特別の、その先

 七月に入った。真夏の太陽が容赦なく照りつけ、なにもしなくても汗が出る。風が吹いても生ぬるくて、蝉の声がやけにうるさい。俺たちは暑さに耐え切れず、非常階段に行くことがめっきり減ってしまった。
 期末テスト一週間前。家に帰っても暑くてだらだらしてしまうので、高槻の提案で学校で勉強することになった。が、考えることはみんな同じで、図書室も自習室も満席。しかたなく、教室で机をくっつけて勉強することになった。教室内には、俺たちと同じように勉強している人が何人かいた。テスト前で部活も休みなので、校庭も廊下も静かで、勉強に集中できそうだ。

 「なぁ、これ、意味わかんねー」

 始まって五分と経たない間に田辺が匙を投げた。

 「どれ?」

 数学の問題だった。俺が実際に問題を解きながら、田辺に解説する。

 「わかった?」
 「う~ん、なんとなく?」
 「じゃあ、こっちの問題やってみて」
 「へ~い」

 俺が自分の勉強に戻ろうとすると

 「浅見、俺も……」

 申し訳なさそうに、高槻が数学のプリントをみせてきた。

 「あぁ、これはねーー」

 田辺にした時と同じように、高槻にも解説する。

 「おぉ! なるほどね!」
 「わかった?」

 高槻はうれしそうにうなずく。

 「じゃあこっちやってみて」

 さっきの問題の応用を解かせてみるが、高槻のシャーペンは微動だにしない。

 「これはさ、さっきの問題の応用だからーー」

 みかねて声をかけると、するすると解いていった。

 「なんだ、できるじゃん」
 
 高槻はまたうれしそうに笑う。俺もつられて頬が緩む。そのとき、ポケットの中でスマホが震えた。

 「でさ、ここはさっきの式を使って――」

 高槻の声に引き戻されて、そのまま問題に目を落とす。震えは、すぐに止んだ。

(……まあ、あとでいいか)

 そういえば最近、高槻といるときは必要以上にスマホを触らなくなった。前までは、通知が気になって仕方なかったのに。

 ふと視線を感じた。田辺が俺たちをじっとみていた。

 「な、なに?」
 「いや、べつに」

 それだけ言うと、またプリントに向き直った。

 「ねぇ、ウチら休憩行くけど一緒に行かない?」

 教室で勉強していた女子二人組が声をかけてきた。大友さんと、宮崎さんだ。大友さんはショートカットで背が高い、確かバレー部に入っている。宮崎さんは、セミロングでおとなしそうなイメージだ。

 「いや、俺らはまだいいかな」

 高槻が答えた。宮崎さんは大友さんの斜め後ろで高丘の方をちらちら見ている。

 「じゃあ、自販機行くついでにジュースかなんか買ってこようか?」

 大友さんの提案に、田辺がスッと手を挙げる。

 「俺、コーラでおねがいします」
 「自分で行けよ」
 「いいよ、ついでだし。高槻くんと浅見くんは?」
 「俺はいいよ。水筒あるし」
 「あ、俺も……」

 高槻が水筒をみせて断ったので俺も同じように水筒をみせる。すると田辺が「じゃあ俺もいいです」と断り、なぜか大友さんがあからさまに肩を落として、宮崎さんが大友さんをなだめながら教室を出て行った。

 (なんだったんだ?)