Summer Blue ~君が残したシトラスの嘘と約束~


ゆっくりと手が伸び、そらの頬を包みこんだ。
親指の腹が優しく頬をなぞるたび呼吸が浅くなる。
唇が近づき、触れるだけのキスが落ちる。
けれど、それはすぐに深く、熱を帯びたものへと変わっていった。

唇の温度、呼吸の速さ、心臓の鼓動――全部が一気に近づいてくる。
啓太朗の手は頬から首筋、肩口へとゆっくり滑り降りる。
触れられるたび、そらの体はびくりと反応し、シーツの上で指先をきゅっと握った。

「……そら」

名前を呼ばれるたび、肌がピクッと反応する。
啓太朗はその熱を確かめるようにもう一度深く口づけた。

「……脱がしていい?」

そらは一瞬だけ視線を揺らし小さくこくんと頷いた。

「……ありがと」

その声には、抑えきれない熱と優しさが混じっていた。
デニムの布越しに手が触れ、体がびくりと跳ねる。
指先が全身を確かめるようにゆっくりと滑っていく。

「……平気?」

その問いかけに、そらは唇を噛みしめかすかに頷く。

彼はそらの表情を確かめながら、丁寧に、慎重にその緊張を解いていく。


そらは甘い痺れの中に溶け落ちた。
逃げ場のない腕の中で、絡めた指先も、重ねた吐息も、
全部が溶けていく…

そらはただ、啓太朗にすべて身を任せた。







「そら、そら……おはよう。そろそろ起きや。
終電、間に合わんくなるで」

耳に届く低い声に、重たいまぶたをゆっくりと開ける。
ぼんやりとした視界に映るのは、すぐ近くで覗き込む啓太朗の顔。
寝ぼけたまま瞬きをしていると、
もう一度「そら」と優しく呼ばれた。
その声が、胸の奥をじんと揺らす。
視線を少しずらすと、啓太朗の上半身が視界に入り――。

「……なっ、はっ……!」

一気に目が覚める。すらりとした肩のライン、
うっすら浮かぶ腹筋の陰影。
その姿を見た瞬間さっきの出来事が鮮明によみがえる。
顔が一気に熱くなって、思わずシーツの中で体を丸めた。

(……やって、しもたんやんな……)

その瞬間、啓太朗が笑いながら「ほんま、かわいいなー」とつぶやいた。
ぽん、ぽんと頭を撫でられ、頬がボッと熱を放つ。

(まだこの温もりの中にいたい――)

 思わず唇をぎゅっと噛んだ。
気持ちがあふれすぎてしんどい。
そらがまだ胸を高鳴らせている横で、
啓太朗はすっかりいつもの落ち着いた顔に戻っている。

「そろそろ帰る準備しよか。あんまり時間ないからな」

そう促され、そらは小さく頷いた。
床に散らばった服を見て、顔を赤くしながらひとつひとつ拾い集める。
シャツを頭からかぶると、布の匂いまでなんだか恥ずかしい。
デニムのボタンを留める指先が言うことを聞かなくて焦る。

横を見ると、啓太朗はもうきっちり着替えて髪まで整えていた。
まるで何事もなかったみたいに、
いつもの完璧な姿で「駅まで送るから」と言った。
自分だけ時間が止まっているみたいでちょっと悔しい。
その落ち着いた横顔を見ると、やっぱり啓太朗は自分よりずっと遠くにいる気がした。
初めての体験に戸惑って、目の前にある『別れ』にもまだ心が追いつかない。
そんな自分がどうしようもなく子どもに思えて、
情けなくて、少しだけ胸が痛くなった。