シンデレラ・スキャンダル

 みんなの前に戻ると、もう一度挨拶をやり直した。仕事のときのように笑顔を張り付けて、頭を下げる。

 龍介さんが一つ椅子を持ち出して、当たり前のように自分の左隣に置いてわたしの名前を呼ぶ。そこに座ってテーブルを見渡せば、Legacyのメンバーがそこを囲む。あまりにも非現実的な光景に少し意識が遠のきそうになる。

 すると、左側に座る優斗さんがわたしの顔を覗き込んだ。

「俺と同い年なんだって」

「あ、そうなんですか」

 栞ちゃんに何度も何度も聞かされたから、なんなら復唱させられたから、本当は年齢ぐらいなら知っている。あんなに可愛い栞ちゃんが目を輝かせながら、まるで恋する乙女状態であなたのことを話すから。

 そんな人が目の前にいるなんて、こんな非現実的なことなんてあるだろうか。

「うん。綾乃ちゃん、でいい?」

「……呼び捨てでも、なんでも」

「じゃあ、遠慮なく。うん、綾乃」

 その端整な顔に似合わず、淡々とした口調で顔を崩さずにわざとらしくわたしの名前を呼ぶから、思わず噴き出した。すると、「やっと笑った」と、綺麗な笑顔が目の前で弾ける。

「俺は同い年だし、敬語はいらないよ。俺も使わないから」

「はい」

「ほら、敬語」

「……うん。優斗くん、お酒同じのでいい?」

 空になりそうなグラスを見て、彼に尋ねてみたけれど、彼は首を横に振る仕草を見せる。

「優斗でいいよ。もしくは、優くん」

「優くんって。あはは」

「いいでしょ、優くん。ちょっと呼ばれたい」

 満足そうに、にやりと笑う彼に周りから笑いが起こる。そんな彼を龍介さんは、優しく見守るように見つめて笑っていた。

 龍介さんがボトルを傾けて優くんのグラスにワインを注ぎ始めると、明らかに恐縮した様子の横顔。二人の関係は不思議。仲間としてお互いに仲良く話しているかと思えば、時々優くんは後輩のような弟のような顔を見せる。


 それから少しずつ人が増えていった。勢い良く空いていくボトルたちに、大きくなっていく笑い声。バーベキューパーティーにも来た上原さんたちも参加して、リビングとテラスは人で溢れていく。

 飛び交う業界用語、音楽の話、次のツアーの話。彼らが熱く語り合えば合うほど、わたしの周りの空気だけが冷えていく気がする。龍介さんが、メンバーと話しながら豪快に笑う。その横顔は、わたしが知っている「穏やかな龍介さん」ではなく、何万人ものファンを熱狂させる「アーティスト・RYU」の顔だ。

 隣に座っているのに、彼との間に透明な分厚い壁があるみたい。一緒に笑っているはずなのに、自分の笑い声がその空間に浮かんでは消えていくよう。

 龍介さんと一緒に見たオレンジ色の光が今日も同じように降り注ぐけれど、その輪郭が滲んでいくから、瞳からそれが零れ落ちてしまう前に立ち上がり、逃げるようにして席を立った。庭を抜けて砂浜を進んでいく。