文化祭が近づき、校舎全体がまるで蜂の巣を叩いたように騒がしくなる中、僕と紫は相変わらず教務室にいた。外では机がぶつかり合う音、飴玉を舐める音、誰かが壁に描いた落書きの色鉛筆の擦れる音が合唱のように響いていた。けれどもここは異世界の入口みたいに静かで、窓の向こうで木々が風に揺れる音すら、まるで遠い国の祝祭の拍手のように聞こえた。
紫は机に伏せた顔をちょっとだけ上げ、眉間に迷彩柄のような影を落としている。僕は彼女を見て、思わず「そうか、文化祭って騒がしいものなんだ」と、人生の重大な発見をしたかのような気分になった。
「先生、この封筒、誰に渡すんでしたっけ?」
彼女の声は、まるで小鳥が豆電球の光の下でさえずるみたいに小さく、でも確実に僕の耳に届く。
「えっと……ああ、これは美術部の顧問に。だけど封筒の中身は、ほら、誰にも見せちゃいけないやつだ」
「なるほど……禁断の書類ですね」
紫は小さく笑った。笑ったのはいいが、笑い声の響きが少しだけ不思議で、空中で踊る金粉みたいに僕の目にちらついた。
廊下の喧騒が、徐々に僕たちの静謐な世界の壁を押し広げては押し戻される。まるで文化祭の熱気と僕たちの時間とが、透明なバネでつながっているような気がした。僕はそのバネに軽く触れた指先の感触を楽しむしかなかった。