「すみませーん、替え玉ひとつと……からあげもお願いしますっ!」
元気に手を挙げたそらに、向かいの啓太朗が目を丸くした。
「……替え玉にからあげ?」
「やばいっすか? まだ全然いけるんすけど!」
お腹をさすりながらニカッと笑うそらを見て、
彼は思わず吹き出した。
「いや、やばないで。若いなぁって。
俺、もうそんな食べられへんわ」
「昔はもっとバクバクいってたんすか?」
「まあな。……高校まで剣道やっとったから」
「え、剣道? めっちゃかっこいい! 強かったんすか?」
身を乗り出すそらに、啓太朗は照れくさそうに口元をかいた。
「市内ではそこそこかな。
兄貴の方が全然強かったし。あの人、県でベスト四やで」
「兄さんやば!
でも、啓太朗さんが剣道かぁ……想像できそうでできひん」
「ははは。そうやろな。
現役の時も、道着全然似合わんって言われとったし」
そのうち替え玉とからあげが届いた。
「……ほんまに食べるんやな」
「余裕っす!」
からあげにかぶりつくそらを、
呆れたような、でも温かい目で見ながら啓太朗は静かに水を飲んだ。
店を出ると、空は深い紺に変わり、街灯がポツポツと滲んでいた。
「ちょうどええ暗さやな。夜景、きっと綺麗に見えるで」
「めっちゃ楽しみになってきました!」
そらは無意識に声が弾んで、駐車場へ小走りに向かった。
車に乗ってすぐ、
彼は「あ、ああ、そういえば。雪響山って夜景で有名なんやけど……」
と意味深に話す。
「……はい?」
「実は心霊スポットとしても有名なんよ。昔、展望台で——」
「えっ……ちょっと……」
思わず大きな声が出た。
「あっ……だ、大丈夫っす。全然……」
そらはシートに深くもたれて足をすぼめる。
「びびってんの、もしかして」
「びびってないっすよ!」
即答した声が少し裏返る。そらは恥ずかしくなって顔をそむけた。
「……かわいいなぁ」
あまりにも自然に落ちたその一言に、
そらの心臓がピクンと跳ねた。
(やばい。少女漫画のヒロインになった気分……)
「ほら、着いたで。展望台」
車を降りると、あたりはしんと静かで、
頭上には満天の星。遠くの街の明かりがきらきら瞬いていた。
「……うわぁ……」
思わずため息みたいな声がもれる。
「すげぇ……ほんまにめっちゃ綺麗やな」
「うん。俺も久しぶりに来たけど……
思ってた以上に、ちゃんと夜景やったな」
並んで立つふたりの肩がそっと近づく。
その瞬間、ふわりと香ったのはあのシトラスの香り。
夜景を見に来たはずなのに、気づけば視線はずっと彼を追っていた。
街の光よりも、彼の横顔のほうがまぶしくて、
隣にいるだけで胸の奥がざわざわする。
(……俺、この人の恋人になりたい――)
息をするたびにドキドキが増していく。
そらは、次々と湧き上がる好きという感情を抑え込むのに必死だった。



