特別の、その先

 六月中旬、しとしとと雨が降る中、俺は放課後に非常階段にきた。わざわざ傘をさしてスマホのカメラを構える。規則的に傘をうちつける雨音、雨に濡れた土の匂いとカエルの合唱。空はどんよりと曇っているけど、俺は雨の日の雰囲気がすきだ。この空気ごと残せたらいいのに、と眺めながら写真を撮る。

 「やっぱ、ここにいた」

 気づけば高槻が後ろに立っていた。傘も差さずに、雨に濡れている。

 「風邪ひくぞ」

 傘を差し出すと、俺が持つと言って傘の柄を持ってくれたので、遠慮なく甘えることにした。おかげで手が自由になり、いろんな角度から雨の街の様子を撮ることができた。

 「ほんと、撮ってる時はいつも楽しそうだよな」

 満足げに写真をみていると、高槻がやわらかい表情で俺をみていた。既視感があると思ったら、ウチのネコを愛でるときの父さんに似ている気がする。だらしなく緩み切った顔でネコ吸いをする父を思い浮かべると苦笑が漏れた。

 「なに? 思い出し笑い?」

 俺は少し恥ずかしくなって、ゴホンッと咳払いをした。

 「さっきの、高槻の顔。ネコ吸いしてる時の父さんみたいだなと思って」

 カメラを自撮りモードにして高槻に手渡す。

 「なんだよ、それ」

 高槻はけらっと笑いながらスマホを受け取り、自分の顔をみた。

 「うわ、俺、こんな顔で浅見のこと見てんだ……」

 キモッ、と顔を歪めて俺にスマホを返した。

 「べつにきもくはないけどさーーっつか、俺の父さんがキモいってこと?」
 「いや、そういうわけじゃなくてーー」
 「ふはっ」

 慌てて否定する高槻がおかしくて、おもわず笑ってしまった。高槻も俺につられて笑う。
 雨の放課後、一つの傘の中で俺たちの笑い声が響いて、雨音がかき消される。こんな時間がずっと続けばいいのにと思いながら、ポケットで震えるスマホに気づかないふりをした。