テラスの声が少しだけ届く場所で、ゆっくりと屈んで目の前で動く水面を見つめた。あの場所にいるのは、龍介さんと繋がりのある特別な人たち。
まだ少しだけ熱を持つ砂浜に手を置いて目を閉じると、遠くから近づいてくる足音が聞こえた。その方向に視線を向けると、そこにはいつもとは違う人の姿。
「キレイだね、サンセット」
そう言いながら優くんはわたしの隣にしゃがみこみ、同じように海に視線を向ける。
白い滑らかな肌にさらさらと流れる髪。Legacyの中でも少し毛色の違う彼。リアル王子様、だったっけ。
「うん。本当に綺麗」
「……綾乃さ、龍介さんのこと知らなかったの?」
優くんは、真っ直ぐズバッと核心に触れるタイプらしい。優くんの方に顔を向ければ、真剣な眼差しとぶつかった。どんな顔をすればいいのかわからなくて、少しだけ俯いて首を縦に振る。
「……サングラスに坊主頭の姿しか知らなかったから」
「もう五年前ぐらいから髪伸ばしてるけど、そのイメージ強いよね」
「……そうなんだ」
「普通の女の子ならさ、相手が龍介さんなんて騒いで喜びそうなところだけど。綾乃はさ、芸能人は好きじゃない?」
「ううん、そういうわけじゃないよ」
「じゃあ、黙っていたことがショックだったの?」
問いかけに対して首を横に振る。黙っていたことにショックを受けたわけじゃない。芸能人だから嫌だとかそういうことでもなくて。
ただ、彼との夢の日々に突然現実を突き付けられたから、全てをすんなりと受け入れられないだけ。
「終わっちゃうんだなって」
「……なにが?」
「旅行が」
「……旅行、ね」
彼は短く繰り返して、こちらをじっと見つめた。その瞳の奥に、「終わるのは旅行だけじゃないんでしょ?」という問いかけが見える。全部、お見通しだ。でも、彼はそれ以上追及せず、ふっと視線を海に戻した。その沈黙が、逆に優しかった。龍介さんが彼を可愛がる理由が、分かった気がした。
「あと三日で終わっちゃうから……」
「もうちょっといられないの? せっかく俺たちも合流できたのに」
「お仕事があるの。戻ったら新しい職場に行かなくちゃ」
「綾乃はなんの仕事してるの?」
「今は社長秘書。次も秘書」
「社長秘書って格好いいな」
「ふふ、格好いいかな」
「そっか。もっと早く来てたら綾乃ともっと話せたのに。でも龍介さんは俺らが遅れて喜んでたけど」
優くんの顔を見ると、彼もこちらを見ていて意味ありげな視線を送りながら唇の端を持ち上げている。
「龍介さんがめちゃくちゃ嬉しそうに話すんだよ。龍介さんって落ち着いている感じに見えるけど、なんでも顔に出るタイプだから。感情もストレートだしね。まあ、飛行機で出会った子が泊まってるって聞いたときは、俺たちも結構びっくりしたけど」
「そう、だよね」
「話を聞いてさ、運命ってあるんだなって思った」
「運命?」
「綾乃、友達と来るはずだったんでしょ?」
「……うん」
「それが一人になって、龍介さんと二度も偶然出会って。龍介さん、急に決めたから飛行機キャンセル待ちだったんだよ。で、キャンセルが出たからあの飛行機になったの。それ綾乃の友達分ってことじゃない?」
そういえば、龍介さんもそんなことを言っていたかもしれない。卓也が来なかったから、龍介さんがあの飛行機に乗ってきて、そしてわたしの隣に座った。隣の席だったから話すことになって、怖がるわたしに帽子を貸してくれた。
帽子を被っていたから、あのスーパーでわたしを見つけて助けてくれた。なにかが一つでも違っていたら、わたしたちは出会わなかったかもしれない。こんな風に一緒に過ごすことなんて、なかったかもしれない。
まだ少しだけ熱を持つ砂浜に手を置いて目を閉じると、遠くから近づいてくる足音が聞こえた。その方向に視線を向けると、そこにはいつもとは違う人の姿。
「キレイだね、サンセット」
そう言いながら優くんはわたしの隣にしゃがみこみ、同じように海に視線を向ける。
白い滑らかな肌にさらさらと流れる髪。Legacyの中でも少し毛色の違う彼。リアル王子様、だったっけ。
「うん。本当に綺麗」
「……綾乃さ、龍介さんのこと知らなかったの?」
優くんは、真っ直ぐズバッと核心に触れるタイプらしい。優くんの方に顔を向ければ、真剣な眼差しとぶつかった。どんな顔をすればいいのかわからなくて、少しだけ俯いて首を縦に振る。
「……サングラスに坊主頭の姿しか知らなかったから」
「もう五年前ぐらいから髪伸ばしてるけど、そのイメージ強いよね」
「……そうなんだ」
「普通の女の子ならさ、相手が龍介さんなんて騒いで喜びそうなところだけど。綾乃はさ、芸能人は好きじゃない?」
「ううん、そういうわけじゃないよ」
「じゃあ、黙っていたことがショックだったの?」
問いかけに対して首を横に振る。黙っていたことにショックを受けたわけじゃない。芸能人だから嫌だとかそういうことでもなくて。
ただ、彼との夢の日々に突然現実を突き付けられたから、全てをすんなりと受け入れられないだけ。
「終わっちゃうんだなって」
「……なにが?」
「旅行が」
「……旅行、ね」
彼は短く繰り返して、こちらをじっと見つめた。その瞳の奥に、「終わるのは旅行だけじゃないんでしょ?」という問いかけが見える。全部、お見通しだ。でも、彼はそれ以上追及せず、ふっと視線を海に戻した。その沈黙が、逆に優しかった。龍介さんが彼を可愛がる理由が、分かった気がした。
「あと三日で終わっちゃうから……」
「もうちょっといられないの? せっかく俺たちも合流できたのに」
「お仕事があるの。戻ったら新しい職場に行かなくちゃ」
「綾乃はなんの仕事してるの?」
「今は社長秘書。次も秘書」
「社長秘書って格好いいな」
「ふふ、格好いいかな」
「そっか。もっと早く来てたら綾乃ともっと話せたのに。でも龍介さんは俺らが遅れて喜んでたけど」
優くんの顔を見ると、彼もこちらを見ていて意味ありげな視線を送りながら唇の端を持ち上げている。
「龍介さんがめちゃくちゃ嬉しそうに話すんだよ。龍介さんって落ち着いている感じに見えるけど、なんでも顔に出るタイプだから。感情もストレートだしね。まあ、飛行機で出会った子が泊まってるって聞いたときは、俺たちも結構びっくりしたけど」
「そう、だよね」
「話を聞いてさ、運命ってあるんだなって思った」
「運命?」
「綾乃、友達と来るはずだったんでしょ?」
「……うん」
「それが一人になって、龍介さんと二度も偶然出会って。龍介さん、急に決めたから飛行機キャンセル待ちだったんだよ。で、キャンセルが出たからあの飛行機になったの。それ綾乃の友達分ってことじゃない?」
そういえば、龍介さんもそんなことを言っていたかもしれない。卓也が来なかったから、龍介さんがあの飛行機に乗ってきて、そしてわたしの隣に座った。隣の席だったから話すことになって、怖がるわたしに帽子を貸してくれた。
帽子を被っていたから、あのスーパーでわたしを見つけて助けてくれた。なにかが一つでも違っていたら、わたしたちは出会わなかったかもしれない。こんな風に一緒に過ごすことなんて、なかったかもしれない。


