シンデレラ・スキャンダル

 駅に向かうみんなと別れてわたしが向かったのは、オフィスビル。花束とプレゼントの入った紙袋を両脇に抱え、真っ暗になったビルの前に立った。

 二十二時を過ぎ、とっくに締められた正面玄関は、重厚な扉を閉ざして静まりかえっている。いつも使っていた裏口は、この巨大なビルの一角にひっそりと隠れている。かつては、まるで自分の部屋の勝手口のように、何度も足を踏み入れた場所だ。

 二十五階の窓を見上げた。

 終電を逃し、誰もいなくなったフロアで仮眠を取り、そのまま朝を迎えた日々のこと。厳しいプロジェクトで、悔しさのあまり人気のないトイレの個室で声を殺して泣いた夜のこと。

 そして、みんなと喜び合って笑いあった、かけがえのない瞬間。数えきれないほどの記憶が、洪水のように心の奥底から蘇ってくる。


 心が空っぽになり、生きる目的さえ見失いかけていた。感情を押し殺し、完璧な鎧を身に着けて必死に戦うことでしか自分自身を守ることができなくて。そんなわたしに役割を与えてくれたのが、この会社だった。唯一、前を向いて進み続けることができた場所。

 でも、もうあの頃の自分ではない。鎧を着て、自分を欺き、守る必要はない。

 今、ここに、自分の足でしっかりと立っているから。

「……本当に、ありがとうございました」

 ビルに向かって頭を下げると、冷たく澄んだ夜風が吹き抜けていく。

「よし」

 顔を上げ、息を一つ吐き出す。ビルを背にして踏み出した一歩は、信じられないほど軽やかだった。