◇
パーティーの後片付けをして食器をしまっていると、近づいてきた龍介さんがわたしでは手の届かない分を何も言わずにしまってくれる。
「ありがとうございます」
「片付けほとんどやってもらっちゃってごめんね。ありがとう」
「賑やかでしたね」
「俺、結構酔っぱらった」
後ろから覆いかぶさるように、ずしりと重みがかかる。
「ん……綾乃……」
首筋に、熱いお酒の混じった吐息がかかる。彼はわたしの肩に頭を預け、完全に脱力しているみたいだ。普段は穏やかで大人な彼が、わたしにだけ見せる無防備な姿。その重みが愛おしくて、わたしは洗い物の手を止めて、お腹に回された腕に自分の手を重ねた。
「あ、結局、三人がここに泊まることになったから。優斗と徹と、スタッフの畑中ね」
「高校からのお付き合いって龍介さんがおっしゃっていた方が畑中さんなんですね」
「そうそう。腐れ縁」
「ふふ。みなさん本当に仲良しですね」
「仲は本当にいいね」
彼の胸に耳を当てているから、声が震えるようにして伝わってくる。この声もこの温もりも、いつの間にか聞き慣れて、肌に馴染んでしまった。
彼の腰に手を回して、更に体を近づける。
「綾乃?」
「はい」
「驚かせて本当にごめんね」
その声が本当に申し訳なさそうで、わたしはすぐに首を横に振る。すると、わたしを包む龍介さんの腕に力が込められた。
「何も変わらないから」
彼は、心からそう信じている瞳でわたしを見る。
「……はい」
その純粋さが、今は痛い。あなたが変わらなくても、世界はそれを許さない。わたしが知ってしまった現実は、もう消せないのに。
「好きだよ」
耳元で囁かれたその言葉は、甘い毒のように胸に広がり、わたしを動けなくさせる。嬉しい。けれど、それ以上に怖い。その言葉が、わたしをこの場に縛り付け、逃げることさえ許してくれないから。
彼は、音楽業界でトップを走り続けるLegacyのボーカル。名前を聞いたこともある。姿を見たこともある。それでも、トレードマークのサングラスもせず、坊主頭でもない彼にわたしは気付くことができなかった。
芸能人と出会って恋に落ちるなんて、天地がひっくりかえってもあり得ないと思っていた。それなのに、どうして出会ってしまったのだろう。どうして六年ぶりの恋が彼なのだろう。
これが夢だったら。もしもこれが夢なら、どうか、わたしを現実に引き戻して。そうでないと、わたしは壊れてしまう。
耳元で囁かれる甘い言葉も、わたしを見つめるその優しい瞳も、きっと夢を見ているのだと何度も言い聞かせて。彼の温もりを感じながら、わたしは静かに目を閉じた。
パーティーの後片付けをして食器をしまっていると、近づいてきた龍介さんがわたしでは手の届かない分を何も言わずにしまってくれる。
「ありがとうございます」
「片付けほとんどやってもらっちゃってごめんね。ありがとう」
「賑やかでしたね」
「俺、結構酔っぱらった」
後ろから覆いかぶさるように、ずしりと重みがかかる。
「ん……綾乃……」
首筋に、熱いお酒の混じった吐息がかかる。彼はわたしの肩に頭を預け、完全に脱力しているみたいだ。普段は穏やかで大人な彼が、わたしにだけ見せる無防備な姿。その重みが愛おしくて、わたしは洗い物の手を止めて、お腹に回された腕に自分の手を重ねた。
「あ、結局、三人がここに泊まることになったから。優斗と徹と、スタッフの畑中ね」
「高校からのお付き合いって龍介さんがおっしゃっていた方が畑中さんなんですね」
「そうそう。腐れ縁」
「ふふ。みなさん本当に仲良しですね」
「仲は本当にいいね」
彼の胸に耳を当てているから、声が震えるようにして伝わってくる。この声もこの温もりも、いつの間にか聞き慣れて、肌に馴染んでしまった。
彼の腰に手を回して、更に体を近づける。
「綾乃?」
「はい」
「驚かせて本当にごめんね」
その声が本当に申し訳なさそうで、わたしはすぐに首を横に振る。すると、わたしを包む龍介さんの腕に力が込められた。
「何も変わらないから」
彼は、心からそう信じている瞳でわたしを見る。
「……はい」
その純粋さが、今は痛い。あなたが変わらなくても、世界はそれを許さない。わたしが知ってしまった現実は、もう消せないのに。
「好きだよ」
耳元で囁かれたその言葉は、甘い毒のように胸に広がり、わたしを動けなくさせる。嬉しい。けれど、それ以上に怖い。その言葉が、わたしをこの場に縛り付け、逃げることさえ許してくれないから。
彼は、音楽業界でトップを走り続けるLegacyのボーカル。名前を聞いたこともある。姿を見たこともある。それでも、トレードマークのサングラスもせず、坊主頭でもない彼にわたしは気付くことができなかった。
芸能人と出会って恋に落ちるなんて、天地がひっくりかえってもあり得ないと思っていた。それなのに、どうして出会ってしまったのだろう。どうして六年ぶりの恋が彼なのだろう。
これが夢だったら。もしもこれが夢なら、どうか、わたしを現実に引き戻して。そうでないと、わたしは壊れてしまう。
耳元で囁かれる甘い言葉も、わたしを見つめるその優しい瞳も、きっと夢を見ているのだと何度も言い聞かせて。彼の温もりを感じながら、わたしは静かに目を閉じた。


