか?」

 俺は首を振る。

 「ごめん、甘いの苦手」
 「そうなんだ。じゃあ、抹茶は? 抹茶なら甘さ控えめでうまいよ」

 そう言ってドーナツを口元に差し出してきた。ここまでされたら、いらないって言いにくい。けど、食べさせてもらうってけっこう恥ずかしいんだけど。周りの目もあるし。

 (っつか、距離、近くないか……?)

 「一口だけ、食べてみ?」

 じっと視線を送っても、俺の気持ちは全く届かず、逆にまたおすすめされてしまった。

 (うっ、しかたない……)

 周りを少し気にしながら、少しだけ抹茶ドーナツをかじった。

 「どう?」

 高槻の期待の眼差しを受けながら、もぐもぐドーナツを噛んでごくんと飲み込む。

 「うん……意外といける」
 「だろ?」

 高槻はうれしそうに、抹茶ドーナツを俺に差し出す。

 「え?」
 「浅見にあげる」
 「あ、じゃあ、口つけたとこだけちぎるーー」
 「全部あげるよ」
 「でも、食べたかったんだろ?」
 「浅見が食べてくれた方がうれしいから」

 せっかく高槻が譲ってくれたし、抹茶ドーナツ自体もおいしかったから、俺はそれをもらうことにした。譲ってくれた理由がよくわからないけど。

 「あのさ、ずっと見られてると食べづらいんですけど」
 「え、あ、ごめん」

 ドーナツを食べ終えて少し雑談をしてから、高槻は俺にノートを差し出した。

 「あのさ、ノートにも書いたんだけど、せっかくの夏休みだからどっか遊びにいかない?」
 「え? あぁー、そういえばクラスの人達も言ってたっけ? 集まりたいねって」
 「えっと、それとは別で」
 「べつ?」
 「……浅見がよかったらなんだけど、俺と二人でいこうよ。暑いし、どっか涼しいとことか」
 「二人で……」

 その言葉を、頭の中でなぞる。

 「いや、かな?」

 高槻と二人で過ごすのは楽だし心地いい。少しづつ互いのことを知れて、仲もよくなったと思う。断る理由なんかない。

 「ううん。俺も行きたいなって思ってたから」
 「ほんと?」
 「うん、どこ行く?」
 「あ、実は行先いろいろ考えたんだけどーー」

 高槻が事前に調べてくれた情報を、スマホをみせながら教えてくれて。二人でいろいろと迷ったけど、涼しくて森林浴ができる高山植物園に行くことになった。植物園の中には、名水百選に選ばれた水が流れていて、飲んだり持ち帰ったりできるらしい。ご当地バーガーの販売もあって、けっこう楽しそうだ。

 「友達と遠出したことないから、すげー楽しみ」
 「あ、そうなんだ……俺も、楽しみ」
 
 高槻はうれしそうにはにかみながら、うんとうなずいた。