そらはベッドの上でごろりと寝転んだまま、
スマホの画面を見つめていた。
LIMEのトーク画面には、たった一行。
『次は六月二日やな。楽しみ』
(――うわ、やば……)
画面の中の文字が、やたらと甘く見える。
気を抜けばすぐにやけそうになる口元は、
常にピクピク震えていた。
指先でメッセージをなぞりながら、
そらは今日の出来事を振り返る。
あの、濃密すぎるキスのあと――。
新幹線の時間まで、そらたちは手をつないだままずっと話していた。
出会った日のこと。
第一印象はどうだったか。
二人は答え合わせをするみたいに、笑いながら語り合った。
「俺はあの日、ただ知らん先輩が来たってだけで、
何となく目を奪われて……
声をかけられた瞬間、めちゃめちゃドキドキしたの、覚えてる」
「そうなんや。俺は可愛いくて元気な子がおるなぁって思ったなぁ。
きっと一目惚れやった思うよ」
「絶対嘘でしょ? うるさかっただけちゃいます?」
それからすぐに好きになったこと。
お互い最初の頃は口に出さなかったけど、
あれはきっと同じ気持ちだったんだろうと今になって分かることが沢山あった。
「そらはわかりやすかったなぁ」って笑う啓太朗に、
「啓太朗さんもそこそこでしたけど?」と笑い返した。
「……最後に、大事なこと話していい?
これから付き合っていくのに、そらに伝えときたいことがあって……」
少し間を置いて、彼はぽつぽつと語り出した――。
「だいぶ遡るんだけど……中学のとき、好きな子がおったんよな」
そらは無言で頷く。彼は少しだけ息を吐いてから続けた。
「俺は女の子も男の子も、
恋愛対象なんやけど……そのときは、クラスの男の子やった」
たまたま相手も同じ気持ちで、
放課後はよく一緒に帰っていたという。
「で、ある日……ほんの出来心で、手をつないだんよ」
そこで、彼の声に苦い色が混ざった。
「……それがあかんかった。
近所の人に見られとったみたいで、
すぐに噂になって……もうそこからは……地獄よな。
家に帰ったら、玄関に親父が立っとって。
開けた瞬間、思いっきり怒鳴られた」
ぽつりと苦笑をこぼす。
「『お前は何やってんだ、中学生のくせに』って拳も飛んできた。
それに――『しかも相手が男やなんて、恥ずかしくないんか』って」
視線を落としたまま、ぽつぽつと言葉が続く。
「『お前はたぶらかされたんやな、その相手の奴に。
言うてみ、俺が話してくる』って言うんよ。……やばない?」
低く笑って見せていたがその笑いはどこか苦しそうで、
まだ彼の中で傷口が乾ききらずに疼いている気がした。
「ほんま焦った。『それだけはやめてくれ』って。
『相手は何も悪くない、むしろ俺が悪いんや』って。
『向こうは俺のことなんも思ってないのに、俺が付きまとっとるだけや』って必死に言った。
だから相手の家に乗り込まれるのは免れたんやけど……
それから先はもうあかんかった。別れるしかなかった」
彼の目は、閉ざされた未来を見つめるかのように、光を失っていた。
「なんも理由言わんと、『ごめん、飽きた。だから別れよ』って、
一方的に告げた。……ひどいやろ」
そらは、返す言葉が見つからず視線を落とした。
心の奥がざわつき気まずい空気が漂う。
うつむいたまま、膝の上の手をぎゅっと握りしめる。
短い沈黙のあと、啓太朗はまたぽつりと口を開いた。
「……でな、そのとき思ったんよ。
もうこの地元では誰も好きにならん。
好きになったら、自分も相手も傷つくだけやって。
それから俺は、女の子に告白されたときだけたまに答えるようにした。
……しかも、親父の事業に有利になりそうな家柄の子だけ」
乾いた笑みを浮かべてわずかに目を伏せた。
「ええとこの子とか、会社の社長の娘とか。
……うちの地元、そういう人多いやろ。
だから告白されてもその子のことは全然見んと、
家柄や損得だけで決めとってん。
女の子らも、すぐに気づくんや。『ほんまは私のこと好きじゃないんやな』って。
で、俺が振られる」
小さく息を吐いて、苦笑する。
「腹立つんはな、その子らとおる間は親父も何も言わへんねん。
ありえんやろ? ほんま、アイツ損得には忠実やわ」
肩をすくめると、視線をそらに戻した。
「まあ……俺も俺で、相当やばいけどな。……幻滅した?」
「しない」
そらは即座にそう答えて、握っていた手をさらに強く握った。
「そんなこと言ったら、俺だって最低や。
だって、この話聞いて……中学生の啓太朗さん、
めっちゃつらかったよな。
しんどかったやろなって思う気持ちもちゃんとあるのに……
俺、一番に、その手つないだ男の子に嫉妬してる」



