シンデレラ・スキャンダル

 会話が途切れたのを見計らったかのように、ノックの音と同時に優くんの声が響いた。

「龍介さん、起きてます? 優斗です」

 龍介さんと顔を見合わせて、お互いに起き上がる。ベッドからするりと降りてドアに向かえば、再び耳に届く丁寧なノックの音。

 その音に急かされるように慌ててドアを開けるけれど、身なりの整っていない身体を晒すわけにもいかず、開いたドアの隙間から顔を出した。

「優くん、おはよう」

「ああ、おはよう。龍介さんは? 寝てる?」

 答えようとした瞬間、後ろから龍介さんの手が伸びてきたようで、頭に手が置かれた。わたしの上から同じように、ドアの向こうに顔を出した彼は、「優くん、なんですか?」と高い声を出す。

 わたしの真似をしておどける龍介さんに、優くんは顔を綻ばせて「あはは」と大きな声をあげた。

「買い物行こうと思って。徹さんと畑中さんと。一緒に行きません?」

「ああ、じゃあ着替えるわ。下で待ってて」

「はい」

 龍介さんは着替え終わった後、いつものようにわたしに黒い帽子を被せて自分も同じように帽子を被った。そして、「行こうか」と言って当たり前のようにわたしの手を握って歩き出す。

 だから、モールに向かうタクシーの中で畑中さんが「リュウ、わかってると思うけど」と言いだした時は、なんの話なのか予想もしていなかった。

「モールは日本人がそれなりにいると思うから、綾乃ちゃんと手繋ぐのはここまでな」

「ああ」

 畑中さんの冷静な声に、心臓が冷える。龍介さんの指から、ゆっくりと力が抜けていくのが分かった。離れたくない。そう願って握り返そうとしたけれど、彼の立場を思い出して、わたしも指の力を緩める。

 するり、と彼の手が離れていく。最後に指先だけが触れ合って、それも途切れた瞬間、急に手のひらが寒くなった。

「……ごめんね」

 小さく呟く彼の声が、さっきまでより遠く聞こえる。