◇◇◇
数日後、龍介さんたちも同じく日本に戻ってきたようだった。
日本に戻ってきてからというもの、空き時間ができたと言っては、なにかにつけて電話をくれる。家から電話をくれる時は、電話の向こうでピアノを弾いてくれるときもあって、ハワイで作った曲の歌詞を一緒に考えることもある。
それでもやっぱり龍介さんと話せるのは、長くても一度に数分。年末からツアーが始まることもあり、年末に集中する歌番組の収録もあり、リハーサルもあり、龍介さんのスケジュールは二月ごろまではまともなオフがないと言っていたことを思い出す。
ハワイでは毎日一緒にいたけれど、日本に戻ってからは会えない日々が続いている。でも、龍介さんの優しい声で「綾乃」と呼ばれるたびに、胸が音を立てる。それは、今日も同じ。
「綾乃? ねえ、聞いてる?」
時々わざと黙って、龍介さんに名前を呼んでもらうのは内緒。
「はい。リハーサル、お疲れ様でした」
「うん。これから放送。綾乃、見れそう?」
「まだお仕事なんです。新曲、聞きたいんですけど」
「そっか。綾乃、それとさ……」
「あ、龍介さんごめんなさい。仕事の電話が」
「ああ。俺も、そろそろ行かなきゃ」
「はい。いってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
龍介さんとの電話を切り、仕事用のスマホを耳にあてて急いでオフィスフロアに戻る。
パソコンを開けば、また会食の調整依頼。卓也の秘書の仕事はその九割が調整事で、電話とメールをしているだけで一日が終わるほどだった。
毎日のように入る会食とミーティングのスケジュールの調整。卓也のコンサルティング会社やディアブロ社を行き来する毎日。
卓也の役員室で会食のスケジュールを調整していると、目を輝かせて卓也が部屋に入ってきた。電話を終えたわたしに、得意げな笑みを向ける。
「今度の木曜日、夜のスケジュールは?」
「木曜日なら二十時から会食の予定が入っています」
「あれ、そうだっけ。どこ?」
「フラッグの方々です。ディアブロの顧客管理システムを現在提案されている」
「よし、それリスケ。別の会食が入ったから」
「別の? そんなに大切な?」
卓也の希望通りにスケジュールを調整するのが自分の仕事だとはわかっていても、毎度毎度そう簡単にスケジュールを変更されれば、反抗の一つもしてみたくなる。
そういう思いを込めて睨んだのに、卓也はこちらの意を介さず、わざとらしいくらい大きく頷いて見せた。
「……リスケの件はかしこまりました。調整いたします。その他には——」
「それより! 今度の会食相手はすごいぞ」
「……それはなによりです」
「もっと興味持てよ。芸能人だぞ」
「なにより、です」
「聞いたら絶対に驚くから。一緒に連れて行ってやるよ」
「結構です」
「社長と先方で盛り上がったらしくてさ、秘書同席なんだって」
「なんでまた」
もうちょっとで面倒くさいという言葉が出そうになって、慌てて口をつぐむ。いくら相手が卓也でも、わたしは秘書。上司の打ち合わせや会食に同席することも仕事のうちだ。
数日後、龍介さんたちも同じく日本に戻ってきたようだった。
日本に戻ってきてからというもの、空き時間ができたと言っては、なにかにつけて電話をくれる。家から電話をくれる時は、電話の向こうでピアノを弾いてくれるときもあって、ハワイで作った曲の歌詞を一緒に考えることもある。
それでもやっぱり龍介さんと話せるのは、長くても一度に数分。年末からツアーが始まることもあり、年末に集中する歌番組の収録もあり、リハーサルもあり、龍介さんのスケジュールは二月ごろまではまともなオフがないと言っていたことを思い出す。
ハワイでは毎日一緒にいたけれど、日本に戻ってからは会えない日々が続いている。でも、龍介さんの優しい声で「綾乃」と呼ばれるたびに、胸が音を立てる。それは、今日も同じ。
「綾乃? ねえ、聞いてる?」
時々わざと黙って、龍介さんに名前を呼んでもらうのは内緒。
「はい。リハーサル、お疲れ様でした」
「うん。これから放送。綾乃、見れそう?」
「まだお仕事なんです。新曲、聞きたいんですけど」
「そっか。綾乃、それとさ……」
「あ、龍介さんごめんなさい。仕事の電話が」
「ああ。俺も、そろそろ行かなきゃ」
「はい。いってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
龍介さんとの電話を切り、仕事用のスマホを耳にあてて急いでオフィスフロアに戻る。
パソコンを開けば、また会食の調整依頼。卓也の秘書の仕事はその九割が調整事で、電話とメールをしているだけで一日が終わるほどだった。
毎日のように入る会食とミーティングのスケジュールの調整。卓也のコンサルティング会社やディアブロ社を行き来する毎日。
卓也の役員室で会食のスケジュールを調整していると、目を輝かせて卓也が部屋に入ってきた。電話を終えたわたしに、得意げな笑みを向ける。
「今度の木曜日、夜のスケジュールは?」
「木曜日なら二十時から会食の予定が入っています」
「あれ、そうだっけ。どこ?」
「フラッグの方々です。ディアブロの顧客管理システムを現在提案されている」
「よし、それリスケ。別の会食が入ったから」
「別の? そんなに大切な?」
卓也の希望通りにスケジュールを調整するのが自分の仕事だとはわかっていても、毎度毎度そう簡単にスケジュールを変更されれば、反抗の一つもしてみたくなる。
そういう思いを込めて睨んだのに、卓也はこちらの意を介さず、わざとらしいくらい大きく頷いて見せた。
「……リスケの件はかしこまりました。調整いたします。その他には——」
「それより! 今度の会食相手はすごいぞ」
「……それはなによりです」
「もっと興味持てよ。芸能人だぞ」
「なにより、です」
「聞いたら絶対に驚くから。一緒に連れて行ってやるよ」
「結構です」
「社長と先方で盛り上がったらしくてさ、秘書同席なんだって」
「なんでまた」
もうちょっとで面倒くさいという言葉が出そうになって、慌てて口をつぐむ。いくら相手が卓也でも、わたしは秘書。上司の打ち合わせや会食に同席することも仕事のうちだ。


