シンデレラ・スキャンダル

「で、結局、別のところ泊まってたんだって?」

 目の前でカップを傾ける男は、薄い笑みを浮かべてこちらを見ている。

「そうよ」

「わざわざ別のホテルとったの? あのオーナーそんなに嫌だった?」

 心配する素振りも見せずに面白そうに笑って、そう投げかけるこの男は、やっぱり今までと変わらない。

「行っちゃえば良かったのに。綾乃は堅すぎるんだよ。あの人、金は持ってんじゃない? いくつもああいう別荘持ってるみたいだし。ハワイで豪遊できたかもよ」

「……そういうのは、いらない」

「つまんないねえ。ハワイまで行ったのに」

「わたしは、嫌だったの。彼の態度も、下心のある目つきも、何もかも」

「遊ぶくらいどうってことないだろ」

 伝わらない。どうしたって分かり合えないものがある。必死になってその基準に合わせようとしていたけれど、もうそれはできない。

 目の前に座る卓也の顔を見つめた。

「で、ホテルはいくらかかった? オーナーに払った二十万と一緒にだしてやるよ」

 まるで施しを与えるかのように、無造作な声と言葉。卓也にとって、金で解決できない問題などないのだろう。

「いらない」

 拒絶の言葉に、卓也は一瞬、眉をひそめる。

「……は?」

「いらない。飛行機代も払うわ」

「なに、どうしたの。飛行機代なんか別にいらないよ? たかが知れてるだろ」

 卓也は、苛立ちを隠そうともせず、声を荒げる。まるで、わたしが面倒な意地を張っているだけだとでも言いたげな口調で。

「わたしのお給料、全部、飛行機代に充てて」

「綾乃、いい加減にしろ。意地張らずに金くらい受け取れよ」

 さらに強い口調でそう告げると、乱暴に財布から二つの札束を取り出し、わたしの前にある木製のテーブルに投げつけた。分厚い札束が、鈍い音を立てて滑る。

「で、ホテル代は? いくら?」

 目の前の瞳が、再び鋭い光を放ち、こちらを射抜くように向けられる。

「……ホテルには泊まってない」

 かつては、この鋭い眼差しに射抜かれるのが怖くて、この男が言うこと全てに頷き、自分の感情を押し殺してきた。卓也の理想とする女性になろうと、背伸びをし続けた日々を思い出して、喉が張り付くように苦しくなる。

「飛行機で出会った人と一緒にいたの」

 卓也は、一瞬、大きく目を見開いた。しかし、すぐにその表情は険しいものに変わる。