中2の新学期が始まった。
クラス分けの掲示板に君の名前を見つけた時、私は今日、君にこの1年の想いをぶつけようと決心した。
なぜかその日の私は無敵な気分で、大好物のオムライスもずっと我慢して願掛けをしていたし、毎朝観ている情報番組の運勢占いで、しし座が1位だったからイケる気がしたのだ。
少し緊張しながら2-Cの教室に入ると、幼稚園からの幼馴染の澤田唯|《さわだゆい》が両手を広げて走ってきた。
「なっちゃん、私らまた同じクラスやで!」
そうだった。私は君の名前、河合陽樹《かわいはるき》ばかりを目で追っていて、それ以外の名前は目に入ってこなかったので、唯の名前に気づいてなかった。
幼馴染の唯も一緒だと思うと、さらに無敵感が増した気がする。
私は教室に入ってから、唯と同じクラスになったことを初めて知ったのを微塵も態度に出さないで、
少し高めの声で、
「うん!めっちゃうれしい。何やったら卒業まで同じクラスでおりたいよな」
と2人で手を取り合って喜んだ。
「ほんで、あのミッションはいつなん?」
と唯が、鼻を膨らませて聞いてくる。
子どもの頃から、興味があることに対しては鼻が膨らむのが癖なのだ。
当の本人は気づいてないけれど。
唯には、彼のことをずっと相談していたので、いつか来るべき日に思いを伝える告白=ミッションと2人の間で名付けていた。
私は間髪入れず、「今日やで」と力強く答える。
「えーーーーー!」
ますます鼻を膨らませた唯のすっとんきょうな声が教室中に響き渡った。
◇
ミッションは、呼び出して想いを伝えると決めていた。知っているのは名前だけで、彼の連絡先も知らないし、SNSは何もしてないみたいなので。
ホームルームが終わったあと、何度も口から出そうになる心臓を飲み込みながら、私は彼に近づいた。
「あっ、河合くん、あの、ちょっと話したいことがあるんやけど、ちょっといい?」
急に話しかけられてびっくりしたのか、少しオドオドしながら、
「部活に行かなあかんから、少しだけやったらいいで」
と少しぶっきらぼうに、私の方を見ずに言った。
2人並んで体育館の方まで歩いたけれど、その間一言も会話はなしで、彼が今どんな表情をしてるのかチラ見する余裕も、今の私にはなかった。
教室を出る時、唯が両手をグーにして、声には出さずに、ガンバレのエールを送ってくれたのが嬉しかった。
告白の場所=体育館の裏。
何ともベタなシチュエーションだけど、私はこの場所にある桜の木がお気に入りだ。
陽当たりは良くないのに学校内にある桜の中で、ここだけ見事な咲っぷりを見せてくれる。
1年ぶりにこの下に立ち、私は1年間片想いしている彼に想いを伝えるのだ。
「いきなりごめんな。えーと、、、あっ、私、西島菜月《にしじまなつき》です」
私は軽く深呼吸をして、
「あんな、私な一年生の球技大会の時に河合くんのジャンピングサーブを見てから、ちょっと気になってました」
と、ちょっと気になってたレベルではないのだけれど、この1年の想いをやっとの思いで吐き出した。
球技大会の時、隣りのコートでバレーボールの試合が行われていて、彼が思い切りジャンプし、体をくの字に反り返らせながら、宙に浮かんだボールをしなやかに床に叩き落とした、そのフォームがとても美しくて、その一瞬で恋に落ちてしまったのだ。
「喋ったことないし、私のこと知らんと思うけど、、、」
「あー、でも、部活してるとこ、たまに友達と見に来てなかった?名前は知らんかったけど、何となく顔は覚えてた」
時々、唯とこっそり見に行ってたのがバレてたと知って恥ずかしくなった。
「西島さんとその友達、何となく雰囲気似てるし、
目がクリっと大きくて、、、俺が飼ってるシーズーにちょっと似てるなと思っててん。
なんか、今までバレーボールばかりしてて、恋とか付き合うとか、よくわからんのやけど、とりあえず友達になれへん?」
私はシーズーってかわいいけど、鼻ぺちゃ犬の代表よなと思いながらも、彼が拒否せずに向き合ってくれたことが嬉しかった。
「あっ、はい。バッサリ切られたらどうしようと思ってたけど、なんか、ありがとう。もちろん、友達からでよろしくです」と、私は緊張で口の中がカラカラになりながら答えた。
その時ハラハラと桜の花びらが彼の肩に落ちてきたのだ。
「俺も何言われるんやろうとめっちゃ緊張してたから、口から心臓が飛び出たかと思ったわ」
と肩に付いた小さなピンクのハートを私に見せながら笑った。
私は彼の屈託のない笑った顔を見て、なんだか胸の奥がジーンとした。涙が出そうになり慌てて上を向いたら、雲一つない真っ青な空が見えた。
やっぱり今日は無敵だな。
私はこの先、何年経っても今日見た、この青さを忘れないと思った。
君のその屈託のない笑顔とともに。
それから、私たちは河合くん、西島さんと呼び合う仲から、中学3年生になる頃には菜月、陽|《はる》と呼び合う関係になっていた。
ケンカもたくさんしたし、笑って泣いて、またケンカして。
いつしか私の隣りには、陽|《はる》がいることが当たり前になっていたし、お互いがそう思っていた。
私はとても幸せで、まだまだ子どもだったけれど、
こんな穏やかな日々がこれからもずっと続くと思っていた。
だけど、自分から始めた物語なのに私が壊してしまったんだ。
君と二度と会えなくなるまでにーーーーーー
クラス分けの掲示板に君の名前を見つけた時、私は今日、君にこの1年の想いをぶつけようと決心した。
なぜかその日の私は無敵な気分で、大好物のオムライスもずっと我慢して願掛けをしていたし、毎朝観ている情報番組の運勢占いで、しし座が1位だったからイケる気がしたのだ。
少し緊張しながら2-Cの教室に入ると、幼稚園からの幼馴染の澤田唯|《さわだゆい》が両手を広げて走ってきた。
「なっちゃん、私らまた同じクラスやで!」
そうだった。私は君の名前、河合陽樹《かわいはるき》ばかりを目で追っていて、それ以外の名前は目に入ってこなかったので、唯の名前に気づいてなかった。
幼馴染の唯も一緒だと思うと、さらに無敵感が増した気がする。
私は教室に入ってから、唯と同じクラスになったことを初めて知ったのを微塵も態度に出さないで、
少し高めの声で、
「うん!めっちゃうれしい。何やったら卒業まで同じクラスでおりたいよな」
と2人で手を取り合って喜んだ。
「ほんで、あのミッションはいつなん?」
と唯が、鼻を膨らませて聞いてくる。
子どもの頃から、興味があることに対しては鼻が膨らむのが癖なのだ。
当の本人は気づいてないけれど。
唯には、彼のことをずっと相談していたので、いつか来るべき日に思いを伝える告白=ミッションと2人の間で名付けていた。
私は間髪入れず、「今日やで」と力強く答える。
「えーーーーー!」
ますます鼻を膨らませた唯のすっとんきょうな声が教室中に響き渡った。
◇
ミッションは、呼び出して想いを伝えると決めていた。知っているのは名前だけで、彼の連絡先も知らないし、SNSは何もしてないみたいなので。
ホームルームが終わったあと、何度も口から出そうになる心臓を飲み込みながら、私は彼に近づいた。
「あっ、河合くん、あの、ちょっと話したいことがあるんやけど、ちょっといい?」
急に話しかけられてびっくりしたのか、少しオドオドしながら、
「部活に行かなあかんから、少しだけやったらいいで」
と少しぶっきらぼうに、私の方を見ずに言った。
2人並んで体育館の方まで歩いたけれど、その間一言も会話はなしで、彼が今どんな表情をしてるのかチラ見する余裕も、今の私にはなかった。
教室を出る時、唯が両手をグーにして、声には出さずに、ガンバレのエールを送ってくれたのが嬉しかった。
告白の場所=体育館の裏。
何ともベタなシチュエーションだけど、私はこの場所にある桜の木がお気に入りだ。
陽当たりは良くないのに学校内にある桜の中で、ここだけ見事な咲っぷりを見せてくれる。
1年ぶりにこの下に立ち、私は1年間片想いしている彼に想いを伝えるのだ。
「いきなりごめんな。えーと、、、あっ、私、西島菜月《にしじまなつき》です」
私は軽く深呼吸をして、
「あんな、私な一年生の球技大会の時に河合くんのジャンピングサーブを見てから、ちょっと気になってました」
と、ちょっと気になってたレベルではないのだけれど、この1年の想いをやっとの思いで吐き出した。
球技大会の時、隣りのコートでバレーボールの試合が行われていて、彼が思い切りジャンプし、体をくの字に反り返らせながら、宙に浮かんだボールをしなやかに床に叩き落とした、そのフォームがとても美しくて、その一瞬で恋に落ちてしまったのだ。
「喋ったことないし、私のこと知らんと思うけど、、、」
「あー、でも、部活してるとこ、たまに友達と見に来てなかった?名前は知らんかったけど、何となく顔は覚えてた」
時々、唯とこっそり見に行ってたのがバレてたと知って恥ずかしくなった。
「西島さんとその友達、何となく雰囲気似てるし、
目がクリっと大きくて、、、俺が飼ってるシーズーにちょっと似てるなと思っててん。
なんか、今までバレーボールばかりしてて、恋とか付き合うとか、よくわからんのやけど、とりあえず友達になれへん?」
私はシーズーってかわいいけど、鼻ぺちゃ犬の代表よなと思いながらも、彼が拒否せずに向き合ってくれたことが嬉しかった。
「あっ、はい。バッサリ切られたらどうしようと思ってたけど、なんか、ありがとう。もちろん、友達からでよろしくです」と、私は緊張で口の中がカラカラになりながら答えた。
その時ハラハラと桜の花びらが彼の肩に落ちてきたのだ。
「俺も何言われるんやろうとめっちゃ緊張してたから、口から心臓が飛び出たかと思ったわ」
と肩に付いた小さなピンクのハートを私に見せながら笑った。
私は彼の屈託のない笑った顔を見て、なんだか胸の奥がジーンとした。涙が出そうになり慌てて上を向いたら、雲一つない真っ青な空が見えた。
やっぱり今日は無敵だな。
私はこの先、何年経っても今日見た、この青さを忘れないと思った。
君のその屈託のない笑顔とともに。
それから、私たちは河合くん、西島さんと呼び合う仲から、中学3年生になる頃には菜月、陽|《はる》と呼び合う関係になっていた。
ケンカもたくさんしたし、笑って泣いて、またケンカして。
いつしか私の隣りには、陽|《はる》がいることが当たり前になっていたし、お互いがそう思っていた。
私はとても幸せで、まだまだ子どもだったけれど、
こんな穏やかな日々がこれからもずっと続くと思っていた。
だけど、自分から始めた物語なのに私が壊してしまったんだ。
君と二度と会えなくなるまでにーーーーーー

