シンデレラ・スキャンダル



 エレベーターが滑らかに四十五階に到着し、ドアが開くと、そこにはディアブロの本社役員フロアが広がっていた。

 目に入るのは、重厚な革張りのソファがいくつも配置された応接スペースと、計算されたかのように薄暗い照明。まるで高級ホテルのラウンジか、選ばれた者だけが入ることを許された秘密クラブのような雰囲気だ。

 ディアブロというその名にふさわしく、空間全体が張り詰めた静寂に包まれている。わたしが以前勤めていた、賑やかで活気のある会社とは全く違う。そこにあるのは、どこか無機質で、人の生活感や感情の気配を徹底的に排除したかのような、冷たい美しさ。

 ダークブラウンの木製ドアを開き、卓也は軽く顎をしゃくってわたしを促した。

「どうぞ」

 後ろで「カチャリ」という重い音がしてドアが閉まる。その瞬間、急に室内の空気が濃密になったように感じた。そして、背中に熱を感じた。卓也が、いつの間にかわたしとの距離を詰めていたのだ。

「っ……!」

 反射的に身構える間もなく、大きな手がわたしの腕に伸びてくる。そして、まるで獲物を囲い込むかのように、その指先が肘から肩へと滑り上がり、そのままわたしを自分の方へ引き寄せようとする。その体温が、わたしの薄いブラウス越しに伝わってくる。

「やめて」

 振り向きざまに、腕を強く振り払う。弾かれたように距離を取ったわたしを、卓也は不思議そうに見つめた。瞳には、ほんのわずかな戸惑いと、それ以上に、わたしの行動が理解できないとでも言いたげな困惑が浮かんでいる。その表情は、まるでわたしが理不尽な駄々をこねているとでも言いたげだった。

「久しぶりに会ったんだから、ハグぐらいさせてよ」

「仕事に来たの。あなたは役員で、わたしはただの秘書よ」

「本当にいつまでもお堅いんだから」

 そう言って、肩をすくめた卓也は一階で買ってきた、有名店のロゴが入った紙袋からコーヒーを取り出してテーブルに置いた。香ばしい豆の香りが、少し冷えた空気に広がる。

 そして、卓也は応接室の中央に据えられた、茶色の革張りのソファに悠然と腰を下ろした。深く腰掛け、肘掛けに片腕を乗せ、リラックスした様子でわたしを見上げる。

「まあ、座りなよ」

 その仕草一つ一つが、この場所、この状況を支配しているようだ。それでも、わたしはその視線から逃げることなく、部屋の片隅にある、硬いファブリックの椅子に浅く腰掛ける。