啓太朗はニヒルな顔で覗き込んだ。
「……そろそろチェックインできる時間なんやけど。どうする?」
胸の奥でドクンと音が響いた。
不意を突かれて戸惑ったのも束の間、
心臓の鼓動がどんどん速くなっていく。
どうする? なんて聞かれたら、期待するに決まっている。
指先からじんわり熱を帯び、呼吸が浅くなる。
さっきまでの戸惑いは薄れ
、代わりに甘い予感が体の中いっぱいに広がっていく。
啓太朗の喉が、かすかに鳴ったような気がした。
「……あかん、その顔は反則やろ……」
低く掠れた声が、耳の奥に落ちてくる。
「え? その顔って?」
啓太朗は眉を少し下げ、ふっと息を吐いた。
「ああ……もう、無自覚に煽ってくるし。ほんまにずるいわ」
軽くすねたような声と同時にそらの手ががっしり握られる。
そのまま展望台を後にして出口の方へ歩き出す。
無言で手を引かれ、少し引っ張られる形になったそらは慌てて口を開いた。
「え? け、啓太朗さん?」
「ん?」
「今、向かってるのって、もしかして……」
振り返りもせず、彼は短く答える。
「うん。そらの想像通り」
その一言で身体の奥まで熱くなるのを感じた。
いつもはそらの歩幅に合わせて歩く啓太朗が、
今日は大股で急ぎ足だ。都会の雑踏や店の看板なんて、
今日はまるで目に入らない。
ただ、握られた手の熱と、前を行く大きな背中――。
それだけが、やけに鮮明に感じられた。
ホテルに着くと、啓太朗は迷いのない足取りでレセプションに向かう。
落ち着いた声で予約名を告げ、
手際よく手続きを終える彼がやけに頼もしく見えた。
「行こか」
再び手を握られ、エレベーターへ。
部屋の前に着くと、ピッとカードキーがかざされる音が廊下に響く。
啓太朗がそらを先に入れると背後でドアがガチャンと閉まった。
その瞬間、そらはふわりと抱きしめられた。
温もりと重みとシトラスの香りが全身を包み込む。
「……そら……」
その呼び方に、胸の奥が熱くなる。
耳元で落とされた声が、鼓膜をじんと震わせた。
「……ああ、やばい。部屋入るなり、こんな……余裕ないわ、俺……」
背中で啓太朗が小さく呟く。
そらはただその声を聞きながらひたすらドキドキしていた。
心臓の音が自分の鼓膜を打つたびに速くなる。
やがて彼が大きく息を吸い込み「一旦落ち着くわ」と腕をほどき、
奥へ進もうとした瞬間――そらは思わず背中に抱きついた。
「……してっ」
小さな声が、思った以上に真っ直ぐ出た。
啓太朗の動きが止まり、ゆっくりと振り返る。
耳まで真っ赤になって立っているそらを見て一瞬だけ目を見開いた。
次の瞬間、迷いなく腰を抱き寄せる。
軽々と持ち上げられ、視界がふっと揺れた。
そしてそのままベッドにそっと横たえられ、
啓太朗の影が覆いかぶさってきた。
「……そら。ええの? 後悔せん?」
胸の奥で鼓動が跳ねる。
それでもそらは迷わず口を開いた。
「しません。……っていうか、
啓太朗さん以外なんて考えられん。だから……」
「……いや、そら。今からすること、ちゃんとわかってんの?」
「わかってますよ」
そらは真っ直ぐに見返し、少しだけ得意げな顔をした。
「だって、俺……調べましたもん。いろいろ」
「……もぉ……反則やって、それ……」
彼は額を押さえながら、視線を落とす。
「じゃあ……今から俺がそらにしたいことも、わかっとる?」
「はい、わかってます。その覚悟で来たんで……お願いします」



